2022年12月26日 公開
2022年12月26日 更新
匿名掲示板「2ちゃんねる」の開設者として名を馳せ、近年はコメンテーターとしても一躍ブレイクを果たした西村博之(ひろゆき)氏。合理性重視の軽妙な語り口で人気を集める西村氏に、ミドル世代のビジネスパーソンが今後の人生を賢く、明るく、ラクに生き抜くためのコツを聞いてみた。(取材・校正:林加愛、写真撮影: 榊智朗)
※本稿は、『THE21』2023年2月号に掲載の記事より、内容を一部抜粋・編集したものです。
――昨年9月に刊行されたご著作『99%はバイアス』が話題です。ひろゆきさんから見ると、日本の一般ビジネスパーソンにもバイアス(思い込み)にとらわれている部分があるのでしょうか?
【西村】もちろん。結構「不合理なこと」を当然のように受け取っている部分は多いと思います。特に、日本全体に漂う「値上げ」への過剰な忌避感なんかは気になりますね。
ほら、日本だと「行列のできるラーメン」的なお店が方々にあるじゃないですか。でも、他の国では行列ができるほど人気があるなら値上げするのが普通です。
以前、香港で屋台同然のお店にミシュランの星がついたというニュースがありましたが、その時も営業形態の変化が素早かった。瞬く間に高級ホテルの1階に入り、値段も相応のものにしてしまいました。
値上げすればお店は儲かるし、お客の側も本当に食べたい人が待たずに食べられる。座席数と営業時間が決まっている以上、行列をいくら獲得したところで売上はアタマ打ちなんですよ。
需要が供給を上回っているのを、ちょうど待たずに入れる数のお客さんが来る価格に調整すればいいだけなのに、日本の人はなぜかそれを嫌がりがち。行列はウチの誇りだから...とか言うんですよね。
――確かに「軽率な値上げは客に失礼」というような思い込みがある気がします。ひろゆきさんも、ご自身の「見せ方」などで意識されていることはあるんでしょうか?
【西村】えっと、なんすかね。1つは、自分の著作権とか肖像権を主張しすぎないこととか。例えば今、おしゃべりひろゆきメーカー(注:ひろゆき氏の声音、口調で好きな文章を喋らせることのできるボイスロイド)が注目されてますけど、あれもメールで一度「こんなん作って、公開してもいいですか?」「はい、ご自由に」というやりとりをしただけ。
でも、あれのおかげで世間に「ひろゆき」っぽいコンテンツが勝手に増えているんです。2ちゃんねるやニコニコ動画でも活用していた手法ですが、現代では「みんなに勝手に宣伝してもらえる戦略」がメチャクチャ強いと思います。
例えば「東方Project」というゲームはその典型例。一定のルールに則していれば、キャラクターもゲーム音楽も二次利用し放題。音楽に勝手に歌詞をつけてレコーディングし、販売してもいいんです。使ってもらうこと自体が宣伝になり、結果的に権利者も得をする。この戦略が奏功し、今や20~30代を中心に破格の認知度を獲得しています。
それなのに、古い業界ではいまだに「映画の製作予算40億円、うち20億円が宣伝予算」なんて話が普通にあるんですよね。コンテンツを世間に広めるにはコストがかかって当たり前だって、みんな思い込んでいる。
だからこそ、「いや、コストをかけずにみんなが勝手に広げてくれる方法があるじゃん」と気づけた人が有利なんです。過去に圧倒的多数の人がやってきた前例は疑いようもなく正しい、という思い込み(バイアス)から自由になるだけで、相当生きるのがラクになると思います。
――ミドル世代が、職場で「厄介な中年」にならないために注意すべきことについても教えてください。
【西村】それは、あのー、まず人に何かを説明する時に「とりあえず自分の経験から説明する」のはダメですね。それをしていると、人生は確実に下り坂になると思います。
経験を積んでいる年長者には「この状況ではこうでしょ」と経験ベースで語れてしまう部分は確かにあるでしょう。
でも、それを言われる側は「そんな昔の話をされても」「正しい部分もあるけど、もう時代が違うよ」と思っているもの。反論されないからとそれを続けていると「ま、この人の言うことは話半分で聞いとこう」となってしまうのがオチです。
そうならないために、説明やアドバイスは経験ベースではなく、客観的な根拠をもとにすることを習慣づけてください。大学でレポートや論文を書いていた頃の気持ちを、久しぶりに取り戻してほしいと思います。
ちなみに、経験ベースの話の使い時は、「傷ついている人に寄り添うとき」です。部下が凹んでいるときこそ「経験」の出番。「実は自分もこんなことがあって」「気持ちはすごくわかる」なんて話をしてあげればいいんじゃないでしょうか。
――ひろゆきさんといえば、最近ではYouTubeで視聴者からの質問への迅速かつ的確な切り返しでも注目されています。短い時間で的確な判断をする秘訣は何ですか?
【西村】んー...何かを判断するとき、本来なら「3日考えた答え」と「5分で出した答え」には違いがないはずだと思うんすよね。だって必要な情報さえ集まれば、そこから導かれるロジックはどれだけ時間をかけようが1つしかないはずなので。
なので、情報の収集には時間をかけても、「判断」には時間はかけないよう意識しています。その分、同じ時間で多くの問題を処理できますし。
中には「いや、自分は5分と3日で答えが変わる」という人もいると思いますけど、そういう方はその時々の感情が判断にかかわってしまっているだけじゃないかなー、と。
例えばスイカ味の新商品が売れるかどうか考えるときに「スイカ、好きじゃないんだよなあ...」という感情が思考に入り込む。身体が疲れていることに影響され、本来は直接出向くべき打ち合わせを「今回はリモートでもいいでしょ」と判断してしまう。
こうした判断のブレの存在が、「スピーディーな決断」を躊躇させるんです。感情に影響されない癖をつけたほうがいいですね。
――耳が痛いです。感情を介在させずに考える癖をつけるには、どんな努力をすればいいのでしょう。
【西村】僕は「なぜ自分がそう考えたのか?」を意識的に遡ってみることが多いです。例えば「FacebookがMetaになって、VR事業に巨額の投資を実行する」と報じられたときも、直感的に「そんなすぐにはうまくいかないだろう」と思いました。
このとき大切なのは「なぜ」そう思ったかということ。自分の中の判断材料を、逆にたどってみるんです。
そうすると「昔、似たコンセプトのサービスがあったけど、頓挫したんだよな」とか、「主要企業が売り出しているVRハードは高額だし、ソフトも相当少ない。普及率もまだまだ」など、自分が参考にした判断材料が見つかります。他人を説得するつもりで、自分の論証の根拠を見返してみるイメージだと思います。
これを実際にやってみて、例えば「Facebook創業者のザッカーバーグがいけ好かないから」といった主観的な要素が判断基準になっていたら危険なサイン。自分の思考に潜むリスクを自覚できると思います。
あとは、判断速度を優先する分、発信するときも「7割当たっていればいいや」くらいに考えておくことですかね。絶対に間違いが許されない、なんて仕事は実は少ない。当たるかどうか、誰も知らないことをやるのがビジネスじゃないですか。
もし仮に間違った判断をしてそれを指摘されてしまっても、低コストで学習できてトクだと考えることです。現に僕も「ひろゆきの発言はここが間違っていた」とよく批判されますが、元々自分が絶対に正しいなんて思っていませんから。むしろ「なるほど、教えてもらえて助かるな」くらいに捉えています(笑)。
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更新:10月14日 00:05