
1986年にアイドルとしてデビューして以来、2026年には40周年を迎える西村知美さん。40周年プロジェクトとしてシングル全45曲のサブスクリプション配信も始まるなど、ますます活躍が続く西村さんは芸能界きっての「資格マニア」としても知られる。これまでに取得してきた資格は実に58個。忙しい芸能活動の傍ら、資格に挑戦し続ける理由を聞いた。(取材・構成:林 加愛)
※本稿は『THE21』2025年10月号 特集「いま取るべき『資格』の選び方・学び方」より、内容を一部抜粋・再編集したものです。
※前後編の前編です
――芸能界で活躍しつつ、これまでに58個もの資格を取得してきた西村知美さん。最初に資格に興味を持たれたきっかけは?
西村 話すと長くなりますが……もともと好奇心旺盛で、色々なことを学び、チャレンジするのが好きでした。小学校では編み物クラブとフリーテニス、中学では軟式テニス部・絵画部・写真部・囲碁部・合唱部などいくつも掛け持ち。デビュー後は、通学先の堀越学園が芸能活動と部活動の並行を禁止していたのでお休みし、卒業後にピアノとダンスと英会話を習い始めたところ、なんと1年半で全部挫折してしまいました。残念なことに私は、熱しやすく冷めやすい性格でもあったんですね。
――学ぶことは好き、でも習い事は続かない。意外な関門です。
西村 でも結婚後、再び転機が来ました。夫が飲食業を始めるに当たって「甲種防火管理者」資格が必要とのことで、夫婦で消防署に2日間の講習を受けに行って資格を取ったんです。そのとき、「ゴールがハッキリしていれば中途半端に終わらない」と発見しました。資格は、私にピッタリな挑戦の形だったんですね。
――そこから、次々とチャレンジされるようになったのですね。
西村 はい、消防署で勧められた「上級救命技能認定」の講習も夫婦で受けました。読者の皆さんとはきっと、かなり違う向き合い方だと思います。ビジネスパーソンの方が「仕事に直結するスキル」を得るために資格の勉強をされるのに対し、私の動機は単純な興味だったり、自信をつけるためだったりと非常に個人的なので、ご参考になるかどうか……。
――いえいえ、その動機についてぜひ教えてください。取り組む資格は、どのような基準で選ばれているのでしょうか。
西村 三つの柱を設定しています。一つ目は「好きなこと」、つまり趣味に近いことですね。二つ目は「嫌いなこと」。三つ目は「将来的に必要になりそうなこと」です。
――二つ目の「嫌いなこと」が気になります。なぜあえて挑戦を?
西村 私はこう見えてネガティブで、自信が持てないタイプです。特に若い頃は「事務所のスタッフに頼り切りで、このままでは何もできない大人になる」と悩んでいました。ですから最初はひとえに、自信をつけるために苦手に挑戦しました。
――そんなふうに思われていたとは意外です。最初の「苦手への挑戦」は何でしたか?
西村 20歳でフルマラソンに挑みました。一度、練習と称して皇居を一周しただけでいきなり42キロを走ろうとしたのですから、無謀にもほどがあります。でもなんとか完走、というより「完歩」しました。7時間20分かけて、8時間の時間制限をクリア。そこでまた、大きな発見を得ることができました。
――完歩だけでも快挙ですが、さらに得たものが?
西村 はい。走っている間は苦しくて「二度とやらない」と思っていたのに、ゴールした瞬間、次の目標が決まったんです。「今度は6時間半を目指そう!」と。
――劇的な変化です。なぜそう思われたのでしょう。
西村 マラソンは実際に走ってみると、ドラマの連続です。この地点で受け取った水の冷たさ、あの地点で生じた痛み、共に走った方々との会話……それらは実際に走らなければ経験できなかったことです。「嫌い」と思っている世界に触れると未知の自分に会える、経験したことのない感情を味わえる、と知りました。
――「世界を広げるため」という新しい目的が加わりましたね。
西村 その通りです。以降、様々な苦手分野にチャレンジしました。中でも印象深いのが「1級小型船舶操縦免許」。機械が苦手・運転が苦手・海も苦手と三重苦でしたが、映画『タイタニック』を見て、「遭難したときに誰かが操縦できないと」と思って。
――理由が面白過ぎます(笑)。
西村 いざ挑戦すると、やはり苦労の連続。特に実技試験が大変でした。溺れた人の救助を想定し、波の強さや風向きを計算しつつ要救助者の「手前」に停めるはずが、本番前の練習では技術と計算能力が追いつかず、要救助者と「同じ位置」に停めてしまいました。これでは、救けるべき人を轢いてしまいます(笑)。もう無理かと思いましたが、偶然にも本番で凪になり、ぴったりの場所に停められました。指導者の先生もびっくりの一発合格です。
――幸運が味方しましたね。加えて、あきらめない精神力も。
西村 はい。一方で、苦手なことをするときは「あきらめる」ラインも定めています。一つの試験に二度落ちたら、撤退するのがマイルール。どうしても合わないものには執着し過ぎず、次へと切り替えたほうが、世界を広げる効果は高いと思います。
――一見感覚的なようで、熟慮して資格を選ばれていますね。「将来必要になる」系の資格では、印象的なものはありますか?
西村 「着物着付け基本エクセレント2級(現・着物着付け5級準師範)」です。アイドル時代から着物のカレンダーや時代劇などで和服を着る機会が多く、習得しておくと役立つと考えました。
もっとも、実際の現場ではプロの方に着せていただくので直接使う場面は多くはありません。でも、和服の着方や着せ方がわかっていると「手伝えるポイント」がわかります。足をこれくらい開いたほうがいいとか、帯をつけていただくときの袂の持ち方とか。また、着物を着用する前後は浴衣になるのですが、それを自分で畳める、といったことでも役立っています。
――ご自身にも周囲の方にも役立ちますね。
西村 そうなんです。周りのお役に立つと言えば、「ホームヘルパー2級(現・介護職員初任者研修)」も大きな経験でした。取得時もさることながら、そのあとに考えさせられることの多かった資格です。
――そのあと、ですか?
西村 30代で取得したときは、「介護は先の話と思いがちだけれど、家族がケガをしたら介護や介助が必要だ」と思ったんですね。それも間違いではないけれど、20数年後に入院患者の方の食事介助をさせていただいた機会に、大きく認識が変わりました。ケガをしつつも身体は健康な人と、病気の方とでは方法がまったく違うと気づかされました。チューブが繋がれた方は、身体の動かし方にも専用の知識が必要ですし、誤嚥の防止にも気を配らなくてはなりません。
もう一つ痛感したのが、20数年間でノウハウが大幅にアップデートされていたことです。私の知識ではあまりお役に立てず、心苦しく悔しかったです。「将来的に必要」と思って取る資格は常に勉強し直すことと、実践する場を持つことが不可欠だ、と思いました。
(後編に続く)
更新:01月29日 00:05