2024年12月06日 公開
40~50代ともなると、「若いときほど物事を記憶できなくなった」「頭がてきぱき働かず仕事の効率が落ちた」「夕方を過ぎると気力がもたなくなった」という人も多いだろう。しかし、それら脳の衰えは、「食事」の質を見直すことで改善できるという。『THE21』2024年12月号では、長年にわたり、成功者たちの脳を研究してきた西剛志氏に、50代からでも間に合う「脳を蘇らせる食事法」を聞いた。(取材・構成:塚田有香)
※本稿は、『THE21』2024年12月号特集「「脳」と「心」のトリセツ」より、内容を一部抜粋・再編集したものです。
40代や50代になると、以前と比べて集中力や記憶力が低下したと感じることが多くなります。その理由は、脳が持つ力にはピークの年齢があるためです。
例えばハーバード大学の研究結果によると、集中力が最も高まるピークは43歳で、その後は加齢に伴って次第に低下します。また人の顔を覚える能力のピークは32歳。この頃から名刺交換した相手の顔と名前が一致しないといった変化が現れ始めます。
さらに人の気持ちを理解する共感力は、48歳でピークを迎えます。この能力が低下すると周囲からどう思われようと気にしなくなり、近所のコンビニに行くときなどに、ジャージや寝巻きのまま出かけるようになったりします。
加えて脳の働きに大きく影響するのが幸福度です。イリノイ大学名誉教授エド・ディーナー氏らの研究によると、人生の幸福度が高い人は仕事の生産性が平均で31%、売上が37%向上し、創造性に至ってはなんと300%もアップすることがわかっています。
一方、世界145カ国で幸福度と年齢の関係を調べた研究によると、40代後半から50代にかけて人生で最も幸福度が下がるとの結果が出ています。よってこの年代は、一生懸命頑張ってもなかなか良いアイデアが浮かばず、仕事のパフォーマンスも上がらないという苦しい状態に陥りがちです。
ただし、これらはあくまで平均的なデータであり、歳を取っても"脳力"を維持するケースもあります。中には80歳を超えても集中力や記憶力などの認知機能が20歳以上若い人もいて、「スーパーエイジャー」と呼ばれ注目を集めています。
高齢になっても脳のピークを長く保てる人は、脳の老化を緩やかにしたり、積極的に若返らせたりする習慣を身につけています。中でも重要なのが食習慣です。なぜなら脳を働かせるエネルギーは、食事でしか補充できないからです。
人間の脳は小さな組織で、質量は体全体の約2%しかないにもかかわらず、20~25%ものエネルギーを消費します。棋士の羽生善治さんは、1日の対局で体重が5kg減ることもあるそうです。ずっと座ったままでそれだけ減るのは、脳が膨大なカロリーを消費したということ。
もしエネルギーを十分に供給しなければ、脳はガス欠状態になり、働きが鈍くなります。やる気や集中力、幸福感に関わる神経伝達物質のドーパミンもうまく分泌されません。また、空腹が続くと脳内でアドレナリンが出てイライラし、集中力が低下します。
三大栄養素の炭水化物、タンパク質、脂質のうち、脳がエネルギーとして直接利用できるのは炭水化物の中の糖質(ブドウ糖)のみです。よって脳のパフォーマンスを高めるには、効率の良い栄養素である糖質をしっかり供給することが必要です。
とはいえ、糖質を含む食品をたくさん食べればいいわけではありません。糖質を摂り過ぎると「血糖値スパイク」という現象が起き、かえって脳がエネルギー不足に陥るからです。
糖質の摂取によって血中に大量のブドウ糖が流れ込むと、急激に血糖値が上昇します。このままでは細胞に深刻なダメージを与えるので、脳が血糖値を下げろと指令を出し、それを受けて膵臓がインスリンというホルモンを放出します。すると今度は血糖値がジェットコースター並みに急降下する。これが血糖値スパイクです。
これにより血中のブドウ糖が一気に減少し、脳にエネルギーを供給できなくなります。皆さんも満腹になると頭がぼんやりしたり、やる気が出ずダラダラしてしまった経験がないでしょうか。それは血糖値スパイクが引き起こす低血糖が原因です。つまり、たくさん食べても肝心の脳にはエネルギーが届かず、パフォーマンスも上がらないという残念な結果になるのです。
では糖質を摂っても血糖値スパイクを起こさず、脳に安定してエネルギーを届けるにはどうすればいいのか。この問題を解決するのが「低GI食」です。
GIとは、食品に含まれる糖質がどれだけ血糖値を上げるかを示す数値で、数値が高いほど食後の血糖値が急激に上がり、低いほど食後の血糖値の上昇が緩やかになります。よってGIが低い食品をうまく取り入れれば、血糖値スパイクを起こさずに必要な糖質を摂取できて、仕事中の集中力や記憶力を高めることが可能になります。
低GI食が脳のパフォーマンスに与える効果は、様々な研究で明らかになっています。スウェーデンのランド大学が49歳から71歳を対象に行なった研究では、朝食で低GI食を摂ると、2時間後に行なった認知機能テストのスコアが上がることが確認されました。
また、フランスのナンシー大学が21歳前後の若い成人を対象に行なった研究でも、朝食に低GI食を摂ると、2時間半~3時間後の記憶力が向上したと報告されています。若者から中高年まで、どの年代においても低GI食が脳の働きにポジティブな効果をもたらすことが示されたと言えます。
低GI食は糖質が体内に吸収される速度が遅いため、摂取後の血糖値が緩やかに上昇し、かつ上昇した状態でしばらく推移します(上図)。つまり長時間に渡って脳にエネルギーを供給できるので、仕事や学習を長く続けても脳のパフォーマンスを維持しやすいのです。
一方、食後の血糖値が急激に上がる高GI食の場合、脳にエネルギーが届くのは摂取した直後だけ。あとは血糖値が一気に低下するので、1~2時間後にはほとんど脳にエネルギーを供給できなくなります。
それどころか、高GI食は翌日のパフォーマンスにも悪影響を及ぼすことがわかっています。米国ノースカロライナ州立大学心理学部の博士らを中心とした研究によれば、夕食に高GI食を摂った人は、次の日の仕事の効率が下がると報告されています。
具体的には、人を助ける「援助行動」が減り、仕事を怠ける「離脱行動」が増える傾向が見られたそうです。前者はチームワークを乱して組織全体のパフォーマンスを低下させますし、後者は個人のパフォーマンスを大きく下げます。
加えて高GI食は糖尿病のリスクを高めたり、身体に脂肪がつきやすくなったりと、健康面での懸念もあります。ビジネスパーソンが心身の健康を保ち、集中力や記憶力を継続的に高めて仕事で成果を出すためにも、ぜひ普段の食生活に低GI食を取り入れることをお勧めします。
昼食は外食やコンビニが多くなりがちな人でも、組み合わせを意識すれば、一食あたりのGI値を下げられます。うどんなら食物繊維が豊富なとろろ入りを選ぶ、カレーならカゼインを含むチーズ入りを選ぶといいでしょう。
また、コンビニ弁当のご飯やおにぎりは、実は食後の血糖値が上がりにくい食品です。お米や麺類などの炭水化物を調理後に冷ますとレジスタントスターチ(難消化性でんぷん)という成分が増え、食物繊維と同様の働きをして、糖の吸収を緩やかにしてくれるからです。一度冷えたご飯を温め直してもレジスタントスターチは残るので、お弁当をレンチンしても大丈夫です。
昼にラーメンを食べる人も多いと思いますが、その際はお酢を少し加えましょう。お酢に含まれる酢酸が糖質の吸収を抑制し、Gi値が下がるという研究結果があります。またチャーハンはGI値が高いと思われがちですが、ご飯が油でコーティングされて腸内で糖質を吸収しにくくするため、白米より食後の血糖値が上がりにくいという研究結果もあります。
もちろん食べ過ぎは禁物ですが、適量ならお酢入りラーメン+チャーハンの組み合わせも悪くありません。
更新:12月12日 00:05