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「管理職に幸福そうな人がいない」昇進を望まない若手社員が増加している背景

2024年12月20日 公開
2025年06月03日 更新

大村壮太(作家)

近年、若年層が管理職への昇格を敬遠する傾向が顕著です。なぜ若者は「管理職=魅力的なキャリア」という従来の価値観から離れてしまったのでしょうか。本記事では、若年層の管理職離れの背景にある社会の変化と、これからの時代に求められるマネジメントの在り方について深く掘り下げます。

 

管理職に興味のない若年層

近年、若年層は管理職への昇格に関心を示さない傾向があります。パーソル総合研究所の調査によれば、管理職への関心を示している20代は、2018年に38.3%だったのに対し、2024年には29.5%にまで落ち込んでいます。

「マネジメントには関心がない」「管理職は損ばかり」「周りの管理職に幸福そうな人がおらずモチベーションがわかない」といった声は、若者から当たり前のように聞かれるようになりました。一体何が起こっているのでしょうか。

これまで、企業は昇給や昇格を「飴」として提示することで、従業員の仕事へのコミットメントを促してきました。

勤め先の企業が自分のアイデンティティの大部分を占めていた時代、昇給や昇格を通じて自己実現することは、多くの人にとって非常に重要でした。管理職への昇格は「おめでたいこと」として羨望の眼差しを向けられ、同期の中でいち早く花形のポストを手に入れることを目指していました。

ちょうど子供が徐々に成熟して大人になっていくように、会社の中でヒエラルキーを登っていくことは、社会人の成長や自己実現の成果として当然に受け入れられてきました。

では、なぜこれほど多くの若者が管理職になることを忌避するようになったのでしょうか。

キーワードは、働くことに対する価値観の多様化です。若者は働くことと同等かそれ以上に大切な自己実現の手段を持っています。例えば、恋人や家族と過ごす時間や、気の置けない友人と趣味を楽しむ時間など、企業の外部における人間関係や活動を重視する傾向があります。

また、正社員・男性中心・終身雇用といった従来の日本型企業社会の構造が変化したこともあり、働き方自体が多様化しています。スキルや専門性を活かして複数の企業と業務委託契約を結んだり、フリーランスとして活躍する人は年々増えています。さらに、近年広がりつつあるスポットワークサービスを活用し、様々な仕事を超短期でこなす人も増加しています。

ことほどさように、働くことに対する価値観や働き方そのものが多様化した現代では、昇給や昇格が以前ほど「魅力的なオプション」ではなくなるのも無理はありません。若者は働くことと同等かそれ以上に大切なつながりを持ち、各自の人生観の中で働くことを適度に相対化しています。

また、働き方自体も自分のニーズに応じて組み合わせることが当たり前になっています。一つの企業の中で昇給や昇格を重ねて自己実現を図る生き方は、もはや当然のものではなくなりました。

 

内発的動機づけを活用する

これらのトレンドは、社員に提供すべき動機づけの手段が変化したことを示しています。

モチベーション理論では、昇給や昇格といった外的報酬による動機づけは「外発的動機づけ」に分類されます。一方、内なる興味や関心、意欲といった内的報酬による動機づけは「内発的動機づけ」と呼ばれます。

現在の状況は、外発的動機づけの手段として機能していた昇給や昇格が機能不全に陥っていると言えるのではないでしょうか。他にも魅力的な選択肢がある中で、若者は古い「飴」にはもう魅力を感じず、そっぽを向いてしまっているのです。

多くの企業が、管理職の担い手不足に苦しんでいます。そうした企業が挑戦すべきことは、そもそも自社で働くことが従業員にいかなる喜びや成長といった内的報酬をもたらすのかを見つめ直し、誰かが与える「飴」による外発的動機づけにばかり頼ることではなく、心の内側で燃え盛る「灯火」による内発的動機づけを最大限に活用することです。

そこで、私は考えたいのです。働くことの価値が相対化され、多くの人がそれぞれの価値観に応じて仕事との距離をチューニングできるようになったこの時代に、管理職になること、マネジメントワークに従事することは、どのような喜びや成長を与えてくれるのだろうか、と。

私は、ベンチャー系のIT企業でマネージャーをしている人間であり、管理職やマネジメントワークが若者から「貧乏くじ」のように扱われている状況に、忸怩たる思いを抱えています。

たしかに、働き方や価値観が多様化した現代において、これまでの管理職のやり方が立ち行かなくなっているのは事実でしょう。私が試みたいのは、これまで述べたような時代の変化を踏まえて管理職という役割を適切に再定義すること、そして管理職やマネジメントを「楽しい」仕事として捉え直すことです。

今後、いくつかの記事に渡って、今の時代の管理職に問われる役割の変化を、皆さんと紐解いていきたいと思います。

社会学、経営学、経済学、臨床心理学といった領域の知見を活用しますが、特に私がこの問題を考えるにあたって最も重要だと考えている「アジャイル」の思想には頻繁に言及すると思います。

結論めいたことを先に言っておけば、今の時代の管理職に求められているのは、内発的動機づけを引き出す火付け役として、部下が自分の人生における"働くこと"の意義を見つけ出せるようサポートするスキルだと思っています。もちろん、そのために必要なスキルやテクニックも、数多く紹介していきたいと思っています。

次回は、現代においてマネジメントに求められる役割がどのように変化してきたのかを、経営学におけるリーダーシップ論を援用しながら考えていきます。

 

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