
高血圧を改善する方法として、運動は有効な選択肢のひとつです。ただし、どれくらいの運動量が適切かは慎重に考える必要があります。高血圧専門医の渡辺尚彦氏は、ハードな運動はかえって逆効果になる可能性があると指摘しています。
さらに渡辺氏は、血圧を下げるうえで重要な指標である「ナトカリ比」に対しても、激しい運動は良い影響を与えないと述べています。
ナトカリ比とは、ナトリウム量をカリウム量で割った比率のことです。たとえ塩分摂取がやや多めでも、ナトリウムを体外へ排出する働きをもつカリウムを十分に摂取し、ナトカリ比を1未満に保つことができれば、血圧は上がりにくく安定しやすくなります。
一方でカリウムが不足すると、高血圧のリスクが高まるだけでなく、脳卒中や心筋梗塞といった重大な疾患につながる可能性もあるため注意が必要なのです。書籍『血圧を下げるのに減塩はいらない! ナトカリ比であなたの血圧は下がる』より解説します。
※腎機能がステージG3b以上に低下している方はカリウムを体外に排出しにくく、高カリウム血症など重篤なリスクがあるため、摂取は自己判断せず必ず医師の指示に従ってください。
※本稿は、渡辺尚彦著『血圧を下げるのに減塩はいらない! ナトカリ比であなたの血圧は下がる』(アスコム)より一部抜粋・編集したものです。
高血圧の予防に努めたり、降圧薬に頼ることを遅らせたりするためには、今現在の生活習慣を見直すことがなによりも大切です。
もちろん、高血圧治療の一環として降圧薬を始めた場合においても、生活習慣の改善には大きな意義があるといえるでしょう。
食事制限や運動、適正体重の維持、節酒、禁煙などなど、みなさんも医師から口酸っぱく指導を受けているかもしれません。
とくに運動不足は現代人にとって大きな悩みの種です。
日本高血圧学会が発行した『高血圧管理・治療ガイドライン2025』でも定められているように、ウォーキングなどの有酸素運動とスクワットや腕立て伏せといったレジスタンス運動には降圧効果の優位性があり、例えば、有酸素運動であれば毎日30分以上の継続、1回の運動は少なくとも10分以上、1週間の合計で150~300分が推奨されています。
私自身もウォーキングこそが最良の薬と考えているため、患者さんには「まずは歩数計をつけて歩きましょう」と促し、毎日の家庭血圧と一緒に歩数も記録するよう指導しています。
しかし、最初から最大限の目標を達成するのはなかなか難しいですよね。
仕事で疲れ切ってしまって体力が残っていない。運動を始めるまでの準備が億劫で時間ばかりが過ぎてしまう。休みの日にまで束縛されたくない――その気持ちはすごくよくわかります。
語弊を恐れずにいえば、じつは高血圧の方は、そこまで運動を頑張らなくていいのです。
健康維持にいいとされるウォーキングやランニングといった有酸素運動も、体や心臓に大きな負担をかけてしまっては逆効果。前向きに取り組もうとするまじめな方ほど陥ってしまう罠ともいえるのですが、頑張りすぎは禁物です。
みなさんも新聞やテレビのニュースで見たことがあるかもしれませんが、ランニング中に急性心不全を起こして倒れてしまったり、そのまま命を落としてしまったりするケースも少なくありません。
ちなみに、私も血圧や心拍を記録しながら、ランニングマシンで全力疾走したことがあります。なんと、心拍は209、収縮期血圧は230mmHgまで跳ね上がりました。
私も長いこと血圧を測り続けてきましたが、これが最高記録です。
一方で、走るのをやめると今度は血圧が急降下し、その反動でフラフラして気持ち悪くなってしまいました。
このように全力疾走は心臓にも負担がかかり、血圧も大きく上がってしまいますので、ハードな運動が高血圧患者の方にとってリスクであることは言うまでもありません。
結論としては、毎日のウォーキングだけでじゅうぶんです。
そのウォーキングにおいても、まずはご自身のペースで、無理なく続けることを目標に取り組んでいきましょう。
これまでに高血圧の方にとってハードな運動は逆効果であり、とくに心臓の悪い人はランニング中に急性心不全などを起こしてしまうリスクがあることも説明してきました。
じつは、そういった運動を勧められない理由がほかにもあります。
それはカリウムが、水溶性ミネラルだからです。
多量の汗をかくと、水分やほかの水溶性ミネラル(ナトリウムなど)と一緒にカリウムも体から排出されてしまいます。せっかくナトカリ比を整えるために、カリウムを意識した食事をしているのですから、その努力を無駄にしたくはありませんよね。
そればかりか、カリウムが大きく不足すると、筋力の低下や全身倦怠感、こむら返りなどの筋けいれん、不整脈といった症状も引き起こします。
わかりやすいところでいえば、夏バテも発汗によるカリウム不足が原因にあり、みなさんも疲労感やだるさ、食欲不振に悩まれた経験が一度はあるのではないでしょうか。
また、昨今は夏を中心に異常なほどの高気温が続くため、そもそもハードな運動による脱水症や熱中症の危険性も非常に高くなっています。
まずは安全を第一に。そして、健康維持を目的とするのであれば、ナトカリ比に影響が出ない程度の運動に取り組むことが重要です。
更新:03月03日 00:05