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管理職に求められる役割とは? 部長と課長で異なる「取り組むべき課題」

2025年05月14日 公開

安井祐子(PHP研究所認定ビジネスコーチ[上級])

管理職

「人間力」を磨き、部門経営者を育てることを目的としたPHPの研修事業。講師陣は、企業・組織において様々な現場を経験し、時に修羅場を乗り越えてきた実務者ばかりだ。本連載では、その研修内容の一部を誌上講義してもらう。連載2回目は、「変化の時代には、従来の常識や価値観の転換が不可欠」と語る安井祐子氏が、今の時代のマネジャーの役割を熱く説く! (構成:坂田博史)

※本稿は、『THE21』2025年6月号の内容を一部抜粋・再編集したものです。

 

「変化の時代」は変わることを恐れない

現在は、先の読めない「VUCA」の時代だと言われており、会社や組織は、こうした時代の変化に対応していかなければ存続することができません。

例えば、ある製造業の企業。ビジネスモデルも製品も良いにもかかわらず、市場の縮小に直面しました。既存製品だけでは経営が立ち行かず、新規事業を立ち上げて事業構造を変えようと取り組み始めています。

既存製品から新規事業へと事業構造が変われば、企業のミッション、ビジョンも変わります。こうしたことから自社の存在意義を改めて問い直し、パーパス経営に切り替える企業も多いのではないでしょうか。

テクノロジーの進化も著しく、「DX(デジタル・トランスフォーメーション)」が叫ばれ、デジタル技術やAI(人工知能)をどう事業に活用するかが喫緊の課題という企業も増えています。

また、人材マネジメントのうえでも、労働力不足への対応と働き方改革を同時並行で行ないながら、組織に求められる多様性と一体性のバランスを取る必要にも迫られているのです。

こうした激しく速い変化に対応するためには、従来の常識や価値観の転換も不可欠です。「今までこれでやってきたのだから、このままでいい」と考えるのではなく、柔軟に変えていく。過去にとらわれず、現実を直視して変化を恐れず、素早く常識や価値観を変えていくのです。

皆さんの会社を取り巻く環境の変化はどのようなものでしょうか。そうした環境変化に上手く対応できているでしょうか。考えてみてください。

 

最も重要なのは組織の目的と目標の明確化

ミドルマネージャーが取り組むべき課題

マネジメントとは、組織を管理することであり、経営することです。マネジャー(管理職)は、組織の管理責任者です。

企業の社員は管理職と非管理職に分かれます。私は、管理職になるときに「あなたは川を渡ったのよ」と言われました。非管理職から管理職、つまり経営側に川を渡ったということです。管理職の人たちには、そのことをしっかりと認識してほしいと思います。

上のチェック表は「ミドルマネジャーが取り組むべき課題」です。ご自身が今、何ができていて、何ができていないのか、自分のマネジメントの現在地を確認してください。

マネジメントにおいて最も重要なことは、「組織の目的と目標を明確にすること」です。

そのうえで、経営資源(人、モノ、カネ、時間、情報)を一定の基準・ルールに基づき、最大限に有効活用して最大の成果をあげることが重要になります。

私は航空会社で乗務員(キャビンアテンダント)として働き始め、やがて乗務員をまとめるチーフパーサーを任されるようになりました。

毎年4月、新しいチームが編成され、チームごとにグループミーティングが行なわれます。そこでチーフパーサーである私がチームの目的と目標を発表していました。またフライトのときにも、その目的と目標を毎回確認し、その実現を目指してサービスを提供していました。

航空会社は飛行機の座席を売って収益を得ています。乗務員のサービスに対して対価が支払われるわけではありません。お客様に安心安全を提供するのは当たり前。ですから、それ以上のお客様の期待に応えること。「また乗りたい」と思ってもらえるサービスを提供することが私たちの目標でした。

何か不便をおかけしたお客様がいた際、飛行機を降りたあとを追いかけ、「今回は申し訳ございませんでした」とお詫びし、「またご搭乗いただけますか」と確認する乗務員もいました。

このようにチームメンバーが目的や目標の実現に向かって実践してくれるからこそ、成果につながるのだと思います。

現場に近いマネジャーは、現場に近いからこそ成果につながる目的と目標を伝えることができます。そのことを強く意識していただけたらと思います。

 

マネジャーに求められる3つの役割

マネジャー職に求められる役割の比較

マネジャーに求められる役割は、大きく3つあります。

1つめが成果をあげること。短期的な結果を出すことに加えて、目標に向けての長期的なプロセスにおいて成果をあげることも重要になります。

2つめが組織を強化すること。目の前にいるメンバーたちと一緒に、強いチームをどうやってつくっていくのか。マネジャーの腕が試されます。

3つめが新しい価値を創り出すこと。「新しい価値って?」と思った人もいるかもしれません。成果を出すことと、組織を強化することは意識していても、新しい価値を創り出すことまでを役割として意識しているマネジャーはそう多くないでしょう。

またマネジャーといっても、部長と課長では役割が違います。それぞれを見ていきましょう。

部長が意識すべき成果は、「未来の成果」です。未来の成果をあげるために、戦略を定め、必要な手を打ちます。

課長が意識すべき成果は、「今期の成果」です。今月・今期の業務目標を達成することを強く意識します。

部長が意識すべき組織の強化は、「未来の組織づくり」です。変化の時代だからこそ、3年後の組織がどうあるべきなのか、未来を意識して組織図を描き、実現への手を打ち始めます。

課長が意識すべき組織の強化は、「チームの総合力向上」です。メンバーの能力発揮度を上げるために、チームワークを強化するために、モチベーションを上げるために、何ができるかを考えます。個人ではなく、チームとしてどのように成果を出すのか。そのために、どのようなマネジメントができるのか。課長職の方には、ここを意識していただきたいと思います。

部長が意識すべき新しい価値の創造は、「未来に向けた変革」です。時には、戦略を変更する必要があるかもしれません。今所持しているものを手放すことも大事なことです。新戦略を構築していくためには、視野を広げ、視座を高くする必要があります。仕組みを変えたほうがいいなら、仕組みも変えましょう。

課長が意識すべき新しい価値創造は、「戦術の変更」です。変化の時代ですから、攻略目標や優先順位も変わってきます。それに応じて戦力配置の変更も求められます。

あなたはご自身の役割を意識できているでしょうか。あなたの上に部長がいるのであれば、その人物が部長の役割を意識できていると感じますか。ぜひ確認してみてください。

 

レイヤーが変われば、求められるスキルも変わる

マネジャー職に求められる共通の能力

部長と課長では求められる能力も違います。「カッツモデル」を使って見ていきましょう。

まず、マネジメントのレイヤーを「トップマネジメント」「ミドルマネジメント」「ローワーマネジメント」の3つに分けます。

マネジャーに求められる共通の能力も3つに分かれます。「コンセプチュアルスキル」とは物事の本質を見極める能力、「ヒューマンスキル」とは対人能力、「テクニカルスキル」とは専門的・技術的能力のことです。

ヒューマンスキルはトップからローワーまで変わらず必要となる能力で、現場に近いほど必要となるのがテクニカルスキル、組織のトップに近づくほど求められるのがコンセプチュアルスキルです。

今は、課長はもちろん、部長であってもプレイングマネジャーの人が多いですが、テクニカルスキルに優れたメンバーに仕事と権限を委譲し、その分、自分は本質を見極める能力の向上に時間を使うようにしましょう。

自分にはレイヤーに適したスキルがあるか、それを十分に発揮できているか、自分のマネジメントを点検してみてください。

 

マネジメントの基本サイクル「5つの機能」を回す

5つの機能をTPDCAサイクルに当てはめる

マネジメントには、「5つの機能」があります。1つめが計画機能。これから起きることを予測して計画を立てる機能です。

2つめが組織化機能。計画立案後、実行するための組織体制づくりと仕事の適正な割り当てを行なう機能です。

3つめが指令機能。実行に向けてメンバーにわかりやすく指示する機能です。指示がきちんと伝わっているかを確認し、しっかりと伝わるまで伝えることが大事になります。

4つめが調整機能。成果を出すために関連する仕事や部署と調整を図る機能です。

5つめが統制機能。計画と現実のズレを修正し、次につなげていく機能です。

マネジャーは日常的にPDCAサイクルを回していると思いますが、「5つの機能」をPDCAサイクルにあてはめると上の図のようになります。

どの機能を多く使い、どの機能はあまり使っていないか、自身のマネジメントを振り返ってみると、PとDは必ずやっているけれども、CとAはあまりやっていないという人が多いかもしれません。そうした人はCとAを意識するようにしましょう。

T-PDCAサイクルのTとは、ターゲット(Target)のこと。一番大事なのがこのターゲット、目標設定です。目標設定がぶれていると計画もぶれてしまいます。何のためにやるのか。いつまでにどのような状態になっているのか。目標をしっかりと明確にすることが何よりも大切です。

目的、目標が明確になっており、それがメンバーにきちんと伝わっていれば、メンバーが主体的に目的や目標に向かって実行してくれます。マネジャーは、適切なタイミングでメンバーをサポートすることを意識してPDCAサイクルを回していけば、自分自身が楽になります。

 

「未来をイメージして語る」それが組織の原動力となる

マネジメントを革新する際、課長職の最重要テーマとなるのは、今期の目標を達成するためにチームを強化することです。チーム強化が、お客様への価値を向上させることにつながり、その結果、事業が存続していきます。

部長職の最重要テーマは、事業の存続です。そのためには顧客への価値向上が必要であり、顧客への価値向上のためにはチームの強化が必要になります。

課長と部長が連携し、このサイクルを回すイメージをもってマネジメントの革新を実行してもらいたいと思います。

それが何のためかと言えば、未来につなげるためです。大変だ、大変だと目の前のことに向かっているだけでは、存続することはできず、未来につながりません。課長と部長が連携して、組織をいかに未来につなげていくか。「未来につなげる」というキーワードは、変化の時代にこそ必要不可欠なものです。

変化の時代のマネジャーには「未来をイメージして語る」ことが求められます。あなたは目の前のメンバーたちと一緒に何を創りあげていきたいですか。それを語ることが、未来に向けて組織を動かす力になるのです。

 

著者紹介

安井祐子(やすい・ゆうこ)

PHP研究所認定ビジネスコーチ(上級)

国内航空会社でキャビンアテンダント、マネジャー、私立大学でキャリア・アドバイザーなどを歴任。現在は、人材開発・組織開発コンサルタント業務を展開している。2014年、オペラ ラボ設立。16年より上場企業の人事部顧問として、人材開発、組織開発、女性活躍推進、人事評価制度改革、新経営理念浸透に関わる。

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