「高齢者の病気」「現役のうちは関係ない」というイメージの強い認知症。しかし、認知症の専門医で『一生稼げる脳の作り方』著者の長谷川嘉哉氏は、40代・50代から始まる脳の「年齢的な衰え」への対策や生活習慣病の予防が、将来の認知症罹患リスク低減にもつながると指摘する。
※本稿は、『THE21』2023年1月号特集「40代・50代から衰える脳 伸びる脳」より、内容を一部抜粋・編集したものです。
皆さんの中に、最近「あれ?(何だっけ?)」と思うことが多い、という方はいませんか。
職場での会議や何気ない雑談の際、パッと固有名詞が浮かばずに「あれ」や「それ」といった指示語で済ませてしまう。スーパーに立ち寄ったときも、冷蔵庫に何が残っていたかよく思い出せない。もし自分は大丈夫という方でも、親戚や同僚で1人くらい、思い当たる人がいることでしょう。
もちろん、年を重ねて脳の働きが落ちるのは自然なこと。しかしそれを放置すれば、脳の衰えは加速するばかりです。職務遂行能力に影響するようになれば、勤労意欲や人づきあい、将来の収入にも影響しかねません。
実は、現役の認知症専門医として患者さんと接していると、認知症になるか否かを分けているのは「意欲」や「社会とのつながり」ではないか、と思える瞬間が多くあります。
要するに「年齢的な脳の衰え」に抗い、生涯意欲的に活動することこそ、40代・50代の方が認知症を予防する一番の近道なのです。
それでなくとも、今や定年後も何かのかたちで稼ぎ続けていかなければ、とても安心できない時代。生涯誰かに必要とされ、意欲的に過ごすためにも、ぜひ「あれ?」という違和感を逃さず、一生使える脳を作るための習慣を始めてみてください。
そのためにぜひ注目していただきたいのが、脳の前頭前野が持つ「ワーキングメモリ」の重要性です。ワーキングメモリとは、ひと言で言えば「生産性」を司る部分。
入ってきた情報を一時保存し、脳に記憶されている他の情報と組み合わせることで、思考や判断、計算などの処理を行なっています。
例えば、取引先とのトラブル処理の際、過去の似た経験を思い出したり、社内の誰に助言を求めるか考えたり、どこまで妥協できるか思案したり……といった場合にフル稼働する部分、ということ。仕事を円滑に進め、平穏な暮らしを営むうえでの生命線と言っていいでしょう。
ところが、このワーキングメモリの機能は、「何もせずにいると50代で全盛期の70%程度にまで衰えてしまう」というデータがあります。
ここが衰えてしまうと、せっかく積んできた経験を十分に活かせないばかりか、判断力や計算力が衰え、仕事の質も低下。部下に何度も「矛盾する指示」をして人望を失う、ということもあり得ます。
更新:11月21日 00:05