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「アメを与えても動かない部下」にどう接する? 現代の管理職に求められる能力

2025年01月30日 公開
2025年06月03日 更新

大村壮太(作家)

アジャイル・マネジメント

現代の管理職に求められる役割は、時代とともに大きく変化しています。連載第2回にあたる本稿では、その変化について、リーダーシップ論の変遷を紐解きながら考えていきたいと思います。特に、「交換型リーダーシップ」から「変革型リーダーシップ」への流れを概観し、個々人のコミットメントを引き出す管理職のあり方を探ります。

また、前回の記事では、「管理職」や「部下」といった仰々しい単語を使ってみましたが、今後は「管理職」の代わりに「マネージャー」「マネジメント」、「部下」の代わりに「チーム」「メンバー」といった口馴染んだ単語を使わせていただこうと思います。意味に全く相違はないため、適宜置換して読み進めていただけますと幸いです。

 

交換型リーダーシップの限界:変化への対応力不足

経営学や社会心理学の分野では、リーダーシップを大きく「交換型(トランザクショナル)リーダーシップ」と「変革型(トランスフォーメーショナル)リーダーシップ」に区分する考え方が広く知られています。

交換型リーダーシップは、従業員との間に「成果に応じた報酬」といった交換関係を築くことが中心でした。具体的には、売上目標や業務目標を明確化し、それを達成すれば昇給やボーナスといった見返りを与え、達成できなければ降格や減給、場合によっては解雇といった処罰を与える、というやり方です。

前回の記事で述べた「飴と鞭でメンバーを動かす」という広く受け入れられているマネジメント手法は、まさに交換型リーダーシップの典型と言えるでしょう。

現代において、交換型リーダーシップが有効に機能する場面は限られてきています。理由は大きく二点あります。

第一に、市場の不確実性が格段に高まっていることです。製造業中心で市場変化の速度が緩やかだった時代と比べて、現代はIT産業を中心としてサービスやプロダクトのライフサイクルは短くなり、ニーズは多様化・細分化の一途を辿っています。変化が激しく、将来の予測が困難な状況においては、組織が取り組むべき課題そのものが常に変化します。

つまり、予め設定された静的な目標や評価基準に沿った行動を評価するだけでは、組織が直面するダイナミックな変化に対応する能力を養成することができなくなっているのです。

この状況に対処するためには、個人が予め定められた評価プロトコルに従うのではなく、常に創造力を発揮しながら、臨機応変に課題を発見することを促すようなマネジメント手法が必要になります。交換型リーダーシップにはこうした機能が致命的に欠けています。

第二に、前回の記事でも触れたように、働く人々の価値観が多様化していることです。かつては、終身雇用が一般的であり、企業に長く勤め、昇給・昇格を重ねることが、多くの人にとってのキャリアの成功モデルでした。

しかし、現代においては、ワークライフバランスや自己実現、社会貢献など、働くことに対する価値観は多様化しており、金銭的な報酬だけではモチベーションを維持することが難しくなっています。

従来の交換型リーダーシップは、金銭的報酬と目標達成の「交換」という関係を前提としていましたが、現代においては、その前提自体が崩れつつあります。代わりに、人々は仕事に「やりがい」や「意義」といった価値を求めるようになっています。

まとめます。高度に複雑化した外部環境に対応するためには、企業は、予め決まっているプロトコルに従って個人に賞罰を与えるのではなく、個々人がコミットできる「価値」を提示して、自主的に課題解決に取り組む状態を作り出すことが必要になります。

 

変革型リーダーシップ:内発的動機づけと行動変容

このような背景から近年注目を集めているのが、「変革型リーダーシップ」です。変革型リーダーシップは、リーダーがビジョンを示し、メンバーを鼓舞し、刺激することで、組織全体の変革を推進するスタイルです。

メンバーを報酬と処罰によって動機づける交換型リーダーシップとは異なり、マネージャーが体現するビジョンや価値への「共感」によって自主的なコミットメントを促す方法論です。

変革型リーダーシップにおいて重要になるのは、マネージャーが如何に魅力的なビジョンを示し、それに対する動機づけをメンバーに与えることができるかです。そのため、マネージャーに求められるのは、組織の進むべき方向性を示すビジョンや、メンバーの共感を呼ぶ価値観を常日頃から磨くこと、そして何よりも、メンバーの心を動かし、自発的な行動を促すコミュニケーション能力を養成することなのです。

現代のマネージャーという仕事の真のやりがいは、こうしたビジョンや価値観がメンバーに届き、実際にそれが「行動変容」につながる瞬間を目撃することにあると思っています。メンバーが自らのビジョンに共感し、自発的に行動を起こし、これまでとは違う成果を生み出す。その過程を間近で見守り、支援し、共に喜びを分かち合う。これこそが、マネージャーでしか味わえない、大きな達成感に繋がるのです。

私は、マネージャーという仕事は、内発的動機づけによって人を動かす力を養うための最高の訓練であると考えています。人の力を最大限に引き出し、それぞれが創造性を発揮しながら課題解決に向かっていく環境を作り出す力は、複雑性を増す現代社会において非常に重要です。

変革型リーダーシップを発揮するのに、マネージャーというポジションは必ずしも必要ではありませんが、リーダーシップは立場とセットになって初めて大きく機能するものでもあります。人を動かす力は、誰にとっても、何物にも代え難い財産になると信じています。

次回は、内発的動機づけを組織に浸透させるために効果的なアジャイルの思想に基づく組織設計の技術について紹介します。

 

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