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60代は要注意!老化を加速させる"活性酸素"が全身に襲いかかる【医師が解説】

小林弘幸(順天堂大学医学部教授)

60代以降、急激に老化が進んでしまう理由とは

60代からの健康を維持するにはどうしたらいいのか。老化や病気を進行させる元凶は、強い酸化力で体の細胞をサビつかせる「活性酸素」。その活性酸素を減らす方法とは?順天堂大学医学部教授の小林弘幸氏は「60代は、単に老化しやすい、病気になりやすいだけではなく、人間としての「生きる力」のようなものが一気に失われてしまいやすい時期だ」という。

※本稿は、小林弘幸著『60代からは体の「サビ」を落としなさい』(飛鳥新社)より一部抜粋・編集したものです。

 

「クリーンシステムの老朽化」で問題が噴出する

人の体は約37兆個の細胞の集合体です。歳をとると、その37兆個のひとつひとつがサビついて、細胞の勢いがなくなってきます。では、細胞をサビつかせる原因はいったい何なのか。その原因こそが「活性酸素」です。

若いうちは「体内で活性酸素を除去するシステム」が自動的に働いています。活性酸素が出ると、同時にSOD(スーパー・オキシド・ディムスターゼ)と呼ばれる抗酸化酵素が出て、これが活性酸素を分解して無毒化してくれているのです。

SODは「活性酸素の掃除屋さん」のような存在。すべての活性酸素を消すことはできませんが、毎秒10億個のペースで活性酸素を除去するといいますから、かなりの強力パワーを備えた掃除屋さんです。この掃除屋さんの自動クリーンシステムがしっかり稼働しているおかげで、若いうち(といっても30代半ばくらいまで)は、活性酸素のサビの害をまともに被らずに済んでいるのです。

ところが、40歳を過ぎたくらいから、このクリーンシステムは徐々に老朽化してきます。SODのパワーが落ちて、除去しきれない活性酸素が増えてくるのです。しかも、40代、50代と歳を重ねるとともに活性酸素の発生量も多くなるので、体のあちらこちらで活性酸素がのさばり出すようになる。

こればかりは、どんなに避けたくても避けられません。40代を過ぎたころからSODの自動除去システムの老朽化が始まり、60代になるとほとんど機能しないような状態に陥って、どっと増えた活性酸素が悪事を働くのを止められなくなってくるのです。

一説では、SODをはじめとした抗酸化力は、60~70歳代になると、20歳代のときの7分の1ほどにまで落ちるとされています。これは、それだけ体のサビに対する抵抗力が落ちたということであり、それだけ老化や病気に対する抵抗力が落ちたということを示しています。

これだけガクンと抵抗力が落ちれば、活性酸素がのさばって衰えが進んでしまうのも当然という気もします。

 

自律神経の力は10 年で15 %ずつ落ちていく

それに、加齢によってガクンと低下するのは抗酸化力だけではないのです。
なかでも注目してほしいのは「自律神経の力」の低下です。

自律神経は呼吸、血圧、体温、代謝など、生命活動の基本機能の自動調整システム。その時々の状況や環境の変化に合わせ、ふさわしい行動ができるように心身の状態をコントロールしています。

また、この自律神経はストレスやホルモン分泌、免疫などのコントロールにも大きな役割を果たしていて、活性酸素の発生具合にも少なからず影響すると考えられています。

しかし、私の研究では「自律神経の力は10年で15%ずつ低下する」ということが分かっているのです。これは、20代のときの自律神経パワーを100とするなら、60代になると力が半分以下に低下してしまうということ。つまり、歳をとるとそれだけ心身のコントロール能力が落ちて、ストレスや環境変化に対応できにくくなってくるということになります。

要するに、もう若くないという年齢、とくに60代を過ぎると、ストレスや環境変化に対する対応力が落ち、それだけ活性酸素が発生しやすくなるのです。それに、免疫力が落ちたりホルモンバランスが乱れたりすることで病気や感染症にも罹りやすくなり、それも活性酸素の発生へとつながります。

このように、自律神経の力が落ちると、一気にいろいろな抵抗力や対応力が落ちて、次第に活性酸素が悪行を働くのをどうしようもできないような状況になると考えられるわけです。

 

60代はいちばん「生きる力」を落としやすい時期

そこでみなさん、考えてみてください。
60代って、長い人生の中でもとても変化の大きい時期ですよね。

いちばん大きい変化は、やはり「定年」でしょう。人にもよるとは思いますが、定年を迎えると、生活も環境も人間関係も激変します。

なにしろ、定年を境にそれまで何十年と通い続けてきた会社に「もう来なくていい」といわれるわけで、通勤がなくなるのはもちろん、それまで毎日会っていた人も会わなくなるし、会社関係の人とはパタリと連絡が途絶えて疎遠になるのです。なかには、行く場所がなくなって家にこもってしまう人もいるかもしれませんし、家族しか話す相手がいなくなってしまう人もいるかもしれません。

それに、60代はストレスも多い時期でしょう。定年の環境変化によるストレスも相当なものですが、老親を亡くしたり介護をしたりしている人も多いし、自分の病気や健康不安がストレスになっている人も多いはずです。また、新たに働きたくても自分に合った仕事が見つからなかったり、働き先が見つかってもなかなかその職場に馴染めなかったり、そうこうするうちに働く意欲を失ってしまったりする人もいらっしゃるかもしれません。

とにかく、60代は生活や環境が大きく変わって、その激しい変化にうまく対応できず、日々右往左往しながらもがいている人がたいへん多いのです。先ほども述べたように、60代になると自律神経のパワーがガクンと落ちて、変化への対応力や抵抗力が大幅にダウンします。何かともがいたり苦しんだりするのには、そうした自律神経の低下が少なからず影響しているのでしょう。

そして、このようにもがいたり苦しんだりして悪戦苦闘しているちょうど同じ時期に、SODの低下によって活性酸素が大量発生する時期がドンピシャで重なってくるのです。そうすると、いったいどうなるか。

もうみなさんお分かりでしょう。そう、60代は、「SODの低下」「自律神経の低下」「ストレス耐性低下」「生活環境の激変」「活性酸素大量発生」といった数々の厄介事が同時多発的に起こる時期であり、ダブルパンチ、トリプルパンチに見舞われて心身の衰えやサビつきがグッと加速しやすい時期なのです。

そのため私は、60代こそが人の一生の中でいちばん危うい時期なのではないかと考えています。
単に老化しやすいとか、病気になりやすいとかというだけではなく、人間としての「生きる力」のようなものが一気に失われてしまいやすい――60代とはそういう時期なのではないでしょうか。

 

活性酸素を抑えて「サビない人生」を歩いていこう

では、いったいどうすればいいのか。
60代という非常に危うい時期をなんとか無難に乗り越えるには、どんな策を講じればいいのでしょうか。
それにはやはり活性酸素の発生量を減らさなくてはなりません。

SODの力や自律神経の力がどんどん衰えてきている中で、果たしてそんなことが可能なのかと思う人もいることでしょう。

でも、大丈夫。いまのうちに「活性酸素を減らす生活習慣」を身につけて実践していけば、サビつくのを抑えることが可能です。60代はもちろん、70代でも効果を上げることができるし、40代、50代から実践をすれば、予防を含めてさらに大きな効果を引き出すことができるはずです。

先にも触れましたが、「活性酸素を減らす生活習慣」でもっとも重要なカギを握っているのは、腸内環境を整えること。サビを抑えることに特化した「腸活」です。この「サビない腸活」をしっかり実践できるかどうかで活性酸素の発生量は大きく違ってきます。

とにかく、60代で老化や病気が加速するのを防ぎ、日々「生きる力」を衰えさせないでいられるかどうか。それが、これから「サビない生活」を手に入れられるかどうかにかかっているのです。

だから、これまで「活性酸素なんて自分に関係のないことだ」と思ってきたみなさんも、「体のサビなんてどうせたいしたことないだろう」と思っていたみなさんも、その意識をリセットしたうえで、ぜひ本腰を入れて「サビ防止」に取り組んでみてください。

繰り返しますが、60代は人生の重要なターニングポイントです。私は、この時期に「サビない生活」を手に入れられるかどうかで、その先の老後の人生の大部分が決まってくるとさえ考えています。
60代の生き方次第で、サビだらけの失意の人生コースへ行くか、サビつかずに元気に生きられる人生コースへ行けるかが決まるといってもいいでしょう。

一度きりの人生、後から後悔したってはじまりません。
ですからみなさん、自分の老後の人生をしっかり守るためにも、いまからサビに対する抵抗力を高めていきましょう。
人生はまだまだ先が長いのです。その人生をできるだけ幸せで充実したものにするためにも、活性酸素の害をしっかり防いで「生きる力」を落とさないようにしていきましょう。

著者紹介

小林弘幸(こばやし・ひろゆき)

順天堂大学医学部教授

1960年、埼玉県生まれ。92年、順天堂大学大学院医学研究科博士課程を修了後、ロンドン大学附属英国王立小児病院外科などの勤務を経て帰国。順天堂大学小児外科講師、助教授を歴任後、現職。自律神経研究の第一人者としてアスリートや芸能人のアドバイザーを務めるほか、TV出演などメディアでも活躍中。

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