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自信がなくても結果は出せる! プロ野球選手が本番で実践する「注意の向け方」

伴元裕(福岡ソフトバンクホークスメンタルパフォーマンスコーチ)

「集中力革命」

福岡ソフトバンクホークスのメンタルパフォーマンスコーチとして、チームの優勝・日本一に貢献した伴元裕氏。氏は、「自信をもって臨めばよい結果が出る」という考え方は正確ではないという。その理由を解説してもらった。

※本稿は、伴元裕著『集中力革命 ブレても力を発揮するメンタルの技術』(Gakken)より一部抜粋・編集したものです。

 

「自信」は過大評価されている

正しく対処しようとするほど余裕が削られたり、本番で思うように力が出せなかったりします。そんなとき、私たちはその原因をどこに求めようとするのでしょうか。

多くの場合、そこで持ち出されるのが「自信」という言葉です。「自信を持って臨めた」「自信がなかったから崩れた」「まずは自信を持とう」。競技の現場でも、仕事の場面でも、こうした言葉が交わされる光景は珍しくありません。

実力が発揮できたかどうかは、「自信があったか、なかったか」と結びつけて語られがちです。振り返りの場面でも、状態を一言で表す言葉として、「自信」という表現が選ばれることがあります。

確かに、自信があると感じているときは、注意があちこちに飛び回りにくくなる側面があります。余計な確認や評価が入りにくくなり、目の前の行動に腰を落ち着けやすくなる。そうした感覚があること自体は否定しません。

ただし、ここで押さえておきたいのは、実力を発揮できるかどうかを決めているのは、自信そのものではないということです。

本当に影響しているのは、注意がどこに向いているかです。注意が「今、やるべきこと」に戻り続け、行動が途切れなければ、力は発揮されます。自信があってもなくても、注意が戻り続けていれば、力は自然と発揮されていきます。

問題になるのは、自信を「必要な条件」として扱い始めたときです。「自信を持てているかどうか」が確認項目になると、「今の自分は自信を持てているのだろうか」「まだ自信が足りないのではないか」といったチェックが入りやすくなります。その瞬間、注意は行動から内側へと引き戻されます。自信という言葉が、ここで〝うまくやれているかどうかを測る指標〟として機能し始めてしまうのです。

すると、「まずい、自信を持てていない」という新たな焦りが生まれ、その状態をどうにかしようとする意識が強まります。その結果、注意はさらに目の前から離れ、「管理者モード」のスパイラルに入っていきます。正しくやろうとしているのに、かえって余裕が削られていく構造は、ここでも繰り返されてしまうのです。

自信を持てているかどうかよりも、そのとき注意はどこに向いていたのか、どんな感情や思考があり、何に注意を向けていたのかという点に注目してみましょう。自信が十分だとはいえない状況の中でも、適切な注意と行動によって力が発揮されていた経験があったことに、きっと気づくはずです。

そういう意味で、「自信」は過大評価されていると感じています。実力を引き出しているのは、自信という感覚ではなく、注意の向きと、そこから選ばれる行動なのです。

 

感情を否定しないという選択肢

誰もが、本番が近づくにつれて、呼吸が浅くなったり、視界が狭く感じられたりなど、体の感覚が少しずつ変わっていくのを感じたことがあると思います。スポーツの試合前でも、プレゼンの直前でも、あるいは大事な話を切り出す直前でも、似た感覚が訪れることがあります。

多くの場合、その変化は「緊張しているから」「不安になっているから」と説明されます。そしてその瞬間、自分の中で、こんな評価が立ち上がります。「今日は硬いな。このままだと失敗しそうだ。集中できていない......」

注意が未来や評価に向いていると、同時に目の前の動きや感覚から注意が離れていきます。呼吸の深さやリズム、足裏の接地感、手の感覚や重さといった五感を経た情報が、以前ほどはっきり届かなくなり、視野が狭まり、周囲の音も感じにくくなっていきます。

不安や緊張には、注意を動かす働きがあります。さらに、危険や失敗の可能性を知らせ、視野を狭め、あちこちを確認させます。その意味では、不安や緊張は、注意を「今」から離れやすくする反応でもあるといえるでしょう。

ここで大切なのは、不安や緊張を抑えようとしすぎないことです。不安や緊張は、突然どこからか表れて体を支配しているわけではありません。注意が未来や評価に向き、目の前の動作から離れ続けた結果として、あとから立ち上がってくる感覚のまとまりのようなものです。

問題になるのは、その感情を消そうとしたり、抑え込もうとしたり、戦おうとしたときです。その瞬間、注意はさらに内側へ引き戻され、「今の自分は大丈夫か」という確認と評価が増えていきます。その結果、注意はますます目の前から離れてしまいます。

実際、同じくらいの緊張感の中でも、体の感覚が保たれている人はいます。呼吸が浅くなりながらも、一定のリズムで話すことができている。胸がざわついていても、目の前の動作に集中できている。その違いは、メンタルの強さではありません。性格でも、意志の強さでもありません。どんな感情があっても、注意をどこに戻せばいいのかがわかっているかどうかの違いです。

「緊張しているからダメ」「不安があるから集中できない」、そう結論づけてしまうと、体に起きている変化が、すべて敵のように見えてきます。そして、余計にそれを消そう、抑えよう、整えようとする方向へ進んでしまいます。

けれど、体に起きている変化そのものは、何かが壊れたサインではありません。ただ、注意が別の場所に居続けた結果として、自然に起きている反応です。

「不安があるから集中できない」のではありません。注意が未来や評価にとどまり続け、そして、その状態をどうにかしようと感情と戦い始めた結果、注意がさらに「今」から離れていくのです。

たとえば、2025年にパ・リーグ最高出塁率のタイトルを獲得した柳町達選手は、シーズン序盤のみならず、終盤になっても試合前、私のところに来ては「伴さん、僕、緊張しています」と話してくれました。

ただそれは、「緊張しているから、何とかしてほしい」という意味ではありません。自分が緊張している状態を把握したうえで、その中で何をすべきか、何に注意を向けるべきかを整理するためでした。

スポーツの世界では、「緊張すること」自体がタブーとされがちです。そのため、本当は緊張しているのに、「していない」と自分に言い聞かせてしまう選手も少なくありません。

一方で、柳町選手は、「緊張している」という事実を否定せずに受け取りながら、その状態の中で、どこに注意を向ければ自分のパフォーマンスが出せるのかを理解していました。だからこそ、シーズンを通して安定したプレーを続けることができたのです。

プロフィール

伴元裕(ばん・もとひろ)

福岡ソフトバンクホークスメンタルパフォーマンスコーチ

株式会社OWN PEAK代表取締役。7年間の商社勤務経験を経たのち、米国オリンピックトレーニングセンターのメンタルトレーニングを学ぶため渡米。デンバー大学大学院スポーツ&パフォーマンス心理学修士課程を修了する。在学中にMLSコロラドラピッズアカデミーにてメンタルトレーナー(インターン)を経験。2017年に帰国後、OWN PEAK創業。スポーツ、ビジネス、教育現場における実力発揮のためのメンタルスキルの獲得を支援している。

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