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「将棋界のレジェンド」が六十三年でたどりついた境地とは?

2018年04月10日 公開
2022年03月04日 更新

加藤一二三(将棋棋士)

「感動する力」が、将棋を続ける原動力

 加藤氏は、棋士として数々の記録を樹立してきた。ただし、これはあくまで一つの結果であり、記録のために棋士を続けてきたわけではないと指摘する。

「私を始め、多くの棋士は勝敗以上に、将棋の醍醐味や感動を大切にしている。だからこそ、将棋を指し続けているのです。

 かつて、C級2組に負けた名人が、『将棋をやめようかと思った』と発言していました。よもや負けるとは思っていなかったのでしょう。しかし、私からすれば、これは大変未熟な言動です。そもそも、将棋への敬意が感じられない。私は、将棋は音楽のように、人を感動させる芸術と同じようなものだと感じています」

 それでも、厳しい勝負の世界である以上、辛いこともたくさんあったはず。将棋をやめたくなったことはないのだろうか。

「将棋をやめたいと思ったことは一度もありません。よく、『戦い続けるのは苦しいのでは?』と質問されますが、棋士が勝負に夢中になれるのは、勝負自体に感動しているからです。もっと言えば、考えている中にこそ喜びがあり、楽しみがある。だから、私は一番いい手を考えているときが何より楽しいのです。単純な勝ち負けの問題ではありません。

 仕事も同じではないでしょうか。成功と失敗だけを尺度に仕事を続けていては、いつか行き詰まります。それよりも、夢中になれる仕事をしていきたいものです」

 

写真撮影 榊 智明

 

『THE21』2018年3月号より

 

『天才棋士 加藤一二三挑み続ける人生』(日本実業出版社)好評発売中

著者紹介

加藤一二三(かとう・ひふみ)

将棋棋士

1940年、福岡県生まれ。14歳で当時史上最年少の中学生プロ棋士に。58年、史上最速でプロ棋士最高峰のA級八段に昇段し、77歳で引退した現役最年長棋士(当時)。現役期間は最長不倒の63年と数々の記録を持つ。2000年、紫綬褒章を受賞。17年、「ひふみんアイ」で歌手デビュー。幅広く活躍中。

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