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デンマークの会議で最もNGとされている行為は?ビジネス効率性世界1位の秘密

2025年06月16日 公開

針貝有佳(デンマーク文化研究家)

雑談

「ビジネス効率性」で5年連続1位に輝くデンマーク。同国の高い生産性を支える秘密は、会議における「準備」と「工夫」に隠されていると言う。デンマーク事情に詳しい針貝氏に、その具体的な取り組みについて伺った。(取材・構成:三枡慶)

※本稿は、『THE21』2025年7月号の内容を一部抜粋・再編集したものです。

 

会議は準備とひと工夫が重要

会議を効率良く進行し、効果を最大限引き出すために、ファシリテーターは実に多様な工夫を凝らします。

コペンハーゲン市でファシリテーターを務めるラーセン華子さんは「会議は準備が8割」と言っていました。会議は開催前の段階にこそ気を配るべきなのです。

彼女は、会議の目的に応じて「開放的な場所で行なうべきか、集中できる環境で開催すべきか」という場所の選定に始まり、「会場内での椅子の並べ方を円卓形式にすべきか、セミナー形式とすべきか」などにも気を配ると教えてくれました。

また、会議の始め方にも、ひと工夫あります。

場合によっては、用意された席にそのまま座るのではなく、まず地べたにみんなで車座になり、ちょっとしたグループワークをして場を和ませてから会議に入るといった趣向を凝らすこともあります。

また会議の冒頭で、「雑談タイム」を設けることもします。

例えば、参加者の前に、夏に関連する写真を数枚並べます。そして、気になった写真をピックアップしてもらい、その人の夏についてのエピソードを披露してもらうのです。中には、夏休みの旅行など、プライベートの出来事を話す人もいれば、なぜその写真が好きなのかという感想を述べる人もいます。

プライベートに踏み込むことをせずとも、参加者各々が自発的に興味を開示できる工夫をすることで、参加者同士の理解が進みます。

どんなことに興味を持つ人なのか、人となりを理解することは、議論を深める前提として重要なのです。

 

どんな年齢・役職の意見でも興味を持って聞く

会議中は「参加者の意見を否定せずにしっかりと聞く」ということも重視されます。

会社の会議であれば、マネジメント層がファシリテーションを行なうことが一般的ですが、こうした場でマネジメント層は、若手の意見にもしっかりと耳を傾けます。立場や年齢によって意見やアイデアを区別しません。良いアイデアであれば採用します。

参加する側も、自分が会議に参加する以上、何か意見を言って、会議を効果的なものにしなければという意識があります。

誰もが積極的に意見を言う。それをみんなが興味を持って聞く。こうした姿勢の背景には「社員はアイデアの宝庫であり、マネジメント層の役目は、そのアイデアを引き出すことにある」という考えがあります。

そしてマネジメント層は、意思決定をする場面でより正しい判断ができるように、社員から引き出したアイデアを活用するのです。

デンマークでは、マネジメント層の仕事は「組織の管理ではなく、組織に属するメンバーの強みや良さを最大限に引き出し、効成果を出すこと」だと考えられています。

もちろん、会議で出る意見やアイデアが、すべてが有用というわけではありませんし、反対意見や批判的な内容が出てくることもあります。そうした意見が出た場合、デンマークの会議ではどう対処するでしょうか。

絶対にやってはいけないのは、会議の場で発言者を否定してしまうことです。大勢の前で否定をしてしまえば、否定された人はもう二度と意見を言わなくなってしまいます。会議では、参加者の意見やアイデアを引き出すことが最重要視されるため、意見を封じる対応はもってのほかなのです。

取材をしたクリエイティブ職のデンマーク人は、「意見の不一致を恐れずにぶつかりあって、一緒に解決策を導き出したときにこそ最高の結果が得られるもの。だから、批判にもオープンに耳を傾けることが大切だ」と話してくれました。

ただ、批判をする場合も内容や伝え方が重要です。まず、個人的な批判や相手の性格に対する否定はしてはいけません。

そして「なるほど、◯◯という意見だね。それなら、こういう方法もあり得るのではないだろうか」と、相手を否定せずに別の視点や方法を提示して、議論をあるべき方向へ導いたりするのです。

デンマークでは、「サンドイッチモデル」という建設的なフィードバック方法もよく用いられます。

具体的には、以下の方法です。

1. 取り組んでくれたことに感謝の気持ちを伝える
2. 気になった問題を指摘する
3. きっとうまくいくから健闘を祈っている、と伝える

この3段階を踏むことで、受け取った側も嫌な気持ちになることはなくなります。

会議の場で応用すると「◯◯という意見だね、ありがとう。その場合、こういう点を注意すべきだと思うがどうだろうか。それがクリアできればより良い結果になるはずだ。もう少し頑張ってみよう」と、最初に感謝を伝え、懸念点を示し、応援する気持ちを添えることで、発言した人間もやる気が出るはずです。

 

重要だが目的に関係ない話は、別の会議に持ち越す

会議の進行上、取り扱いに困るのが、参加者から議題とは関係ないものの重要なトピックスが提示された場合です。会議では、当初設定された目的が優先され、時間の制約もあります。

デンマークでは、こうした場合「パーキングスペース」という仕組みを活用します。ファシリテーターが「これは重要なトピックスだが、今日の会議の目的とは異なる内容なので、別の日に取り上げます」と言って、ホワイトボードなどの端に提示されたトピックスを書き残します。

意図的に除外されたトピックスは、後日議論されることが約束されているため、参加者には「無視されたわけではない」という安心感が生まれます。また、トピックスについてあれこれ考えを巡らす必要もないため、当初の目的に沿った議論に集中できるのです。

以上、述べてきたように、デンマークでは、会議のコンセプトや目的を明確化し、その会議に沿った参加メンバーを募り、会議が始まれば、終了時間と結論のまとめ方を共有して、会議の途中では脇道に逸れないようにコントロールする。そのうえで、参加者は積極性を持って意見を出し、聞き手側が否定せずに受け止める──というように、とても合理的に会議が運営されていることが理解できます。そのためにも、ファシリテーターの権限はしっかりしている点も特徴と言えます。

コミュニケーションは、相手に興味を持ち、知ろうとすることがスタート地点です。

ちょっとした会話から共通の興味や好きなことを見つけ、どんどんその人の良さを発掘していく。組織運営の観点では、引き出した良さやアイデアが仕事の効率化にもつながります。

普段の雑談が、すべてのコミュニケーションにおける基礎になっているのです。ぜひ、積極的に「雑談」を入り口にしてコミュニケーションを深め、会議の効率化も図ってみてください。

デンマーク流会議、その様々な工夫

著者紹介

針貝有佳(はりかい・ゆか)

デンマーク文化研究家

デンマーク在住。1982年生まれ。2009年末にデンマーク移住後、15年以上にわたってテレビ・ラジオ・新聞・雑誌・ウェブなどからデンマークの現地情報を発信。「サタデーステーション」「ビートたけしのTVタックル」「ミヤネ屋」などに取材協力・出演。著書に、5万部突破のベストセラー『デンマーク人はなぜ4時に帰っても成果を出せるのか』(PHPビジネス新書)など。

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