数々の名勝負を繰り広げてきた加藤氏には、勝負の中で大切にしている4つの心構えがあるという。
「私はクリスチャンなので、旧約聖書に書かれた言葉を大切にしています。旧約聖書の中に、『戦うときは勇気を持って戦え、敵の面前で弱気を出してはいけない、慌てないで落ち着いてことを進めろ』という言葉があります。『勇気を持って戦う』『相手の目の前で弱気を出さない』『慌てない』『落ち着く』。この4つは、私が対局のときに大切にしている心構えです。
この言葉は1982年の名人戦の決戦前夜に聖書をめくっていて、目に留まったものです。名人戦を前に、ナーバスになっている自分にピッタリな言葉だと感じました。結果、対局中に何度も自分に言い聞かせ、名人になることができたのです。
とくに、『相手の目の前で弱気を出さない』は重要です。相手が自分の知らない手を自信満々に指してきたときなど、『まさかこの手は研究し尽くされていて、相手は詰みまでの手順が見えているのではないか』と疑心暗鬼になりがちだからです。
勝負の局面は、自分の気持ち次第で大きく変わります。気持ちが乗っているときは、『相手の手などたいしたことない』と思えるのですが、相手の自信に気持ちが揺らぐと、『うっ』と気圧されてしまう。勝負の最中に弱気になっていては、どんどん相手のペースに引き込まれてしまいますから、私は常にこの言葉を大切にしてきました」
更新:12月10日 00:05