
「氷河期世代に逆転はあるのか」。
ーー高殿さんの新刊、『せどりの女王』主人公の夕映野遠火(ゆえの・とおか)はいわゆる「氷河期世代」から成りあがった女性というキャラクター像です。高殿さんご自身もバブル崩壊直後に新卒就活をされたそうですが、当時の過酷さはどれほどのものだったのでしょうか?
【高殿】当時はバブル崩壊だけではなく、阪神淡路大震災も重なり、まさに未曽有の不況といった世相でした。さらに、私たちは団塊ジュニア世代で母数も多い。新卒就活においては、現在の「売り手市場」とは真逆の「買い手市場」でした。
そういった企業側が優位な状況に加えて、当時はコンプライアンス意識なんてありませんから、人事担当者からは相当ひどいことを言われた記憶があります。
自分たちは学生を選び放題なうえに簡単に替えが効く、学生は何とか職に就きたいから必死でお願いする。そんな状況だと自分が偉くなったと錯覚してしまうのが人間なんでしょうね。私たちの受けた仕打ちは「時代によるDV」と言っていいと思います。
私たちの世代は、「お前たちの代わりなんていくらでもいる」と100回は言われてきた世代じゃないでしょうか。
ーー最終的に、どのような企業に就職されたのでしょうか?
【高殿】新卒では、IT企業に就職しました。不景気な中でも、IT業界だけは採用枠が多かったんです。いわゆる「1999年問題」に対処するため、人手が求められていたんです。
ただIT業界と言っても昨今イメージされるようなキラキラな感じではなく、女性というだけでタイトスカートにパンストのような衣服を強制されましたし、自分の仕事もあるのにお茶くみなどもさせられました。理不尽な思いをしましたね。
ーー厳しい時代に生きた氷河期世代の葛藤を、どのように作品に落とし込まれましたか?
【高殿】氷河期世代はいわば「世に出た瞬間からワゴンセールにぶち込まれた」世代です。たとえグッチやエルメスでも、ショーケースにすら並べてもらえず、安売り商品として扱われてしまう。その苦しさを「せどり」というテーマで表現しました。
ーー主人公の遠火を、救済される弱者ではなく、自ら巨額の富を築いた経営者として描いたのはなぜですか?
【高殿】仮にフィクションの世界であっても、氷河期世代の成功例を示すことが重要だったと思ったからです。
非正規を転々としているような人は、自分の人生の指針となるようなメンターとの出会いに恵まれない。だからこそ逆転の方法もわからなくなってしまう。その指針の一つに、この作品がなれば幸いです。
ーー氷河期世代に対する国の対応や世間からの風当たりは厳しいものがあると考えられます。高殿さんのお考えをお聞かせください。
【高殿】氷河期世代に対する国の救済はまだまだ足りていませんね。
新卒就活で正規の仕事に就けず、そのまま何十年も非正規で細々と働き続けている人たちもたくさんいます。私は、10年なり15年なり、一定期間非正規で働き続けた方の所得税は下げてしまっていいと考えています。
税収は減ってしまうでしょうが、非正規層のいくらかが生活保護に流れることを考えれば、その手前で救済措置を講じても損にはならないと思います。
ーー高殿さんが考える、氷河期世代にとっての「人生の逆転」とは何でしょうか?収入を増やすこと、仕事を得ること、社会から評価されることのどれに近いですか。
【高殿】私は氷河期世代の逆転は定年後に訪れると思っています。いまは、定年後も再雇用などで働くケースが多いですよね。そうなったときに、過去の学歴や経歴は、実はそんなに役に立たないと思うんです。
あなたが会社の経営者だとして、「俺は大手企業で営業部長をやってたから、営業以外の仕事やらないよ」というお腹の出たシルバー人材と、「非正規を転々としていましたが、体力には自信がありますしなんだってやります」というシルバー人材、どちらが欲しいですか?
ーーそれなら、後者の人材ですね。
こう言っては意地悪ですが、会社の肩書だけにすがって、プライドが肥大したり人間関係をないがしろにしてきたエリートの老後は悲惨だと思いますよ。今苦しんでいる氷河期世代の皆さんは、60歳からの第2ラウンドでの逆転を目指しましょう。
ただし、非正規の氷河期世代だから優遇されるわけではありません。偉ぶらない姿勢、仕事を選ばないメンタルはもちろん、健康な肉体に体力、最低限の身だしなみも必要です。
なので今は、それらの条件をそろえることが重要。個人的には「毎月2、3万円自由にできるお金を作る」ことを目標にすべきだと思います。そうすればそのお金でジムに行ったり脱毛をしたりできますからね。
ーー「自分はもう手遅れだ」と感じている40代、50代に、どのような言葉を伝えたいですか。
【高殿】先ほども言ったように、これまで苦しんできた人たちにも逆転のチャンスはあります。今はブルーカラー全盛時代といわれ、現場仕事の給料が上がってきていることも追い風です。
私の周りにも、スキルを活かして不動産で成功している人たちはたくさんいます。超安価でボロ屋を買い取って、自分たちで修繕、貸し出しするんです。自分に塗装のスキルがあれば業者を雇わずできますし、水道工事や電気工事といった自分が持っていないスキルも、同じ境遇の知人に頼めばいい。こういったスキルと人脈は、長年現場で働き続けた人の特権です。
ひと言でいうなら「死ぬな!健康に生きろ!」ですね。元気で過ごせる時間が長ければ長いほど逆転のチャンスは増えますし、その後の幸せな時間も伸びます。
更新:09月25日 00:05