「仕事のノルマは変わらないのに、休みを増やすなんてとうてい無理」と最初から決めつけていないだろうか。しかし、リーダーの考え方とやり方一つで、必ずチームは生まれ変わる。五十嵐剛氏に、無駄な仕事を省くために重要なポイントについて話を聞いた。(取材・構成:川端隆人)
※本稿は、『THE21』2025年3月号特集[休みたいのに休めないリーダーを救う「休養術」]より、内容を一部抜粋・再編集したものです。
休みの重要性はわかっている。しかし、会社は残業を減らせ、ちゃんと休めと言うけれど、さりとて仕事の量を減らしてくれるわけではない。どうすれば部下を休ませ、自分も休むことができるのか。
これは、管理職の皆さんによくある悩みでしょう。
この問題を解決するためには、最初から休みを取る、あるいは残業を減らす、といった結果を目指すのではうまくいきません。
会社もチームも、組織です。組織には、それぞれ仕事上で達成しなければならない目標があるはずです。目標を達成するためには、メンバーで目標を共有しなければいけません。そのうえで、一人ひとりに何ができるか、誰が何を担当するかを明確にする。ここまでやって、組織には協力体制ができたと言えます。
そして、協力体制ができてはじめて、メンバー同士が助け合うこともできれば、無駄な仕事をやめていくことも可能になります。結果として残業も減るし、休みもきちんと取れるようになるのです。
つまり、きちんと休めるチームをつくるためには、まずはメンバーみんなで協力して、「どうやったら仕事を減らせるんだろう」「どうやったら休暇が取れるんだろう」と話し合えるようにすることが重要なのです。
チームのコミュニケーションというと、最近は1on1が流行っています。それもいいのですが、チームワークの基本となるのはメンバー全員で集まって何でも話せる場です。後述しますが、全員で情報共有するだけで仕事を減らせることも少なくありません。
もちろん、話し合いの場づくりには時間がかかります。特に、メンバーがリーダーに対して言いたいことを言える環境づくりは難しいものです。
私自身、かつてはトップダウンでガンガン部下に指示するタイプのリーダーでした。千人規模のプロジェクトを担当していましたから、手順書、マニュアルを作って、チェックシートでがんじがらめにするというやり方が正しいと思っていました。 ところが、そこまでしてもミスは起こるし、深刻な問題が生じます。このままではいけない、と思った私は、メンバーと対話を始めることにしたのです。
最初にやったのは、チームのメンバーを集めて謝ることでした。「今までの僕のやり方は間違っていた。現場のことを一番知っているのは皆さんなんだから、このプロジェクトがうまくいくためなら何を言ってくれてもいい」と。
もちろん、最初は信用されませんでした。狼が羊の皮をかぶっているだけだ、と思われたのでしょう(笑)。けれども、1~2カ月ほどメンバーの話を聞き続けるうちに、雰囲気が変わってきました。
今でも覚えているのは、まだ社会人になりたての女性メンバーに「コートをかける場所を作ってほしい」と言われて、職場にロッカーを設置したこと。
些細なことのようですが、このようにきちんとメンバーの話を聞く、できることはやる、できないことは理由をちゃんと説明して納得してもらう、ということを積み重ねていくうちに、「どうやら本当に何を言ってもいいらしいぞ」とメンバーがこちらを信頼してくれるようになりました。そうなると、業務改善の提案がメンバーからどんどん出てきます。
変わったのは、リーダーである私がメンバーの意見を聞くようになったことだけです。それだけで、プロジェクトは順調に進むようになりました。
そして、残業は減り、休みも取れるようになっていったのです。
さて、話し合えるチームをつくるために、何から手をつけるべきでしょうか。お勧めなのは、チームとして業務の改善活動を立ち上げること。具体的には、「週に1回は定時で帰れるようにする」という目標を立てて、「どうしたら帰れるのか」を話し合うようにします。ここでは、リーダーがあれこれ指示をするのではなく、「やり方は任せるから、意見を出してほしい」とメンバーに促すのがポイントです。
もう一つ、日常の取り組みとしてお勧めなのがホワイトボード前での情報共有です。今時は、Miroボードなどもお勧めです。
毎朝、チーム全員で「今週は何をしなければいけないのか」「今日はどんなことをするのか」など、業務の情報を共有する場を設けるのです。テレワークならZoomで顔を合わせて話すのでもいいでしょう。
やってみるとわかるのですが、例えばAさんが「今日は◯◯についての資料をまとめます」と言うと、Bさんが「それなら、使えそうな元データがもうまとまっているよ」と教えてくれたり、Cさんがやろうとしているチェック作業が実は二度手間で必要ないとDさんが指摘してくれたり、といったことがよくあります。情報共有によって無駄が省け、仕事を効率化できるわけです。
さらに、「今週の水曜日は早く帰りたい」という人がいたらみんなで時間をやりくりする、といったことも可能になります。
情報共有で業務を効率化できた例として、NEC時代にこんなことがありました。当時、関東にある4つの事業所には、それぞれに来客の応対を担当する部署があったのですが、どこも少人数で業務を回しており、メンバーは休みたくても休めない状況でした。
そこで、4つの部署で統一したマニュアルを作り、バラバラだった資材の仕入も一本化し、人員のやりくりも事業所を越えて行なうようにすることで、しっかり休める体制をつくることができたのです。
メンバーに意見を出してもらって、どうしたら定時で帰れるか、どうしたら休みが取れるかを考えてもらうと、色々な知恵が出てくるものです。しかも、上から指示されるのではなく、自分たちで効率化していくのは楽しくてやりがいもあります。リーダーがなすべきことは、「みんなで話し合ってみよう」と促して、コミュニケーションの場をつくることです。
もう一つ、休める組織をつくるために、すぐに実践できるテクニックが、休みの計画を立てること。
月単位でも年単位でも、メンバーが休みを取りたい日があれば、あらかじめ「この日は休む」と決めてしまいましょう。会社の年中行事、繁忙期などは事前にわかっているはずです。それを考慮して、いつなら休みを取れるかをメンバーそれぞれに考えて決めてもらうのです。リーダーが率先して「この日は休む」と宣言するのも効果的です。
私のチームでは、月に1回は有給休暇を取ることにして、メンバーが計画的に休むようにしていました。そのことはクライアントにもあらかじめ伝えて、「ご承知おきください」と宣言しておきます。予定を決めてしまうことによって、みんながその気になって、休みを取ることを前提に動くようになる。チームとしても、メンバーが予定通りに休めるように助け合うことが当たり前になっていきます。
「みんなが休めるように業務を改善したい」「そのためにはどんどん意見を出してほしい」──そう言われても、意見を出すことをためらう人が多いのは、「言ったもの負け」の問題があるからです。
「こんな問題点がある」「こんな改善策をやるべきだ」と下手に言ってしまうと、「じゃあ、あなたがやってください」と言われてしまう。その結果、ただでさえ休めないのに、さらに新たな業務を背負い込むことになる。これでは意見が出てこないのは当たり前です。
リーダーとしては、「じゃあお前がやれ」とは絶対に言うべきではないのは当然です。そのうえで、「言ったもの負け」を避けるための対策として、以下の2つを実践しましょう。
①提案者に、どういう条件であれば提案を実現できるか聞くこと。ここまで聞くことで、提案者は「別の仕事を減らしてもらえれば、自分が担当できます」と無理のないかたちで取り組んでくれるかもしれません。あるいは、実際の対応は別の人に任せたほうが得策だ、と判断できることもあるでしょう。
②提案者の気持ちを聞くこと。自分が改善策を実行したいと思って提案してくれる人も中にはいるでしょう。一方、「今、大変な状況だから助けてほしい」と思って提案する人もいるはずです。「このままだとプロジェクトに問題が起きる。リーダーにちゃんと対応してほしい」と思っての提案かもしれません。いずれにしても、提案者の気持ちを聞くことで、しかるべき人に改善策を実行してもらうことが可能になるのです。
以上に加えて、改善策を提案してくれたメンバーには必ず「言ってくれてありがとう」と感謝を伝えることを忘れないようにしましょう。自発的に提案をしてくれるメンバーは、本当に貴重な存在です。
注意してほしいのは、部下の提案につい「赤入れ」をしてしまう癖がある人です。悪気はなくても「ここはこうしたほうがいい」などと、つい部下の提案に対して指摘してしまう上司はよくいます。せっかく提案しても、上司に偉そうにジャッジされてしまうとなると、自発的だったはずの意見表明が「やらされる仕事」に変わってしまいます。
更新:02月19日 00:05