将棋は、一瞬の気持ちの揺らぎが勝負を左右する厳しい世界。また、頭脳を極限まで酷使する世界でもある。ただ、考え抜いてもいい手が浮かばないことも多々あるはず。そんなときはどうしているのだろうか。
「1968年、大山康晴一五世名人と対戦して勝ち、私が十段になったときのことです。この対局で、一手を指すために七時間考え抜き、勝利を収めることができました。実はこのとき、直感によって最高の手を見つけ出すことができました。『この手があった!』という明確な閃きではありませんでしたが、『長く考えたら、このあたりに必ずいい手があるはず』と直感したのです。
余談ですが、対局中に相手の側に回り込んで将棋盤を眺める『ひふみんアイ』も、『見方を変えれば何かあるはずだ!』という直感から生まれました(笑)」
将棋は、ロジカルな世界だとばかり考えていたが、加藤氏はあえて直感を大切にしているという。
「『直感精読』という言葉があるように、私は直感こそが本質を掴んでいると思います。なぜなら、直感は無心であり邪念がないからです。
むしろ、後から浮かんだ手というのは、私にしてみれば罠。『勝手読み』といって、自分の都合にいいように今後の展開を考える可能性が高いからです。そこには、どこか希望的観測やヌケモレがある。持ち時間を使って考えるならば、『この直感は果たして正しいのか』を検証したほうが有意義なのではないでしょうか。
ちなみに、羽生竜王はご著書で、直感は70%の確率で正しいと書いていました。ものすごく謙虚だと思いました。私の場合は、どんな対局でも盤面を見た瞬間に、95%くらいの確率で最善手が浮かびます」
更新:11月23日 00:05