2021年03月03日 公開
2023年02月21日 更新
コロナ禍にもかかわらず売上を維持、あるいは伸ばし続けている店や企業がある。マーケティングのプロである小阪裕司氏によれば、彼らに共通するのが「顧客リストの存在」だという。
しかし、「顧客リストを整備したけれど、使えない」「案内をしたけれどまったく反応がない」という声をしばしば聞く。いったい、何が違うのか。詳しい話をうかがった。
※本稿は、小阪裕司著『「顧客消滅」時代のマーケティング』(PHPビジネス新書)の内容を抜粋・編集したものです。
コロナ禍による外出自粛やリモートワーク・在宅勤務の流れの中、人の流れが「消滅」しつつある現在。それでも生き残っていくためには、人の流れ(フロー)に頼らず、自社の顧客(ストック)を重視するという方向に、ビジネスを変えていかねばならない。
では、「フローからストックへ」自分のビジネスを変えるにはどうしたらいいのか。その第一歩は、とにかく顧客・お客とつながることだ。ちなみに私は「顧客」と「お客」という言葉を区別して使っている。顧客とはいわゆる「リピーター」、さらには「ファン」である。
その会社と強いつながり、つまり「絆」を持つ人たちを顧客と呼んでいる。一方、これから顧客になっていく可能性がある人が「お客」である。「お客」をいかに「顧客」にしていけるか。それがフロー型からストック型へと移行するカギとなる。
アンケートを活用するなり、会員制度を作るなり、方法は何でもいい。まずは「連絡先を集める」「アプローチ手段を整える」ことがスタートとなる。
すでに顧客といえる人がいたとしても、連絡先を知らなければアプローチができない。また、せっかく「お客さん」が来てくれても、継続的にアプローチする手段がなければ、「顧客」に育てていくのは難しい。
「目先の売上が厳しい中、そんな悠長なことは言っていられない」と思うかもしれないが、それでは、いつまでたってもフローに頼らざるを得ず、世の中の動きに振り回されるビジネスから逃れることはできない。今日からでも遅くない。まずは始めることが重要だ。
静岡県でお茶の製造販売を行うある会社は、コロナ禍において顧客リストの重要性に気づき、急ぎ活動を開始したところ、4カ月で5000件もの顧客リストができたという。さすがにこの数は極端かもしれないが、今、始めなければゼロのままだ。
「うちはリストが取りにくい業種だ」と考える人もいるだろう。しかし、やり方は必ずある。ここで、「最も顧客リストが取りにくそうな業界で、顧客リストを集め、ストック型に変革した」事例を紹介したい。福井県のある石材店の事例である。
この会社が扱っているのは「墓石」である。言うまでもなく、墓石のニーズは一生のうち一度あるかないかだ。そんな企業が顧客リストを集めて、意味があるのか。そんな声が多い中、現社長は地道に顧客リストを増やしていった。
時間があれば墓地に行き、先代が過去に建てたお墓を確認し、その住所や名前の追跡確認を行ったりすることで、コツコツとリストを作っていったのだ。社長自身、当初は「本当に意味があるのだろうか」とずっと半信半疑だったというが、その努力は徐々に実ってきた。
コロナ禍の中でも、その力は遺憾なく発揮された。同業他社が軒並み業績を落とす中、この会社はずっと好調を維持しているのだ。その理由が面白い。
顧客が「コロナで大変だろうから、お墓を建てたいというお客さんを紹介するよ」「お墓を直したいという人がいるから連れてきたよ」と、次々とお客さんを紹介してくれるというのだ。
あるいは「来年、再来年にリニューアルする予定だったけど、今年にするよ」という顧客もいたという。社長いわく「忙しくて休む暇もない」状態だという。まさに、地道に集め続けた「ストックとしての顧客」が危機を救ってくれているのである。
更新:11月21日 00:05