ただ、この大山氏との一戦後、加藤氏は棋士として行き詰まりを感じたという。
「自分で納得のいく将棋が指せずに、棋士としての人生に展開がないのではないかと思い悩んでしまったのです。
そこで私は、かねてから興味のあったキリスト教の洗礼を受けることにしました。洗礼を受けて自分にバックボーンができてからは、気持ちがブレなくなりましたね。
というのも、キリスト教ではどんな仕事であってもいい意向を持って仕事をすれば、それをよしとすると教えられています。そして、仕事をするのならば、より上を目指しましょうとも教えているのです。これはどんな仕事でも同じでしょう。私もこの教えがあったからこそ、これまで将棋を続けられたのだと感謝してします。
あくまで私の例ではありますが、かねてより興味のあることを実行するのは、行き詰まった状況を打開し、自分の世界を変える一つの方法だと思いますので、ぜひ試してみてください」
さらに、棋士は天職だと確信を深められたことも、将棋を続けられた大きな要因だと語る。
「長い将棋人生を送っていると、名勝負に出合ったり、まだ誰も指したことのない美しい一手を見つけることがあります。これぞ、将棋の醍醐味でしょう。こうした感動を、一人でも多くの棋士や将棋ファンに伝えたい。そう考えたとき、私は棋士として存在意義を見出すことができました」
ただ、今は多くのビジネスマンが「転職」する時代。一方「天職」はなかなか見つけにくい。
「確かに、私の若い頃は転職する人は少なかったけれど、今はそれが普通の時代ですね。仕事を簡単に変えられることが、『これが天職だ』と言いにくくしているのかもしれません。私自身、洗礼を受けるまでは、曖昧模糊としたところがありました。
ただ、私は自分の指した対局が何百年経っても、後輩や将棋ファンの喜びにつながると信じているからこそ、棋士が天職であると考えています。みなさんも、自分の仕事が誰かの喜びにつながっているのであれば、その仕事を天職だと信じて、続けてみてはいかがでしょう」
更新:12月02日 00:05