
優秀なプレイヤーほど、リーダーになると「任せられない病」に陥りやすい――。日本電気株式会社(NEC)で1000人規模のプロジェクトを何度も率いてきた五十嵐剛氏は、そんなリーダーの"任せることへの苦手意識"を打ち砕くためには、「任せる技術」だけではなく、メンバー心の底から信じ抜く「任せる勇気」が必要だと語る。本連載では、『任せる勇気』(三笠書房)から、仕事を任せた後に"最悪のシナリオ"を回避するためのフォロー術を紹介します。
※本稿は、五十嵐剛著『任せる勇気』(三笠書房)より一部抜粋・編集したものです。
いざ無事にメンバーに仕事を任せられたら、リーダーの役目はそこで終わりでしょうか?
いいえ、違います。むしろ、ここからリーダーシップの真価が問われます。
リーダーには、任せた後の「フォロー」という大切な役割が待っています。仕事を渡したら、「支援」の割合と重要度が増すのです。
ただ、ここで多くのリーダーは「このままメンバーを信じて任せたい」という気持ちと、「本当にこのままで大丈夫だろうか」という不安の間で揺れます。
もしその不安に負けてしまい、メンバーに細かく進捗を報告させたり、口を出したりしてしまえば、それは「フォロー」ではなく「監視」です。
リーダーに「監視されている」と感じたメンバーは、任された仕事に対する誇りや自信を失い、自分で考えて判断することもなくなり、結局はリーダーの顔色ばかりをうかがうだけの指示待ちになってしまいます。
つまり、リーダーに求められるのは、メンバーの自信を育みながらも、「いつでも助けてもらえる」という安心感を与えるフォロー体制なのです。
実は、メンバーの自信と安心感を両立させるのは、さほど難しくありません。仕事を任せるときに、「定期的な打ち合わせ」のスケジュールをあらかじめ決めておく。それだけで十分です。
この設定を怠ってしまうと、メンバーは「ちょっとした疑問」や「一応、確認しておきたいこと」が頭に浮かんでも、「わざわざリーダーの時間を取ってまで、聞いてもいいのだろうか?」と迷ってしまうことになります。
そして、忙しそうなリーダーの姿を見て声をかけることを躊躇し、無謀な自己判断に走ってしまうことも珍しくありません。この「小さな躊躇」は、後々の致命的なミスにつながる、チームの暗礁です。
実際、「定期的な打ち合わせを設けず、疑問点が出てくるたびに逐一報告」をさせているチームでは、この小さな躊躇が蔓延しています。メンバーは常に不安を抱えながら、仕事をすることになってしまいます。
一方、「毎週月曜日の10時」といった形で、定期的な打ち合わせがあらかじめ約束されていればどうでしょうか。
仕様書を読んでいて、複数の解釈が可能な箇所が出てきたとき。
作業の途中で、当初の想定よりも時間がかかりそうだと気づいたとき。
このような、放置すると大きな問題に発展しかねない小さな違和感が生まれても、メンバーは「次に相談できる場がある」と、安心して作業を継続できるのです。
さらにリーダーにとっても、不規則な報告に振り回されることなく、定点観測のように状況を把握できます。つまり定期打ち合わせは、リーダーとメンバー双方にとって最強のセーフティネットなのです。
ただし、1つだけ注意点があります。緊急時には定期打ち合わせを待たずに、即時報告できる仕組みも必ず整えておくことが大切です。
定期的な打ち合わせは、メンバーをフォローする上で非常に重要ですが、それだけですべてのリスクを拾えるわけではありません。メンバーが「相談するほどのことではない」と自己判断してしまうような違和感は、日常業務のあちこちに潜んでいるからです。そこで、定期打ち合わせとは別の「2つのタイミングでの個別フォロー」も必要になってきます。
チームに打つ「予防接種」と言えましょうか。少しの配慮で、大きな病を未然に防ぐことができるのです。
1つ目のタイミングは、「作業開始直後」です。
どれだけ丁寧に説明してから任せても、メンバーの頭の中にある完成イメージと、リーダーが描く完成イメージは、微妙にズレるもの。このボタンのかけ違いを放っておくと、取り返しのつかない事態に発展します。
家を建てる場合も、基礎工事の段階でたった数センチメートルのズレが生じるだけで、壁や天井の歪みとなり、最悪の場合は建物全体の安全性に影響します。修正にかかる手間や時間、費用も膨大です。
だからこそリーダーは、作業が本格化する前に、こう声をかけましょう。
「実際に着手してみて、何か迷うことはあった?」
「方向性は、今のままで合っているかな?」
たった一言、そこまでの成果物を見ながら進捗を確認するだけで、メンバー自身はもちろん、チーム全体として無駄な工数や労力を大幅に減らすことができます。
そして、2つ目のタイミングは「納期の少し前」です。
リーダーの中には、納期日を最終的なゴールと考える人もいますが、その考え方はとても危険です。もし当日に成果物を確認して、致命的なミスが見つかったら?
「まずい......、今日中に何とかしなければ......」
あなたは焦り、メンバーもまたプレッシャーに押しつぶされそうになりながら、残されたわずかな時間でリカバリーを試みることになるでしょう。これでは、メンバーの心身にも大きな負担をかけてしまいます。
そのため、「納期の少し前」を実質的なゴールとする発想が必要です。納期日の「少し前のタイミング」に、最終チェック日を設けてください。
例えば、最終納期が30日だとしたら、25日か26日に「最終チェック日」を設定するのです。そうするだけで、もし問題が見つかっても、まだリカバリーできる時間的余裕が生まれます。もちろん、この「最終チェック日」は、成果物の大きさによってうまく調整してください。
開始直後に声をかけること。
納期前に余白を作ること。
この2つのチェックポイントを意識して、適切なフォロー体制を築きましょう。
更新:12月03日 00:05