
胃が痛い、喉が詰まる、手足が冷える...。そんな身体の「不快」
※本稿は、川岸宏司 著『なぜ、あの人の言葉は心に響くのか 感情を自在に言語化する技術』(大和出版)の内容を一部抜粋・編集したものです。
少し唐突ですが、「風邪」をひいたときのことを思い出してください。
解像度の低い人は、脳だけで「昨日、薄着だったからだ」と安易な判断を下し、厚着をして寝ます。でも、また風邪をひく。
一方で、解像度の高い人は、「喉の奥が熱く、関節が鉛のように重い。これは、ここ数日の睡眠不足で免疫が下がっているサイン」と分析し、食事と睡眠を見直します。これを構造化すると、下の図のようになります。

前者は「外気」のせいにしていますが、後者は「自分」に原因を見出している。身体の声を翻訳して初めて本質的な解決にたどり着く例です。
このロジックは、仕事やメンタルの悩みでもまったく同じことが言えます。
私の実体験をお話しします。
私は周囲から「メンタルが強そう」「完璧主義」と思われがちですが、講演会や登壇の前には、手足が冷たくなるほどガチガチに「緊張」する肝っ玉の小さいタイプです。
数年前までの話ですが、この身体反応を「武者震いだ」とか「準備不足かな?」と脳で誤魔化し、「もっとスピーチを練習しなきゃ」と自分を追い込んでいました。
ですが、いくら練習しても震えは止まりません。
そこで、この身体の震えを「2つのタネ(WhatとWhy)」を使って徹底的に言語化したところ、驚くほど恥ずかしい「真犯人」が見えてきました。
まず、「この身体の震えはなんだ?」と問います。「ワクワク」ではない。失敗を恐れる「恐怖」に近い。では、何が怖い?→「人が怖い」
なぜ、聴衆という「人」が怖いのか?取って食われるわけでもないのに、なぜ胃が痛くなる?→「失敗して、がっかりされたくないから」さらに深掘ります。なぜ、がっかりされたくない?→「『すごい人』だと思われたいから。自分がよく見られたいだけだから」
ここまで言語化して、私は愕然としました。
緊張の正体は、高尚なプロ意識などではなく、「周囲の期待に応えたい」という他者視点のフリをした、単なる「自分の虚栄心」とわかったからです。
身体がガチガチに固まっていたのは、「等身大の自分」以上のものを無理やり見せようとして、身体が「嘘つくな、無理だぞ」と悲鳴を上げていただけでした。
このプロセスを、先の風邪の例と同じように整理してみます。
【Low:解像度が低い状態】
・What:「あー、緊張してきた。心臓がバクバクする」
・Why:「失敗するのが怖いからだ」
・対策:「もっと練習して、完璧に振る舞おう」
・結果:虚勢を張るため、余計に緊張が増す。
【High:解像度が高い状態】
・What:「これは武者震いではない。自分を大きく見せようとして、身体が拒絶している『萎縮』だな」
・Why:「失敗が怖いのではなく、『すごくない自分』がバレるのが怖いだけ」
・対策:「『すごい人』を演じるのをやめる。冒頭で緊張を公言してしまう」
・結果:等身大の自分で話せるようになり、震えが止まる。
原因が「準備不足」なら、対策は「練習」です。しかし、原因が「虚栄心」だと特定できたならば、対策は「カッコつけるのをやめる」の一択になります。
だから私は、講演会の冒頭でこう公言することにしました。
「すみません、今、めちゃくちゃ緊張しています」
そう口にして、カッコつけようとしている自分を自ら殺してしまう。すると不思議なことに、身体の強張りがフッと解け、いつもの言葉が出るようになりました。
身体の反応は嘘をつきません。もし、胃が痛い、喉が詰まる、足が重い...そんな反応が出たら、慌てて鎮痛剤を探さないでください。
それは、あなたの足元に落ちてきた「言語化のタネ」そのものだからです。
その痛みは、どんな言葉になりたがっているのか?
その重みは、本当は何を訴えているのか?
不快な身体反応を拾い上げ、名前をつけてあげること。それが、自分でも気づいていない「本当の感情」に気づくための、最初の一歩だと思ってください。
更新:08月19日 00:05