
動いてほしいあまり、つい頭ごなしに「いいからやって」「考える前に動いて」と指示を出しがちなリーダーも多いだろう。だがそれでは、部下は動かないしやる気も出ない。キャパオーバーになり失敗を経験した著者が行った、部下が自ら動く「魔法のひと言」とはなにか?
※本稿は、五十嵐剛著『結果を出すチームのリーダーがやっていること』(すばる舎)から一部抜粋・編集したものです。
リーダーがチームの力を引き出すには、何が必要でしょうか?あなたが何かをやる気になるときのことを考えれば、ヒントが得られます。
なぜやる気になるのか?
それをすると、あなたにとって何かよいことがある、と考えるからですね。たとえば「妻の喜ぶ顔が見たい」→「プレゼントを買う」といった具合です。
仕事も同じです。
目の前の仕事を「なんのため」にやるのか?この理由の部分に自分で納得できていなければ、それはただの「やらされる作業」になり、ちっともやる気が湧いてきません。
チームの場合も同様で、組織全体で効率よく成果を出すには、「なんのため」にその仕事をやり遂げるのか、その理由をメンバー全員が納得している必要があります。
そして、ここで言う「なんのために」の対象には、会社は営利組織ですから「販売数10件以上」「売上2000万円以上」「収益600万円以上」...といった「数字」がまずは入ります。
ただし、その数値でやる気になるのは管理職ぐらいです。チームのメンバーの大多数や、社外のビジネスパートナーにとっては、「数値目標達成のために!」ではなかなか自分事にならないことを認識すべきでしょう。
では、どうすべきか?
数字ではなく、その先にある理想や夢を共有すればよいのです。
NEC時代、ある問題プロジェクトの立て直しを命じられたことがありました。
今だから言えますが、かなりひどい状態のプロジェクトで、毎月多くの赤字と不具合が発生していました。毎日、社内からもクライアントからも文句を言われ、出口も見えず、メンバーは全員、下を向いて疲れ切っていました。
テコ入れの責任者として投入された私には、当然ながら会社から、目標値として「赤字ゼロ」「障害密度コード1000行当たり0.02件」などといった数字が与えられていました。当初は私も、メンバーにこの数字を繰り返し言い聞かせ、なんとか実現を図ろうとしました。
...しかし、これがまったくと言っていいほど、メンバーの心に響かなかったのです!数か月経っても赤字も不具合も変わらず、私は追い詰められることになりました。
「このままではまずい!しかし、これまでと同じやり方では何も変わらないだろう...」
そう考えた私は、発想を変えてプロジェクトのメンバー全員と膝を突き合わせ、プロジェクトの現状を率直に伝え、現場のみんなの正直な声・提案・悩みを聞かせてほしい!とお願いすることにしました。
このプロジェクトをどうやって改善したいのか、今後どうやって働いていきたいのか...メンバーと時間をかけて話し合い、その内容を以下のスローガンへと落とし込みました。
【自信と元気を取り戻そう! ―私たちはできる― 】
思うように結果が出ず、関係者に叩かれる状況が続いたことで、自信を喪失していたメンバーが多くいました。そのため苦しい現状を脱して、楽しく、自己肯定感や有能感を持てるような状況で働けるようになることを望む人が多かったのです。
そうした理想・夢を短い言葉に落とし込んだのが上に示したスローガンでした。
説明的な長い文章に、人は共感できません。また、ビジネスの現場では使いづらくもあります。頭にすっと入ってきて、共感しやすく、標語などとしても掲げやすい短い言葉で夢や理想を表現し、その実現を当面の目標としてプロジェクト全体で共有することにしました。
このスローガンの効果は絶大で、メンバーやビジネスパートナーの仕事への向き合い方が一気に変わりました。
共通のスローガンができたことで、トップダウンで指示を出すリーダーと、言われた仕事をこなすメンバーという関係性ではなくなり、共通の夢や理想を追う「チームとしての一体感」が生まれたのです。
その後、数か月の時を経て、このプロジェクトは奇跡的な回復を実現しました。私自身のマネジメントの考え方にも大きな変化をもたらした、記憶に残る案件です。
チームのメンバー一人ひとりのやる気を引き出すためにリーダーがまずすべきこと、それは、目標の数値を示すのではなく、それら数字の先にある夢や理想を共有することです。夢や理想はそのままでは共感しづらいので、短くわかりやすいスローガンにして共有するのがコツです。
スローガンを具体化するときには、メンバー全員の話をよく聴き、トップダウンではなくボトムアップで、メンバーが今本当に求めているものが何かをよく見極めてから決めるようにしましょう。
更新:06月25日 00:05