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「街」への早めの住み替えで健康寿命を延ばそう。人生100年時代、住まいの常識もアップデートを!

2026年03月06日 公開

近藤克則(千葉大学予防医学センター特任教授)、宮本俊介(積水ハウスシャーメゾンPM東京㈱取締役)

グランドマストの宮本取締役と千葉大学の近藤克則教授

人生100年時代、健康寿命への関心が高まっている。食事内容や運動習慣にはすでに多くの人が気を配っているが、高齢期にどんな街や住まいに暮らすかという「住環境」も重要だ。中でも、「街中への早めの移住」が健康寿命やウェルビーイングに良い影響を与えるという。(構成:三井カナ/写真撮影:吉田和本)

※本稿は、『THE21』2026年4月号の掲載記事より、内容を一部抜粋・編集したものです。

 

「良質なサ高住」への高まるニーズ

――千葉大学で健康長寿社会を実現するための研究をされている近藤克則先生と、積水ハウスグループのサービス付き高齢者向け住宅(以下、サ高住)「グランドマスト」を展開されている宮本俊介取締役。お二人は、「シニア住宅と高齢者のウェルビーイング」に関する共同研究をなさっていますね。

【宮本】はい、もう3年半になります。グランドマストは「自立型」のサ高住で、介護度の比較的低い方や自立して生活できる方向けの住宅です。

首都圏を中心に39棟を展開していますが、そのコンセプト(「駅に近い立地」「買い物が徒歩圏で完結」など)と、先生が推奨される高齢期の住環境に多くの共通点があると知ったのがご縁の始まりでした。

【近藤】私が代表を務める「日本老年学的評価研究(JAGES)」では、全国各地の高齢者を対象とした大規模調査を経年的に行なってきました。健康寿命というと生活習慣といった「人」の話に目がいきがちですが、調査の中で見えてきたことの一つは、街や住まいといった「住環境」の違いが健康寿命を左右するということです。

グランドマストを見学させていただいたとき、その立地や空間づくりが私の提唱してきたことに非常に近いと感じました。そこで入居者の方々にアンケート調査をさせていただき、JAGESに蓄積された地域に暮らす高齢者のデータと比較しました。属性(年齢・所得・日常生活自立度など)が似通った人たちをマッチングし、グランドマストのアンケート回答者と地域居住高齢者とを比較した結果、ウェルビーイングに関連する項目で統計学的な有意差が出ました。

入居者の方々のほうが、例えば「笑う頻度」は1.3倍、「外出頻度」も1.8倍高かったのです。どんな住まいや街に住むかが高齢期の健康や幸福度を左右する、と再認識した次第です。

【宮本】2018年出版のご著書のタイトルも、ズバリ『長生きできる町』でしたね。その後8年、高齢期の住環境に対する関心はかなり高まったと思います。

【近藤】医学界でも住環境の重要性を語る方が増えました。

【宮本】健康寿命を延ばす取り組みは、業界を超えて広がっていますね。グランドマストにも、化粧品会社の方から「メイクのセミナーをさせてほしい」という依頼や、電子機器の会社からウェアラブルデバイスのモニター依頼などがよく来ます。

【近藤】宮本さんは「高齢者住宅協会」理事副会長として行政との連携も進められています。

【宮本】協会としては、サ高住の現時点における整備戸数が29.2万戸弱(2025年12月)のところ、2030年の時点での必要数は39万戸程度(2021 年に閣議決定された「住生活基本計画(全国計画)」にて設定された、高齢者向け住宅の2030 年度の目標値149 万戸に対して、サ高住の占める割合を2022年度と同比率(26%)として算定した戸数)とみており、つまり今後5年間で約10万戸もの整備が社会的に求められていると考えています。

質の面でも、国土交通省は、「高齢者の健康寿命の延伸に資する良質なサ高住への支援」の重点化の方向性を出しており、これに基づいて、①豊かな暮らしのための40㎡以上の居室で、②地域に開いており、③住宅内にもコミュニティがあるサ高住への支援が重点化されるものと非常に期待しています。

 

元気なうちに「街中」へ住み替えることの重要性

グランドマストの施設と要介護・要支援認定率

――「住む街」と健康寿命の関連性について、さらに詳しく教えていただけますか。

【近藤】長年の調査研究でわかってきたのは、便利な場所にあり、出かけたくなる街に住むことが健康寿命の延伸に関わるということです。徒歩圏に駅や商業施設があれば、車がなくても気軽に外出できて、アクティブになれます。「免許返納後に人との関わりが減る」といったことも防げて、健やかな心身を長く保てるのです。

【宮本】地方や郊外に住む高齢者が、街中へ住み替える流れがより進んでほしいですね。徐々に増えてはいますが、長年住んだ家を離れたがらない方も、まだ多くいらっしゃいます。

【近藤】昔ながらの「住宅すごろく」の考え方を切り替える必要がありますね。若い間は賃貸に住み、その後マイホームを郊外に買い、年を重ねて不自由を感じつつもそこで暮らし、限界が来て介護付き施設へ……というすごろくは、人生後半のウェルビーイングを考えると、ベストではないでしょう。

【宮本】「せっかく買った家だから」という気持ちが働くのでしょうか。

【近藤】加えて、「この年で環境が変わると健康を損なう」というためらいもありそうです。いわゆる「リロケーションダメージ」ですね。確かに1980~90年代、地方に住む老親が子どもに呼び寄せられて都会に移り、環境に馴染めずに心身が衰えるという事例が見られました。しかしその後の研究でわかったのは、移住先の生活を楽しめれば衰えることなく、むしろ元気になれるということです。

【宮本】ならば、そうした街や住まいへ元気なうちに移住したほうが健康寿命を延ばせますね。現在、75歳~84歳の人口は約1400万人、うち要支援・要介護認定者は約17%=約246万人。残りの83%=1160万人以上が今は自立期にいます。この層が元気に活動できる期間を延ばし、社会保障費増大を抑制することは極めて重要です。また、郊外や地方の家の売却が進めば、住宅資産を子育て世代に循環させることもできます。

 

自然と醸成される快適なコミュニティ

――生活を楽しめる環境の一要素として、「人との関わり」は大きな役割を担っているのでは。

【近藤】その通りです。中でも近年注目されているのが共食です。「人と共食する頻度が多い人ほど、3年後の幸福度が高い」ということが明らかになっています。対して「孤食」している方の幸福度は低いですね。

【宮本】昨今、世代を問わず孤食が増えていますね。単身者や、生活時間帯がまちまちな家庭が増えているせいでしょう。「人と食事をする」はひと昔前なら誰もが当たり前にできたことなのに、今はそれが難しい。だからこそ我々のような立場の人々が、快適なコミュニティを提供していく必要があるのですね。

【近藤】グランドマストさんにはその点、様々な工夫がありますね。食堂ではいつも入居者の方々が談笑されていますし、玄関を通るときにサークル活動のスペースが自然と視野に入る構造になっている。壁には季節ごとのイベントの告知も掲示され、様々な集まりに気軽に参加できそうです。

【宮本】まさに意図したところです。同時に、「一律にしない」ことも心がけています。いつも誰かといる必要はなく、一人で外食するもよし、居室のキッチンでつくるもよし。サークルやイベントに参加するか否かも、もちろん自由です。

【近藤】「eスポーツと健康寿命」に関する共同研究では、入居者の方々に『太鼓の達人』などのゲームを体験していただきましたが、これも自由参加でしたね。

【宮本】やりたい人だけ集まる形ですが毎回大盛り上がり(笑)。

【近藤】データ収集期間が終わったとき、「ゲームを続けさせて」と嘆願書が来たそうで(笑)。

【宮本】そうなんです。なので現在も継続中です。

【近藤】ちなみに「応援」にも、幸福度を上げる効果があります。スポーツ庁の依頼で、現地観戦の有無を尋ね3年間追跡したところ、年数回の現地観戦者で3年後の幸福感が高いという結果が出ました。

【宮本】わかります。応援している方々もとても楽しそうです。分析結果が今から楽しみです。

 

良質な高齢者施設をもっと増やすために

――高齢者住宅の望ましい将来像や、今後の取り組みについてもお聞かせください。

【宮本】総人口はすでに減少局面に入っていますが、20年後には高齢者人口も緩やかに減少に転じていきます。では良質なサ高住が余るかというと、そんなことにはならないと思います。なぜならどの世代でも単身者が増えるから。良質なサ高住はいずれ「サービス付き単身者住宅」になっていくと予測しています。

【近藤】老若男女が、共に暮らす場所に?

【宮本】楽しそうですよね(笑)。これはひと部屋40㎡以上の良質なサ高住だからできること。有料老人ホームの場合、標準的な部屋は13㎡~で、浴室やキッチンも共用ですから転用は難しい。その意味でサ高住はサステナブルな住まいでもあります。

【近藤】全世代向きと考えると、読者世代の方々にも無縁ではありませんね。

【宮本】50代の方々の多くは親御さんの心配をされていると思いますが、自らの暮らし方も今のうちに考え、先生のおっしゃる「住宅すごろく」からの脱出を準備してみてはどうでしょう。

【近藤】いいですね。この世代が健康寿命を延ばせば、将来の社会に多大な好影響をもたらすでしょう。一人の介護サービス利用が1年遅くなれば約200万円、100人なら2億円の社会保障費が削減されますから。

【宮本】先生は、そうした効果の大きさに応じて行政から報酬を得る形の研究も手がけていらっしゃいますね。

【近藤】はい、「ペイ・フォー・サクセス(PFS)」という仕組みです。例えば、あるサ高住で、一定期間に出た要介護認定者の率が、自宅暮らしの方々の半分だったとしましょう。前者にかかる社会保障費が2000万円、後者が1000万円なら、1000万円が浮きますね。行政としては、例えば7掛けの700万円を報酬として払ったとしても、300万円「お得」なわけです。報酬が増えたサ高住の側も、そのぶん家賃を抑えて、より広範な方々が良質なサービスを受けられるようにする、といったことができます。

【宮本】要介護の方々だけでなく、健康寿命を延ばしている方々にも社会保障費が還元される。払った社会保険料が広くいきわたるのは公平ですね。

【近藤】何より、良い事業者ほど成功報酬が大きくなり持続可能性が高まる。悪い事業者の淘汰も進んでほしいですね。

【宮本】今はまだ、事業者によって質がバラバラで憂慮しています。しかも一般の方々がそれを見分けづらい。そこで今取り組んでいるのが、高齢者住宅協会が相談窓口をつくることです。住宅・不動産関連企業が横断的に集まる組織ですから、フラットな情報を提供できます。

【近藤】いいですね! 私が今後進めたいのは、高齢者住宅の「質の見える化」。グランドマストさんを含め各社のデータをとらせていただき、入居者のウェルビーイングなども相対評価して、住環境の質が見える仕組みをつくれば改善努力が進むでしょう。

【宮本】供給を増やす、相談窓口をつくる、質の見える化。住宅業界をあげて、先生方とも連携し、ぜひ実現させましょう。 

 

【近藤克則】
1983年、千葉大学医学部卒業。船橋二和病院リハビリテーション科長、英ケント大学カンタベリー校客員研究員、日本福祉大学教授、千葉大学教授などを経て、24年より現職。「健康格差縮小を目指した社会疫学研究」で2020年度「日本医師会医学賞」、令和7年度文部科学大臣表彰 科学技術賞(研究部門)などを受賞。

【宮本俊介】
1987年、成蹊大学法学部卒業。積水ハウス㈱埼玉西シャーウッド支店長、武蔵野支店長などを経て、2019年よりサービス付き高齢者向け住宅「グランドマスト」の事業責任者を務める。一般社団法人高齢者住宅協会理事副会長も務める。

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