老後の不安と言えば、お金と並んで、健康も大きい。若い頃のような食生活を続けていては、健康を害することになってしまう。どんなものを、どのように食べれば、健康を維持できるのか? ベストセラー『医者が教える食事術 最強の教科書』(ダイヤモンド社)などの著書がある牧田善二氏に聞いた。
※本稿は、『THE21』2021年3月号より一部抜粋・編集したものです。
取材・構成:林加愛
50歳からの健康を考えるとき、まず気をつけるべきは肥満です。
「体重(kg)」÷「身長(m)の2乗」で計算するBMIが25を超えたら肥満。年齢と共にBMIの数値が上がり、中年太りになっている方は少なくないでしょう。
意外かもしれませんが、中年太りは女性より男性に多く見られます。50代の肥満率は、男性が4割弱、女性が2割弱と、約2倍もの差があります。その要因は、基礎代謝量(運動をしていないときでも消費されるカロリー)の低下が、男性のほうが顕著であること。
30~49歳と50~69歳の1日の基礎代謝量を比べると、女性の減少幅は60kcalなのに対し、男性は150kcalも低下します。基礎代謝量が大きく減れば、当然、肥満になりやすくなります。
単純計算ですが、脂肪1gは9kcalに相当するので、基礎代謝量が1日150kcal減っても生活習慣を変えなければ、1日に約17gの脂肪がつくことになります。月間で約510g、年間で約6.1kgです。若い頃と同じ生活をしていたら、どんどん太ってしまうのです。
肥満が万病のもとであることは、ご存じでしょう。高血圧、糖尿病、心筋梗塞や脳梗塞、がんの他、アルツハイマー病も肥満と関係していることが指摘されています。最近では「糖尿病性認知症」の存在も言われ始めています。
肥満を食い止めるには、食生活を変えることが不可欠。その最大のキーポイントが、糖質です。肥満の引き金となるのは脂肪だと長らく信じられてきましたが、実は糖質が犯人です。
糖質を摂取すると、血中のブドウ糖が増えます。すると、インスリンが分泌されて、ブドウ糖が筋肉や肝臓の細胞に取り込まれ、グリコーゲンになって貯蔵されます。
それでもブドウ糖が余っていると、やはりインスリンの働きによって脂肪細胞に取り込まれて、中性脂肪になります。これが肥満のメカニズムです。
老化については、長らく酸化が主因と信じられてきましたが、それ以上に糖化が問題だということがわかってきています。酸化が活性酸素で細胞が傷つけられる「錆び」であるのに対し、糖化は「焦げ」です。
タンパク質とブドウ糖を加熱したときに褐色の物質ができることを、「メイラード反応」と呼びます。唐揚げやステーキ、トーストなどのこんがりした色は、すべてメイラード反応によるものです。皆さんの家庭の食卓にも、しばしば登場しているでしょう。
この焼き色がつくときに生まれているのが、「AGE(終末糖化産物)」という物質です。タンパク質とブドウ糖が結合したAGEが体内のタンパク質に溜まることで、老化が引き起こされます。
AGEは、体外に排出されづらい性質を持っています。消化後も約10%が分解されずに体内に吸収され、0.6~0.7%は長期間にわたって体内に残ります。一見、小さい数字ですが、1日3度の食事のたびに蓄積されるのですから、油断は禁物。特に、新陳代謝が遅い場所では、老化の進みが早くなります。
例えば、血管や肌の真皮を形成するコラーゲン繊維は、入れ替わるのに約15年かかりますから、AGEが溜まりやすい。その結果が、血管の動脈硬化であり、肌のシミ、シワ、たるみです。
関節軟骨を作るコラーゲンに至っては一生入れ替わらないため、いったん老化すれば元に戻りません。この他、骨や筋肉、腎臓や肝臓、脳といった臓器にも、AGEは溜まっていきます。関節のトラブルや骨粗鬆症によるロコモティブシンドローム、臓器の疾患やアルツハイマー病の危険も増します。
がんとの相関性も指摘されています。細胞内のDNAにAGEが溜まると、修復や複製に支障が生じ、がん細胞の発生につながるのです。残念なことに、AGEは体内でも生成されます。身体の熱でブドウ糖とタンパク質が結びつき、AGEになるのです。
更新:12月04日 00:05