学び直しといえば資格。だが、どの資格なら自分にも取得可能なのか、そもそも取る意味があるかなど、素人にはわからないものだ。そこで、450を超える資格を持つ「資格ソムリエ」の林雄次氏に、ミドルにお勧めの資格と、資格取得に挑む心構えを取材した。(取材・構成:辻由美子)
※本稿は、『THE21』2024年2月号総力特集『50代からも稼ぐ力が衰えない「学び方」』より、内容を一部抜粋・再編集したものです。
私は現在、450以上の資格を所持する「資格ソムリエ」として活動しています。その経験をもとに、私がお勧めしたい資格を皆さんにご紹介していきますが......まずお伝えしたいのは、資格に対する心構えです。 というのも、資格「だけ」では、人生はなかなか変わらないから。
私自身、IT企業でシステムエンジニアをしながら社会保険労務士(社労士)の資格を取得し、副業で社労士を始めましたが、初めはまったく鳴かず飛ばずの状態でした。
しかしそんなとき、ある人から「林さんはITにも詳しいんだから、それで売り出したらどうか」と言われたんです。それから「ITにも詳しい社労士」を前面に打ち出したところ、資格を取って3年目には収入が本業の数倍に。そのタイミングで独立にも踏み切りました。
つまり大切なのは、資格を取った後も、資格頼りの「社労士の林」として仕事をしてはダメだということ。そうではなく、林という個人が重ねてきた経験や実績の上に、社労士や行政書士といった資格を載せていくべきだったのです。
今思えば、「社労士の林です」なんて、「会社員の林です」というのと同じくらいぼんやりした自己認識だったと思います。 これまでの人生で得てきたものと資格とを、かけ合わせる発想が大切です。
では、以上を踏まえてどんな資格を取るべきか。まず、いわゆる資格の学校のチラシにズラリと並んでいるようなものから、安易に選ぶのは避けましょう。 というのも、そこにはやはり「売りやすい講座」が大きく紹介されているから。いくら煽り文句が魅力的でも、そこに「自分に向いている資格」があるとは限りません。
逆に、整理収納アドバイザーなどは、資格としては正直地味なものですし、通信講座に通って狙うようなものでもないですが、この資格で世界的な大成功を収めたのが、片づけコンサルタントの近藤麻理恵さん(こんまりさん)です。地味な資格もその人次第で大化けすることの、典型例だと思います。
ちなみに、私が資格を選ぶ際の基準にしているのは「できること」「やりたいと思えること」「社会に求められること」の3つを満たし、かつ中長期的に活躍できそうか、という視点。 実際、ここに照らして「向いてない」と判断している電気工事士などの現場系の資格には、挑んだこともないんです。
といっても、それだけでは企画が成り立ちませんから、一般論としての「お勧め資格」も、ここからしっかり紹介します。
まず紹介するのは難易度低めの「入門編」の資格から。難しい資格の前に、やさしい資格から挑戦するのがお勧めです。富士山に登る前に高尾山に行くようなものと思ってください。
私もいきなり社労士資格を取ったわけではなく、比較的挑戦しやすい「ビジネス実務法務検定」からスタートし、次は「宅地建物取引士(宅建)」というように、少しずつ難易度を上げていきました。
そんな「最初の一歩」として、まず皆さんにお勧めしたいのが「ITパスポート」です。 これは、ITと経営に関連する知識を広く網羅する国家試験で、ITの知識がない文系出身者でも十分対応できます。IT関連の基礎知識に限らず、会社組織や会計、法務の基本など、広く社会で必要とされる知識が学べる利点があります。
この試験の勉強をして、法律に興味が湧いたら、私が取ったビジネス実務法務検定を狙ってみてもいいでしょう。法律系の資格の中では、比較的簡単とされる資格です。ビジネスに不可欠な法律の知識が学べます。
また、入門資格としては他にファイナンシャル・プランナー(FP)もお勧めです。簿記も悪くはないですが、学びの幅広さという点で、FPに挑むほうがその後の人生に活きるでしょう。お金のあれこれを知って、損することはありません。
なお、資格の中には「3級」「2級」のようにランクが分かれているものがあります。中には「3級は簡単すぎるでしょ」と思う方もいるかもしれませんが、一番簡単なランクから挑戦するのが身のためでしょう。
私も以前「持っていても無意味」と言われがちな「MOS(Microsoft Office Specialist)」を受験したことがありますが、聞いたこともないような超便利テクニックが盛りだくさんで、本当に勉強になりました。持ってもいない資格を舐めてかかるのは禁物です。
そうした「入門編の資格」の先に待つ、本当に稼ぐ力を大きく高めてくれる「高難度の資格」には、どんなものがあるのでしょう。
まず、高難度といっても、ミドルから目指すのであれば、現実的には1~2年、長くとも3年以内に取れるようなものでなくてはいけませんよね。 その範囲で取れて、かつ収入につながるものとしては、やはり「宅地建物取引士(宅建)」が挙がります。
必要な勉強時間も300時間程度とされ、毎日1時間勉強できれば1年以内で十分間に合う計算です。
宅建の強みは、なんといってもその「働き口の多さ」にあります。というのも、不動産取引の場には宅建の資格を持つ人が必須なのですが、それは別に不動産会社の正社員である必要はないんです。そのため、土日や平日の夜など、正社員では対応しにくい時間帯には、時給の良い宅建士のアルバイト求人が、かなりの数出ています。
もっと頑張れるという方には、宅建の倍、600時間の勉強が必要とされる「行政書士」もお勧めです。士業の中では手軽なほうですが、宅建と違って「独立」も狙いやすい資格です。毎日2時間勉強できるなら、1年での合格も狙えるかもしれません。
そして、現実的なものとしては最も難関と思われるのが「社会保険労務士」と「中小企業診断士」の2つ。社会保険労務士は900時間~1000時間、中小企業診断士は1000~1500時間の勉強が必要と言われています。
このうち社労士は、企業における労働問題や社会保険などにまつわる諸問題や相談を広く受けつける仕事。先述のように、私が独立を達成したきっかけでもあります。
社労士は企業と「顧問契約」を結ぶ労働形態が一般的で、一度契約先を見つければ、その後も安定的に一定以上の収入を得られることが強みです。
一方、中小企業診断士は他の士業とは違い、法務や経営、情報通信などに至るまで、非常に幅広い分野の「中程度」の資格を凝縮したような資格です。いわば「知の総合格闘家」と言えるでしょう。知識の幅を活かし、コンサルタントとして総合的に活躍できるのが強みです。
なお、同じ士業でも、司法書士は取得するのに2000~3000時間、税理士は5000時間の勉強量が必要だと言われます。名前は似ていても、このあたりの資格を目標にするのは現実的ではなさそうです。
資格は、何もお金のためだけに取るものではありません。人生を豊かにする、という目的もあっていいと思います。 私が最近取った資格で「お勧めできる」と感じたのは、日本語検定とワインエキスパートの2つ。
日本語検定は、漢字や慣用句、文章表現など様々な分野の力が求められるため、言葉のリテラシーが磨かれます。 もう1つのワインエキスパートは、いわば「ソムリエ」の資格です。これが取れるだけの勉強をしておくと、レストランでのワイン選びも楽しい時間になりますし、店員さんとも話が弾みます。同席する人との話の種にも最適です。
お酒にまつわる資格は、ワインの他にも焼酎やビールなど、様々な酒類で似たようなものが用意されています。自分の好きなお酒の知識を「資格」として持っておくのは、それだけでも気分がいいもの。これこそまさに、「人生を豊かにする資格」かもしれません。
更新:12月10日 00:05