写真撮影:桂伸也
会社はどこを見て人事評価をしているのか? おそらく多くの人は「個人の成果」や「個人のスキル・資格」だと思っていることだろう。
しかし、「それは誤解だ」と、人事の実務経験を持ち、多くのサラリーマンへのインタビュー調査なども行なっている楠木新氏は言う。日本の伝統的な企業の出世のシステムについてお聞きした。
※本稿は、『THE21』2015年4月号より、一部を抜粋・編集したものです。
実は、日本の伝統的な企業は、能力やスキルに評価の重点を置いていません。欧米企業と比較するとわかりやすいでしょう。
欧米企業の組織は、仕事内容と、それを行なう社員が、契約によってマッチングされています。ある仕事にふさわしい能力やスキルを持っているかどうかを、一人ひとり判断して採用して、業務を任せます。ですから、MBAを持っている人が外部から来て、いきなり管理職に就くこともよくあります。要求される能力や技能が不足していると解雇対象にもなり得ます。
一方、日本では新卒一括採用を行なっています。
日本の商社マンがイタリア人のビジネスマンに日本の新卒一括採用について説明すると、「まだ働いてもいない学生をなぜ採用するのか」という反応でした。どれくらいの業務能力があるかもわからない学生と雇用契約を結ぶのは考えられないと言うのです。
能力やスキルに力点を置かずに組織を運営するには、それに取って代わるものが必要になります。その一つが人と人との結びつき、つまり縦の序列を伴った関係です。「親分(上司)―子分(部下)」の縦の人間関係と言っていいでしょう。これが組織への所属意識を生んでいます。
近代の企業組織は階層のある上下関係のヒエラルキーなので、この親分(上司)―子分(部下)の結びつきは、組織との相性が良いと言えます。
上司との関係がポイントになるので、評価されるための条件は、上司が自分に対して求めている水準を常に上回ることです。管理職になるまでは、日々、ルーティンを伴った現場の業務が中心ですから、それをうまく回していく実務能力も求められます。そういう意味では能力やスキルはまったく関係ないというわけではありません。
また、日本の組織内ではあまり能力の差異にも注目しません。そのため、総合職や基幹職であれば誰も彼もが上のポストを目指す、出世意識が強いことが日本の特徴です。一方、欧米の企業では、専門職的に仕事に取り組む人が中心です。
大手企業では、早いところでは35歳くらいから、管理職登用が始まります。40歳が平均の登用年齢です。
以前であれば、昇格する年次は違っても、ほぼ全員が管理職に就くことができました。しかし、高度成長が昔話になった昨今では、管理職ポストの数も縮小して、全員が昇格できるわけではありません。
この時点で評価を得られなかった社員がリカバリーすることは実際には難しい。可能なケースは、以下の3パターンに絞られます。
1つは、過去に一緒に仕事をした先輩や同期からのヒキです。彼らが社内で役員などになって、自分を引き上げてくれる。もう1つは、自分の上司や先輩社員が病気や不祥事で突然姿を消すケース。最後に、昨今の女性登用などのように、対外的なアピールのために特定の対象者を登用するというケース。これだけです。
いずれも他人頼みで、自分でコントロールできるわけではありません。
では、自分はもう出世できないとわかったら、どうすべきか?会社は多くの時間と労力を割く場なので、出世だけにこだわらずに、自分に向いた仕事を積極的に探すことも必要でしょう。
三度の飯よりも人に会うことが好きな人なら、営業で充実感を得る。社員研修担当者が人の成長を見るために頑張る。また、出向などの機会を通して新たな自分を発見するチャンスもあります。
役所の仕事では精神的にも不安定だった公務員が、出向した社会福祉法人で障害者支援のために役所間をイキイキと走り回るようになった例もあります。
また社内に自分に向いたことを見つけられなければ、趣味を高めることも考えられます。好きなスノーボードのインストラクターの資格を得て、生徒に教えることで自信を取り戻した人もいます。仕事にも元気に取り組めるようになって、結果として昇格もしました。
以下、年代別の「評価されるための努力ポイント」を見ていきましょう。
更新:12月10日 00:05