
「イラッとしたら6秒待つ」は、言語化には逆効果かもしれない。
※本稿は、川岸宏司 著『なぜ、あの人の言葉は心に響くのか 感情を自在に言語化する技術』(大和出版)の内容を一部抜粋・編集したものです。
世の中ではアンガーマネジメントが推奨されています。これは、「イラッとしたら6秒数えましょう。そうすれば理性が働き、衝動的な行動を抑えられる」というものです。
社会生活を円滑にする防衛術としては、正しい。というより、必須です。
私自身、元来は非常に気性が荒い人間です。
中卒から経営者になり、舐められないように必死だったこともあり、社会で生き残るためにアンガーマネジメントを徹底的に磨いてきました。
ですが、言葉を紡ぐ人間として言わせてもらうと、この「6秒待て」はクリエイターへの死刑宣告に等しい行為です。
たとえば、Zoomで失礼な態度を取る経営者と話しているとき。私は大人の対応として「それは少し失礼ではありませんか?」と冷静に諭します。しかし、私の腹の底、防腐剤のかかっていない本音はこうです。
「今に見てろ、3年後に札束で引っ叩いてやる」
汚い言葉ですが、これが嘘偽りのない、熱量を持った「生データ」です。でも、多くの人はこの感情をなかったことにします。
そして3年後、成功したときにこう語ります。
「あのときの悔しさが、私を強くしてくれました。彼には感謝しています」
美しいですね。中卒から這い上がった経営者のきれいなサクセスストーリーの完成です。ですが、はっきり言います。そんな綺麗事に、人の心を動かす力など1ミリもありません。
人が読みたいのは、美化された「感謝」ではなく、その裏にあった「札束で引っ叩いてやる」というドロドロとした執念のほうだからです。

なぜ、私たちの感情はすぐに「いい話」になってしまうのでしょうか。それは、脳が「認知的不協和」を嫌う臓器だからだと思っています。
強烈な感情が発生すると、脳はストレスを感じ、すぐに理性でその感情を片づけようとする。言葉の価値は、上の図のように発生直後は高いものの、3分を境に急降下し、底辺を這うL字型の曲線を描いて死滅するイメージです。
でも、言語化において最も価値があるのは、0分の時点にある「生データ」です。
これをわかりやすく食に例えて比較してみます。
①採れたての感情(0分)
比喩(メタファー):【獲れたての刺身】食あたりする危険はあるが、旨味があり、食べた人を感動させる。
成分:偏見・怒り・欲望・嫉妬・絶望
言語化例:「あの会議、全員の時間をドブに捨ててる感覚で死にたくなった」
読み手の反応:「わかる!痛いほど刺さる!」
②腐って加工された正論(1時間後)
比喩(メタファー):【工場の缶詰】安全で日持ちするが、味は画一的で感動がない。
成分:配慮・道徳・常識・反省・感謝
言語化例:「本日の会議は、タイムマネジメントの重要性を学ぶいい機会でした」
読み手の反応:「まあ、正しいですね(棒読み)」
あなたは率直に、どちらの言葉を書きたいですか?
「正論」という防腐剤でガチガチに固められた言葉は、ビジネスの報告書には最適ですが、あなたという人の言葉ではありません。
更新:08月20日 00:05