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「緊張するな」と念じるほど逆効果? ホークスコーチが教える"心理の罠"の解き方

伴元裕(福岡ソフトバンクホークスメンタルパフォーマンスコーチ)

「集中力革命」

福岡ソフトバンクホークスのメンタルパフォーマンスコーチとして、チームの優勝・日本一に貢献した伴元裕氏。アスリートに限らず、誰しもが頭を悩ませる「緊張」とどう向き合うべきか。プロの目線で解説してもらった。

※本稿は、伴元裕著『集中力革命 ブレても力を発揮するメンタルの技術』(Gakken)より一部抜粋・編集したものです。

 

「考えないようにする」はうまくいかない

大事な場面を前にして、頭の中でこんな言葉を繰り返した経験はないでしょうか。

「緊張するな」「不安になるな」「余計なことを考えるな」

スポーツでも仕事でもプレゼンでも、自分を整えようとして、こうした言葉を自分にかけるほど、胸の奥がざわつき、呼吸が浅くなり、かえって余裕がなくなっていく。そんな感覚を味わったことがある人は、決して少なくないはずです。

私たちはこれまで、「冷静に考えられればうまくいく」「不安を抑えられれば結果につながる」と教わってきました。その努力自体が間違っていたわけではありません。ところが、実際の心理学の分野では、以前からこんな逆説が知られています。

「考えないようにしよう」と思った時点で、私たちはすでに、そのことについて考えている――。

「今は緊張してはいけない」と意識した瞬間、頭の中にはまず「緊張」という言葉や感覚が浮かんでいます。「不安になるな」「ネガティブなことは考えるな」と自分に言い聞かせるほど、私たちは無意識のうちに、不安やネガティブな考えを何度も確認することになるのです。結果として、それらはかえって存在感を強めていきます。

これは、スポーツの場面でもよく起こります。たとえばゴルフで、右側に池があるホールに立ったときのことを想像してみてください。池が視界に入った瞬間、「あそこだけは避けたい」「池には入れないようにしよう」と頭の中で言い聞かせます。

すると、意識の中では、避けたいはずの池のイメージを、知らないうちに何度もなぞることになります。その結果として、実際には池に入る確率が高まっていく。そんな経験に、心当たりがある人もいるかもしれません。

この性質を、春季キャンプの中でホークスの選手たちにも体験してもらったことがあります。まず、ある写真を見せました。黄色いジープが写っています。形も色もはっきりした、少し目を引く車を、数秒間しっかり見てもらいました。そのあと、こう伝えます。

「これから1分間、黄色いジープのことを一切考えないでください」

1分が経過したあとに聞いてみると、試してもらった60人ほどの選手の中で、本当に一度も思い出さなかったと言えたのは、数名だけでした。多くの選手が、「ダメだと思った瞬間に浮かんできた」「消そうとしたら、逆に頭に残った」と口を揃えていました。これまで、黄色いジープのことなど、特別に考えたことがなかったにもかかわらずです。

ゴルフの池の例も、黄色いジープの実験も、起きていることは同じです。考えないようにしよう、避けようとしようとした対象に、注意が強く向いてしまう。その結果として、頭の中では何度もそのイメージが再生され、現実の行動にも影響を及ぼしてしまう。これは、意志が弱いからでも、メンタルが弱いからでもありません。人の心に備わっている、ごく自然な反応です。

これまで見てきたように、感情は出来事そのものから直接生まれているわけではありません。出来事と感情の間には、注意や捉え方といった段階があります。「考えないようにする」というアプローチは、その対象にかえって強く注意を向けてしまいます。だからこそ、良かれと思ってやっていることが、うまくいかない場面が生まれてしまうのです。

では、どうすればいいのでしょうか。考えないようにするのではなく、無理に前向きに捉え直すのでもありません。大事な場面で力を発揮するためには、これまでとは少し違う視点が必要になります。

 

大切なのは「注意がどこに向いているか」

これまで見てきたように、「考えないようにしよう」とするほど、かえってその対象が頭から離れなくなる、という逆説があります。

緊張するな、余計なことを考えるなと自分に言い聞かせた瞬間、私たちはすでに、その対象を意識の中心に置いてしまっている。これは人の注意が持っている、ごく自然な性質です。

また、スポーツの現場では、こんな声かけもよく交わされます。

「自信を持っていけ」「ミスを気にするな」「楽しめ」

これらの言葉が、選手を楽にすることも確かにあります。しかし同時に、こうした言葉が、思いがけず別の反応を引き起こす場面もあります。

自信を持とうとした瞬間に、ふと「今の自分は本当に自信を持てているだろうか」と浮かんでしまう。あるいは、楽しもうとしたはずなのに、「楽しめていない自分」に気づいてしまう。そんな経験に、心当たりがある人もいるかもしれません。

どちらの例でも起きているのは、捉え方をコントロールしようとしたときに、かえって考えたくなかった思考が浮かんでくるという現象です。

考えないようにしようとすると、そのことを考えてしまう。自信を持とうとすると、本当に持てているかを意識してしまう。良かれと思って行っているはずの試みが、意図とは別の方向へ注意を動かしてしまう。ここでは、まずその構造がある、という点を押さえておきましょう。

不安や緊張そのものが悪いわけではありません。それらは、本気で取り組んでいるときに、自然に起こる反応です。大切なのは、その中身をどうにかしようとすることよりも、そのとき注意がどこに向いているかです。

私たちの内側では、出来事があり、そこに注意が向き、その先で捉え方が生まれ、感情が立ち上がり、行動へとつながっていく流れがあります。

「考えないようにする」「整えようとする」という試みは、この流れの途中で、注意の向きに影響を及ぼしやすくします。その結果として、注意が当初とは違うところへ向いてしまうことがあるのです。

このように、注意は私たちが思っている以上に揺れ動きます。良かれと思って行ったことが、意図とは別の方向へ注意を動かしてしまうこともあります。不安や緊張、浮かんでくる思考そのものが問題なのではありません。大切なのは、「今自分の注意がどこに向いているのか」という点なのです。

プロフィール

伴元裕(ばん・もとひろ)

福岡ソフトバンクホークスメンタルパフォーマンスコーチ

株式会社OWN PEAK代表取締役。7年間の商社勤務経験を経たのち、米国オリンピックトレーニングセンターのメンタルトレーニングを学ぶため渡米。デンバー大学大学院スポーツ&パフォーマンス心理学修士課程を修了する。在学中にMLSコロラドラピッズアカデミーにてメンタルトレーナー(インターン)を経験。2017年に帰国後、OWN PEAK創業。スポーツ、ビジネス、教育現場における実力発揮のためのメンタルスキルの獲得を支援している。

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