2024年12月05日 公開
この数年、「言語化」という言葉をよく目にするようになった。では、「言語化」とは一体何なのか? それはどのように役に立つのか? 数々の広告賞を受賞したコピーライターで、キャリアコンサルタントの資格も持つ荒木俊哉氏は、「言語化力は、センスや才能は関係なく、誰でも必ず身につけられる」と語る。
※本稿は、『THE21』2025年1月号より、内容を一部抜粋・編集したものです。
あなたは日頃から、自分の思いや意見を、しっかりと言語化できていますか?はっきり言葉にまでしなくても、自分のことだから一応わかっているつもり。そう思ってはいないでしょうか?
ですが、その考えは大きな落とし穴です。例えば、「あなたは何のために働いていますか?」と質問されて、よどみなく、パッと答えることができますか?もし答えるのが難しいようであれば、あなたが仕事のキャリアで大きな決断を迫られたとき、すぐに明快な判断ができないということになります。
また、この質問に「家族のため」と答える人もいるかもしれません。もちろん、その答えは噓ではないはずです。ですが、働くことは、本当に家族のためだけでしょうか?お客さんのためには?同僚のためには?そもそも自分のためには?そうやって自分に問いかけていくと、「おや?」と気づくはずです。
「家族のため」というのは、自分にとって、ほんの一面でしかないと。その結果、本当は何のために働いているのか、自分でもよくわからなくなってしまいます。
このように、自分の思いを言語化するのは意外と難しいことなのです。自分は、どういう人間なのか。自分が大切にしているものは何なのか。本当は何に悩んでいるのか。人は言語化することによって、これまで気づかなかった自分の思いや意見をつかめるようになります。
そうやって、自分の頭の中を言語化できていると、いつ誰に何を聞かれてもパッと答えることができます。仕事でもプライベートでも、あらゆる場面で、迷ったり、悩んだりすることが減っていきます。モヤモヤがスーッと消えて、気持ちが前を向くきっかけになったりするのです。
では、どうすれば言語化の能力を高められるのでしょう?言語化力というと「話す力」「伝える力」「書く力」といったものと思われがちですが、実は「聞く力」が最も必要だと私は考えています。
「聞く力」という言葉から一般的にイメージされるのは、「相手(他人)」の話をちゃんと聞く、ということでしょうか。ですが私は、もう一歩進んで、この「聞く力」を「自分」にも向けてほしいと思っています。
この「自分で自分の話を聞く」姿勢こそが、自分の頭の中を言語化するうえでは必要不可欠なのです。「自分の話を聞くって、他人の話を聞き出すわけじゃないんだから、そんなに難しくないのでは?」と思うかもしれませんが、なかなかそうはいきません。なぜなら、あなたが考えたり感じたりしていることのほとんどが、頭の中で「言葉」というかたちになっていないからです。
例えば、普段、次のように感じることはありませんか?
・会社に行くのが「なんとなく」めんどうくさい
・仕事をしていても「なんとなく」張りあいがない
・将来のことについて「なんとなく」不安がある
「なんとなく」気になっているものの、その「なんとなく」をきちんと言葉にしている人は、ほとんどいません。この「なんとなく」を言葉にしていくことが、言語化するということです。
【図1】
言語化するには、「自分で自分の話を聞く」ことが大事だとお話ししました。ここでは、自分の話を聞くときの「聞き方」のコツをお教えしたいと思います。
最初のステップは、過去の印象的な「出来事」を、できるだけ具体的に思い出してみる。そのうえで、その「出来事」で、どんな気持ちや感情になったのか、つまり「感じたこと」を思い出す、です。
実際にやってみましょう。例えば、得意先でのプレゼンが終わった場面を想像してみてください。クライアントに挨拶をして、あなたの会社に戻る帰り道で、次のようなシンプルなメモを残しておきます。「プレゼン終了(出来事)」+「テンション上がった(感じたこと)」そして次が重要なステップですが、その文の終わりに「のはなぜか?」の6文字を足し、さらに自分で自分の話を聞いていくのです。
「プレゼン終了(出来事)」+「テンション上がった(感じたこと)」+「のはなぜか?」このときは、頭に浮かんだ言葉を、自分で取捨選択せず、できるだけそのままの言葉で文字にしていきます。(図1)
そして最後に、それらの言葉をまとめて、今の自分にしっくりくる言葉(=「結論」)を出すようにします。この「結論」には、正解があるわけではありません。自分なりにしっくりくる言葉になっていたら充分です。
こうして頭の中を一度すべて言語化したうえで結論を出すと、思考がずいぶん整理されます。これを日々続けていくと、様々な問いやテーマについての自分なりの「結論」が、端的な言葉で自分の中にストックされていきます。その積み重ねが、「どんなときも一瞬で言語化できる自分」をつくっていくことにつながります。(図2)
【図2】左下に書き出した「感じたこと」を見て、同じ言葉や似た意味の言葉、何度も出てくる印象的な言葉を見つけて印をつけたら、次は今の自分にしっくりくる言葉(=「結論」)を右上にまとめていきます。
この続きのステップには、「結論」としてまとめた思いや意見を、今後どう活かしていくのか、その具体的な「行動」まで言語化しておく工程もあるのですが、それについては拙著『こうやって頭のなかを言語化する。』をご覧いただければと思います。
仕事をしていると、「このまま今の仕事を続けていいのだろうか」「自分は、そもそも、何のために仕事をしているのだろうか」「あと何年、今の会社で働くのだろうか」ときに、こうした漠然とした不安や悩みを抱えてしまうこともあるかもしれません。
しかし、そんなときも、自分の思いが言語化できていたら、これからの働き方、生き方を決めていく道しるべになります。また、どんな道を歩んでいくにせよ、自分で納得したうえで次に進むことができるでしょう。
「自分の人生を自分で決める」ためにも、言語化力が必要なのです。そして言語化力を身につける一番の近道は、習慣にすることです。頭の中を言語化する習慣があると、常に自分の最新版の思いや意見が言葉になっている状態になります。すると、急に意見を求められても自分の言葉で堂々と発言できたり、何か決断を迫られたときにも一瞬で思考をまとめられたりします。
先に挙げた拙著では、誰でも言語化を習慣化できる超効率メソッドも紹介しています。これからの人生を有意義に生きていくためにも、ぜひ言語化力を磨いてきましょう。
更新:12月12日 00:05