
ハラスメントへの意識が高まる一方で、「
※本稿は、田島ヒロミ 著『昭和型のマネジメントは本当にもう通用しないのか』(すばる舎)より、内容を一部抜粋・編集したものです。
昭和時代、そもそも“ハラスメント”という言葉は存在しませんでした(言葉自体はありましたが、今ほど社会で認知はされていませんでした)。
知られていないということは、概念や考え方がなく、意識も行動もされないということです。
当時は、人前にもかかわらず大声で叱られたり、残業や休日出勤を強制されたり、プライベートなことに踏み込まれたりと、思い出すとキリがありません。
飲み会の席では、女性社員に「彼氏はいるか?」「結婚はまだか?」と平気で聞くなど、ここでは書けないような内容もたくさん見てきました。
私自身もいろいろと嫌な思いをしましたが、当時は「会社ってそういうものなんだ」と受け止めていました。
そんな時代を表すものがあります。当時のある生命保険会社では、お客様の職場でばらまきギフトとして、カードサイズの外国人の女性のヌードカレンダーを配っていたのです。
当然、社内にはコンプライアンス部門はありませんし、通報窓口なども設置されていません。
令和の時代では、絶対にありえない状況ですね。
今は、多くの企業でコンプライアンス部門が設置され、「法令遵守・ハラスメント禁止」という社内教育が徹底されています。
特にマネジャー含めた管理職のハラスメントに対する意識は高く、言動にはかなり気を遣っています。
社員はそういった問題が出れば、法律や制度でしっかりと守られている環境にあります。
マネジメント自体もコンプライアンスを意識するあまり、業務の優先順位や指導方法がどんどん変化してきています。
企業研修で話を聞くと、マネジャーはそういった変化に適応していかなければならず、やや窮屈そうに部下とコミュニケーションを取っているようです。
特によく出てくる相談は、ハラスメントを意識しすぎるあまり、
「少し強めに指導すると、ハラスメントを受けたと言われるのではないか」
「逆に間違った行動を指導しないと、たいしたことないと思わせるのではないか」
「プライベート面を話して打ち解けようと思っても、セクハラと思われるのではないか?」
「そんな心配をするのであれば、いっそ話しかけないほうがいいのではないか?」
総じて、部下との距離感が掴めていないことに悩みを抱えているようです。
私も外資系の会社でマネジメントをしていたとき、ハラスメント防止の観点から「部下から誘われて飲みにいくのはいいが、自分から部下を飲みに誘わないように」と言われていました。
また、極端な例では、当時こんなことがありました。
人事面談の時期、マネジャーは部下たちと面談するために会議室を使います。そのため、会議室が予約でいっぱいになってしまいます。
ある部署の男性マネジャーが、会議室が予約できないということで、会社が入っているビルの1階のカフェで女性の部下と人事面談をしたそうです。面談終了後に、その女性が社内通報制度で「セクハラを受けた」と報告しました。そして、会社から人事面談でカフェの使用禁止の通達が出ました。
私を含めた当時のマネジャーたちは、「カフェで面談することがセクハラになるのか!」と驚きとともに受け止め、どこで面談したらいいのか途方に暮れた記憶があります。
この事例を某物流会社のマネジャー向けのコンプライアンス研修で話したことがあります。反応は想定どおり、男性社員は「それがハラスメントにあたるのか」とザワザワとした雰囲気になりましたが、そこで女性のマネジャーが手を挙げてこう指摘しました。
「男性の方はそんなつもりではないとおっしゃいますが、それがハラスメントの根源ではないでしょうか?肝心なのは相手の女性がどう感じたかです。そもそも、その男性マネジャーと部下の女性との間で、日頃からコミュニケーションがあったのでしょうか?もしかしたら二人の間に信頼関係がなかったことが要因かもしれません。信頼関係がない上司からいきなり社外のカフェで話したいと言われたら、女性は警戒すると思います」
振り返ってみれば、昭和時代は組織の中でも頻繁に飲みに行ったり、社員旅行に行ったり、お互いの家に行って家族同士で交流したりなど、さまざまなイベントを通じたチーム内での付き合いがありました。
その結果、仕事面もプライベート面も相互理解が進み、本音が語れる信頼関係が必然的に育まれていったのでしょう。
だから、ハラスメントという言葉が浸透していない中でも、多少の厳しい指導やセクハラまがいの発言も、お互いにとって今ほどは深刻な状態にならなかったのではないかと感じます(もちろん、それが嫌だった、ずっと我慢していたという方もたくさんいらっしゃると思いますので、その点は補足しておきます)。
令和の時代においては、コンプライアンスを気にするあまり、つい部下と一定の距離を保ってしまうことも多くなっているかと思います。
まずは、マネジャー自らが部下との時間を積極的にとって、部下のことをよく理解し、自分のことも知ってもらうこと。そのうえで、部下の成長のために状況に応じてしっかり指導することが大切ではないでしょうか。
更新:07月22日 00:05