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高血圧専門医が教える「ほんの少しの意識」で降圧が優位に進む2つの秘策

渡辺尚彦(高血圧専門医)

高血圧

高血圧専門医の渡辺尚彦氏は、血圧を下げるうえで重要なのは「ナトカリ比」だと指摘します。

ナトカリ比とは、「ナトリウム量÷カリウム量」で示される比率のことです。たとえ塩分摂取がやや多めでも、食塩に含まれるナトリウムを体外へ排出する働きをもつカリウムを十分に摂り、ナトカリ比を1未満に保てれば、血圧は上がりにくく安定しやすくなります。

一方で、カリウムが不足していると、高血圧のリスクが高まるだけでなく、脳卒中や心筋梗塞など重大な病気につながる可能性もあります。

本稿では、ナトカリ比を日常のちょっとした工夫で改善する方法について、書籍『血圧を下げるのに減塩はいらない! ナトカリ比であなたの血圧は下がる』より紹介します。

※腎機能がステージG3b以上に低下している方はカリウムを体外に排出しにくく、高カリウム血症など重篤なリスクがあるため、摂取は自己判断せず必ず医師の指示に従ってください。

※本稿は、渡辺尚彦著『血圧を下げるのに減塩はいらない! ナトカリ比であなたの血圧は下がる』(アスコム)より一部抜粋・編集したものです。

 

ほんの少しの意識でナトカリ比も血圧も改善!

私がほんの少しの意識でナトカリ比が改善できると考えるのは、実際に成功した研究結果があるからです。

2017年、東北大学などの研究グループは、宮城県登米市で約1万3000人を対象にした健康診断において、「尿中ナトリウム・カリウム比(ナトカリ比)」を測定し、その結果と、「塩分と野菜のバランスが血圧にどう影響するか」を知らせる取り組みを行ったのです。

要するに、健康診断に訪れた方のナトカリ比を調べ、「血圧を下げるためにはナトカリ比を改善しましょう」といった内容を伝えただけです。

そのあとに特別な指導は行っていません。

それでも、2017年には対象者のナトカリ比の平均が5.4だったのに、なんと翌年には4.9に改善したのです。

それにともない、収縮期の血圧も132.1mmHgから、130.9mmHgに下がりました。

この変化は、体重や飲酒などの影響を差し引いても残っており、単なる偶然や生活習慣の変動では説明できないことが示されています。

論文では、「数値を測り、説明して見せる」というシンプルな介入だけでも、人々の意識と行動を変え、結果的に血圧を下げる効果を持つ可能性があると報告しています。

女子栄養大学とカゴメ株式会社の共同研究も、興味深い結果を示しています。

若い女性43人を3つのグループに分けて、あらかじめ用意した次の料理を2週間食べてもらいました。

①普通の食事 ............. 食塩1日8.3g、カリウム1743mg
②減塩の食事 ............. 食塩1日6.5g、カリウム1743mg
③増カリウムの食事 ..... 食塩1日8.3g、カリウム3277mg

もっともナトカリ比が低下したのは、カリウムを増加したグループ③で、ナトカリ比は平均2.8から1.9に改善しました。なかでも実験前にナトカリ比が2以上だった女性ほど、低下幅が大きくなりました。

減塩食のグループ②もナトカリ比は下がりました(平均3.2→2.5)が、③ほどではありませんでした。

減塩も大切ですが、ほんの少しの意識をして、カリウムをより多く摂るだけで、ナトカリ比は改善し、血圧は下がっていくのです。とくに、いままでカリウムを意識していなかった人ほど、大きな効果が期待できます。

 

降圧を優位に進めるトラディショナルな秘策があった!

ナトカリ比について説明しただけでも血圧が下がる――。

しかし、もう一歩踏み込んであることをすると、さらに血圧は下がりやすくなる傾向にあります。

そのあることとは、毎日の記録をつけることです。

私自身も昔から記録(血圧手帳)をつけることの大切さを説いてきました。

なぜなら、患者さんの意識改革による血圧低下を見込めるだけでなく、医師が治療する際の資料としても非常に役立つからです。そして、それをもとにすることで、より効果的な改善策を提案できるようにもなります。

昨今のスマートフォンの普及にともなって、『高血圧管理・治療ガイドライン2025』でも、あらたにアプリなどのデジタル技術による血圧管理を推奨する運びとなりました。

血圧を測れば、その数値がデータとして自動で記録され、アプリによってはグラフまで作成してくれるので、とても便利な代物なのかもしれません。

ただし、私の個人的な意見としては、データを取っているというかたちだけで満足してしまうことに一抹の不安を覚えます。また、診察の観点でいえば、アプリの画面を見せられただけでは、電子カルテに反映させづらい問題もあります。

やはり、おすすめしたいのは手書きの血圧手帳です。

なぜ、手書きがいいのかというと、まず紙に書いてある内容を見ながら、お互いにゆっくり話し合うことができます。自分自身で記録しているので、そのときのことを思い出しやすいというメリットもあるでしょう。そして、診察しながら必要に応じてアドバイスなどを書き加えることができるのもいいところです。

以前、こんな患者さんがいました。

その人は、朝と夜に毎日欠かさずに血圧を測定していましたが、いつも夜の数値だけが異常に高かったので、私は気になって聞いてみました。

「いったい夜はどういうふうに血圧を測定しているの?」

すると返ってきたのは驚きの内容でした。

「ごはんを食べて、タバコを一服したあとに測っています」

異常な数値も話し合うことで理由がわかります。

もちろん、この患者さんには、すぐに測定方法を改めてもらいました。

このように、数字を見ただけではわからないことがたくさんあります。

ゆくゆくはアプリもアップデートして使い勝手がよくなるかもしれませんが、診察に活かすという意味では、当面は手書きの血圧手帳が優位でしょう。

 

プロフィール

渡辺尚彦(わたなべ・よしひこ)

医学博士、高血圧専門医、医学博士

日本歯科大学生命歯学部内科客員教授・同大学病院内科臨床教授、前東京女子医科大学東医療センター内科教授。専門は高血圧を中心とした循環器病。
1952年、千葉県生まれ。1978年、聖マリアンナ医科大学医学部卒業、1984年、同大学院博士課程修了。1995年、ミネソタ大学時間生物学研究所客員助教授として渡米。1987年8月から連続携帯型血圧計を装置し、以来、365日24時間血圧を測定。現在も引き続き連続装着記録更新中。高血圧改善のための生活上のポイントを「渡辺式血圧を低下10カ条」にまとめ、「渡辺式血圧を低下音頭」を作詞作曲するなど、楽しく、わかりやすい指導には定評がある。『血圧を下げる最強の方法』『ズボラでもみるみる下がる 測るだけ血圧手帳』(アスコム)など著書多数。

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