THE21 » ライフ » 「糖質制限なし」で体のサビを防ぐ。老けない腸内環境の作り方

「糖質制限なし」で体のサビを防ぐ。老けない腸内環境の作り方

小林弘幸(順天堂大学医学部教授)

腸内環境をよくし、老化を防ぐ食事とは?

体の細胞をサビつかせ、老化や病気の元凶となっているのが「活性酸素」。これを減らすには、活性酸素を無毒化する働きのある「水素」を増やすのが有効だと考えられているという。では、腸内に水素を産生する「水素産生菌」を増やす方法とは?順天堂大学医学部教授であり自律神経の専門家でもある小林弘幸氏が、「サビない腸活」の進め方を解説する。

※本稿は、小林弘幸著『60代からは体の「サビ」を落としなさい』(飛鳥新社)より一部抜粋・編集したものです。

 

肉は普通に、食物繊維は多めに

人の体は歳をとると細胞がサビついてきます。細胞をサビつかせる原因は「活性酸素」です。そして、一般にはほとんど知られていませんが、じつは活性酸素は「腸から発生して全身にばらまかれている」と言っても過言ではありません。

では、いったいどうすればいいのか。
厄介者の活性酸素にも、「苦手とする存在」がいます。それが「水素」です。
フィルミクテスとバクテロイデス。腸内環境をよくしていくには、この2つの水素産生菌のバランスが重要になります。

両者の腸内でのバランスを決定づける最大の要因は「普段の食事で何を食べているか」です。

フィルミクテスは炭水化物、甘いもの、肉類などを多く食べていると増えやすくなります。ただ、どちらかというと有害菌に加担しやすい傾向があるため、こうしたものばかりを食べてフィルミクテスを増やしすぎてしまうと、腸内で有害菌勢が優勢になってしまう可能性もあります。

一方のバクテロイデスは野菜、きのこ、海藻などの食物繊維が豊富なものを多く食べていると増えやすくなります。こちらは有用菌に加担しやすい傾向があるため、増えすぎても問題はありません。それに、こうした食物繊維の多いものを食べていれば、バクテロイデスが増えて水素を産生するだけでなく、有用菌が繊維を食べて短鎖脂肪酸が生み出され、それによって更なる水素ができることにもなります。短鎖脂肪酸には有用菌を元気にして腸を活性化させる多くの働きがあるため、腸内環境向上という点では「いいことづくめ」になるでしょう。

では、こういった水素産生菌の性質を考慮すると、どういうバランスで食事を摂るのが最適となるのか。

やはり私は、炭水化物や甘いものなどの摂取はちょっと控えめにして、野菜、きのこ、海藻などの食物繊維はふんだんに食べるようにしていくのがいちばんいいと考えています。

もっとも注意したいのは、ごはん、パン、麺類、甘いもの、スナック菓子など、糖質の摂りすぎでしょう。たとえば、「いつもごはんをお代わりしている」「ごはんは大盛りで食べる」「回転寿司でドカ食いする」「甘いジュースやスポーツドリンクをよく飲む」「ごはんの後に甘いデザートを欠かさない」「スナック菓子を1袋空けてしまう」といった人は、まずその習慣を見直していくべきです。そのうえで「ちょっと量を控える」という程度で構いませんので、意識して糖質摂取量を控えめにコントロールするといいでしょう。

また、肉類は普通に食べている分には問題ありません。食べすぎは禁物ですが、肉類を遠ざけてしまうと体に欠かせないたんぱく質が不足してしまう可能性があります。むしろ、肉、魚、卵、大豆製品などのたんぱく質は、毎食少なくとも1品は何かしら食べるようにしたほうがいいと思います。

そして、野菜、きのこ、海藻などの食物繊維メニューは、毎食1品から3品は摂るようにするといいでしょう。サラダ、酢の物、野菜炒め、おひたし、煮物といったように、いろいろな料理でもりもり食べるようにしてみてください。それと、私はかねてから健康効果をグレードアップした「長生きみそ汁」を摂るのを推奨しています。野菜、きのこ、海藻をふんだんに使った具だくさんのみそ汁を日々飲むようにしていけば、より理想的なかたちで食物繊維を摂取することができるでしょう。

このように、「糖質は量を控えめに」「肉は普通に」「食物繊維は多めに」を基本として食べていれば、有用菌を優位に保ちつつ、フィルミクテスとバクテロイデスの水素産生菌をおおいに増やしていくことができるのではないでしょうか。これを習慣にしていけば、水素の力で活性酸素の害を最小限に抑え、腸の中から老化や病気が進むのを防いでいくことができるはずです。

 

糖質は「制限」しないほうがいい

ただ、「糖質は控えめにする」とはいっても、まったく摂らなかったり極端に量を少なくしたりするのはNGだと考えてください。

糖質は体と脳を動かすのに欠かせないエネルギー源です。絶対に不足させるようなことがあってはいけません。

それに、水素産生菌のフィルミクテスは、主に炭水化物や甘いものなどの糖質を摂ることによって増えることが分かっています。あまりに糖質摂取を減らしてしまうと、フィルミクテスが減り、全体の水素産生量が減って、活性酸素が幅を利かせてしまうことになるかもしれません。

つまり、「糖質制限」をする必要はないということ。糖質に関してはあくまで「食べすぎない」「ちょっと控えめを意識する」というスタンスをとるのが大事であって、度を超えて制限したり減らしたりするのは、かえって腸内環境によくないと考えたほうがいいでしょう。

むしろ、ごはん、パン、麺類などの主食の糖質は「(控えめの量を)毎食ちゃんと摂る」ことを意識すべきです。できれば、五穀米、玄米、全粒粉パンなどの精白されていない穀物を摂るよう習慣づけていくと、腸内環境を整えるのにさらに役立ちます。

また、ケーキやおまんじゅうなどの甘いお菓子を食べたりスナック菓子を食べたりするのも「たまに」であれば、まったく問題ありません。毎日デザートを食べたり一度に大量に食べたりするのはいけませんが、そんなに厳しく減らそうとしなくてもいいでしょう。

そして、このように「何をどれくらい食べるべきか」を整理していくと、別にそんなに我慢しなくても、過不足なく普通に食事をするだけで「サビない腸活」を実践できることが分かるはずです。

だからみなさん、ぜひ日々「サビない腸活」を習慣づけて、水素の力や短鎖脂肪酸の力を十分に引き出しつつ活性酸素を撃退していくようにしてください。そのうえで腸の中から体のサビつきを防いでいくようにしましょう。

 

「牛乳」を飲むと腸内に水素が多くなる!

なお、腸内に水素を増やして活性酸素の害を防いでいくために、ここでもう1つ紹介しておきたい食品があります。
それは「牛乳」です。
じつは、牛乳を飲むと腸内に水素が発生することが分かっているのです。

牛乳には、消化しにくい糖質である「乳糖」が含まれています。乳糖は、小腸においてラクターゼという酵素で消化され吸収されることになっています。しかしながら、日本人の約9割は、このラクターゼが少ない「乳糖不耐症」だとされているのです。この乳糖不耐症の人が牛乳を飲むと、乳糖を消化できず、そのためおなかがゴロゴロしたりおなかがゆるくなったりすることが多くなるわけです。たぶん、みなさんの中にも心当たりがある人が少なくないでしょう。

ところが、この「消化されなかった乳糖」が大腸に届くと、乳糖が有用菌の腸内細菌のエサとして活用されてさかんに水素が産生されるようになるのです。

つまり、牛乳を飲むとおなかがゴロゴロしたりおなかがゆるくなったりするのは、「腸の中で水素が発生しているサイン」のようなものであったわけです。そもそもおなかがゴロゴロするというのは腸が活発に動いている証拠でもありますし、「ゴロゴロゆるゆる」タイプの人は、牛乳のよさをいまいちど見直してもいいかもしれません。

ただ、なかには乳糖分解酵素のラクターゼを多く持っている人もいます。そのタイプの人は、小腸において乳糖が消化吸収されてしまって大腸まで届かないので、牛乳を飲んでも水素産生はほとんど期待できません。また、このタイプの人が牛乳をたくさん飲むと、乳脂肪などの栄養が多いため、健康増進どころか逆に太ってしまう可能性もあります。

要するに「牛乳の水素産生効果」が出るかどうかは、人によってまちまちだということ。ですから、自分が「牛乳による水素の効果が出やすいゴロゴロゆるゆるタイプ」なのか、それとも「牛乳による水素の効果が出にくいタイプ」なのかをよく見極めたうえで対応していく必要があります。

あと、「ゴロゴロゆるゆるタイプ」の人も全員に牛乳の効果が現われるとは限りません。腸内環境が悪くなっている状態で牛乳を飲むと有害菌が増えていっそう腸のコンディションを悪化させてしまう場合もありますし、牛乳を飲むとあからさまに下痢をするような場合は消化不良を起こしている可能性があるので飲むのをやめておいたほうがいいでしょう。

ですから、そのあたりも見極めたうえで「けっこう自分の腸には牛乳が合っているのかも!」となったら、ぜひ積極的に活用してみてください。
うまくハマれば、牛乳は「水素水」を飲むよりもはるかに多くの水素を生み出してくれることへとつながります。実際にそれを調べた研究もあって、「合う人」にとってはすばらしく強力な味方になることが証明されているのです。

著者紹介

小林弘幸(こばやし・ひろゆき)

順天堂大学医学部教授

1960年、埼玉県生まれ。92年、順天堂大学大学院医学研究科博士課程を修了後、ロンドン大学附属英国王立小児病院外科などの勤務を経て帰国。順天堂大学小児外科講師、助教授を歴任後、現職。自律神経研究の第一人者としてアスリートや芸能人のアドバイザーを務めるほか、TV出演などメディアでも活躍中。

THE21の詳細情報

関連記事

編集部のおすすめ

50代から始まる「脳の老化」を防ぐために、脳科学者が勧める食事術

西剛志(脳科学者)

肥満や老化を進行させる物質「AGE」…増やさないための方法とは?

牧田善二(AGE牧田クリニック)

メンタルを安定させるメモ・手帳の使い方とは?

小林弘幸(順天堂大学医学部教授)

容姿の衰えの原因にも...「脳の老化が早い人」がしているNG習慣

加藤俊徳(脳内科医/医学博士/加藤プラチナクリニック院長)