
効率性6年連続トップの「ビジネス先進国」デンマークは、幸福度ランキングでも常にトップ3に入る「幸せな国」でもある。彼らは平日午後4時に帰宅し、夏休みは3週間以上取得するという。積極的に休むデンマーク人がなぜ成果を出しているのか。彼らから日本人が学ぶべき点とは。デンマークで暮らし、その文化を研究する針貝有佳氏が、日本人の中にある「休めない」理由を、デンマーク人と比較しつつ解説する。
※本稿は、針貝有佳著『デンマーク人の休む哲学 幸福度も生産性も「いいとこどり」する習慣』(大和書房)より一部抜粋・編集したものです。
皆さんは、うまく休みを活用しながら、自分が取り組むべきことにも元気に取り組めているでしょうか。
私の場合、「休めないループ」は、たいてい同じパターンで始まります。
ちょっと気が緩んでいるときや、方向性が定まらずに迷っているときに、自分のキャパ以上のことを引き受けてしまうことから始まります。
仕事のオファーの場合もありますし、プライベートの誘いの場合もあります。
とにかく色んなことをやろうとしすぎてしまうのが「休めないループ」の始まりです。
優先順位がそれほど高くないことを予定に入れてしまうと、そこに想像以上の時間とエネルギーを取られることになります。
「あー、やっちゃった!」と思ったときには、時すでに遅し。やらざるを得ない状況に陥っていて、引くに引けなくなっていること多々です。
特に、気軽に引き受けたことに、色んな雑務がおまけのように付随していて、雪だるま式にタスクが増えていくケースもあります。
「なんとかできるかな」と思って軽い気持ちで引き受けてみたら、頼まれたこと以外に、幾度にもわたる打ち合わせ・会議・準備・確認・複雑な事務処理・メールやSNSのやり取りなど膨大な「隠れタスク」が潜んでいて、夏休みが丸潰れになったこともあります。
プライベートでも、たまには顔を出してみようかなと思って会に参加してみたら、「次は○○しよう」「今度は○○さんと一緒に...」「今度は個別に...」と、次々にあれこれのお誘いをいただくことがあります。
それ自体はとてもありがたいことですが、心底「会いたい」という気持ちからではなく、「人付き合い」に振り回されるのは避けたいところです。
仕事でもプライベートでも、後からあれもこれも増えて巨大になっていく「雪だるま」に襲われて潰れてしまったことが、私は一度や二度ではありません。
皆さんはいかがでしょうか。皆さんの「休めない」ループには、何かお決まりのパターンがないでしょうか。
近年は、スマホやパソコンが私たちの「休めない」を加速させています。
ちょっとした隙間時間に一通だけメールの返信をするつもりだったのに、結局、あれもこれも気になって、長時間パソコンの前に座ってしまった経験は、皆さんにもあるのではないでしょうか。
また、家族や友人と一緒に出かけているとき、ふと気になってスマホを見たら、別件の緊急メールが入っていて、そのことで頭がいっぱいになってしまったことはないでしょうか。
それでは、貴重な休みが台無しですし、せっかく一緒に時間を過ごしてくれている相手にも失礼になりかねません。
SNSも私たちが「休めない」要因です。
時間ができて一息ついて何気なくSNSを見たら、気になる投稿があって、コメントやリアクションなどをしていたら、長時間が経ってしまうことも「あるある」ではないでしょうか。
あったはずの「休み」が、気がつけば、あっという間に消えている。
皆さんもそんな感覚に陥ることはないでしょうか。
さて、ここで、もうひとつ質問します。
皆さんは、疲れていないでしょうか。
もし皆さんが「ちょっと疲れてるなぁ」と思ったら、それは「普通」なことです。
逆に「疲れてない」と回答したとしたら、かなり特別。あなたは圧倒的な少数派です。
日本リカバリー協会が日本の就労者10万人を対象に行った調査によれば、日本で疲労を抱えて生活している人は「約8割」に上るという結果が出ています。
明らかに、日本人の大半は疲れているのです。
けれど、疲れの要因は「休みが足りない」だけではなさそうです。以前に比べて、日本人の休日は増加傾向ですし、労働時間は減少しているからです。
では、休みが増えているのに、なぜ私たちは疲れているのでしょうか。
その答えは「休み方」にあります。
休みなのに、休めていない。
こんなふうに感じることはないでしょうか。
私がデンマークに暮らして気がついたことは、日本人は国際的にも「休めないループ」に陥りやすい国民ということです。
日本は勤勉さや忠実さを評価する国なので、日本の組織にはどことなく「休みにくい雰囲気」「無言の圧力」が漂っています。
さらに、「期待に応えたい」「周囲の目が気になる」という日本人特有のメンタリティが加わり、休みにくさに拍車がかかっています。
休む権利はあるのに、実際には休まない、休めない。
仕事の状況が気になって、上司や同僚の視線が気になって、休みにくい。そんな環境に置かれている人は多いのではないでしょうか。
日本人は有給休暇を完全消化していません。日本人の有給休暇取得率が約65%に留まっているのも「休むことへの罪悪感」が要因です。
日本特有の常識や慣習が、日本人を必要以上に疲れさせてしまっているのです。
私たち日本人は「勤勉」「一生懸命」「頑張ること」を評価するあまり、休むことに罪悪感を抱いてしまうのです。
風邪を引いたら、しっかり休む。これは、デンマークに移住して、私が知ったことのひとつです。
もちろん、日本人もインフルエンザにかかったら休みますし、私も風邪を引いたら休みます。
けれど、デンマーク人の「しっかり休む姿」には驚かされます。
まず、休み方が堂々としているのです。
「こんなときに体調を崩してすみません。ご迷惑をおかけしますが...」ではなく、「残念ながら、風邪を引いたので対応できません」と、悪びれもせずに伝えるのです。
代わりの担当者を紹介してくれれば良いですが、そうではないことも多々あります。
風邪を引いたら、休んで当たり前。風邪は誰でも引くものという認識なので「おまえは体調管理がなってない!」と叱られることもなければ、「すみませんが、風邪を引いてしまい...」という謝罪の言葉も出てこないのです。
それから、風邪を引いている間の休養の仕方も堂々としています。
たとえば、休暇中にみんなでデンマーク人である義父母宅にお世話になっているときに、義母が風邪を引くこともあります。
普段、食事やお菓子作りから細かい掃除まで、何から何までこなす働き者の義母ですが、風邪を引くと、パタッと姿を消し、寝室の住人になります。
とにかく療養することに集中し、また元気になると、みんながいる空間に戻ってくるのです。
義父も立派で、義母が風邪を引いて寝込んでいる間は、自分で色々と家事をこなしています。
私が風邪を引くときも同様です。
風邪を引いているときに、家族や取引先に申し訳ないかなと思って家事や仕事をしようとすると、デンマーク人の夫にも子どもにも「ゆっくり寝てなさい。風邪引いているんでしょ」と止められます。
風邪を引いたら、とにかくベッドに横になるのが一番。
それが元気に快復する近道なのだという考え方なのです。
おかげで、今では、風邪を引くと、堂々と横になって寝るようになりました。そうすると、たしかに、取るべき休養がしっかり取れて、復活する頃には、エネルギーが湧き出てきます。
というわけで、真っ当に風邪を引いているのであれば、堂々としっかり休んで、ベッドに横になっていて良いのです。
では、風邪も引いておらず、仕事からも解放されている「いつもの休日」はいかがでしょうか。
じつは、休日も、休みを心から楽しめていない、と感じることはないでしょうか。
せっかくの休みなのに、スマホを片手にダラダラ過ごしてしまう。それはそれでリラックスはできるけれど「充実した休日」とは程遠い。
皆さんも、そんなふうに感じることはないでしょうか。
そもそも「休む意義がわからない」「休み方がわからない」という人もいるかもしれません。
じつは、デンマーク人の働き方について講演活動をしていると、よくこんな質問をいただきます。
「デンマーク人は4時に帰って何をしているのですか」
「デンマーク人は休みに何をしているのですか」
この質問こそが日本人が「休みがあっても休めない」理由を的確に表現しているように感じます。
たとえ時間ができたとしても、何をしていいのかわからない。
だから、休めないし、休まない。
じつは、そんな人が多いのではないでしょうか。
ちなみに、こういった質問をされるのは、管理職に就いている年配の男性が多いです。
仕事三昧の日々で、家庭にも居場所がなくなり、友人に会う機会も減っているのでしょう。
また、趣味がないので、たまに暇ができても時間を持て余してしまうのでしょう。
それだったら、とりあえず会社に行った方がいい、職場や仕事関係の人と一緒にいた方が楽しい、ということなのだと思います。
というわけで、日本人が「休めない」理由には、そもそも「休み方がわからない」という事情もありそうです。
更新:01月19日 00:05