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「部下がやる気にならない」と悩む管理職に求められる3つの視点

2024年07月02日 公開

小川実(一般社団法人成長企業研究会 代表理事)

管理職

様々な業界で人手不足が叫ばれ、採用も容易ではなくなっている昨今。退職代行を使った早期離職なども話題になっています。

人材の育成は近年の企業経営における重要なテーマであり、最大の悩みです。現場の管理職がすぐに実践できる部下育成のコツとはなんでしょうか。

『小さな会社の「仕組み化」はなぜやりきれないのか』(アスコム)の著者で、一般社団法人成長企業研究会 代表理事の小川実氏が解説します。

 

「人の育て方を知っている人」などいない

「部下の育て方がわからない」というのは、実際に経営者や管理職の方々からよく聞く悩みです。

人材が育たないのは上司の責任だといわれます。それはそうなのですが、仕方がない面もあると私は思います。「自分は人の育て方が完璧にわかっている」などという人が、はたしているでしょうか?優秀な部下が育ったとき「自分が育てた」というより、結果的に「育ってくれた」と感じることのほうが多いように思います。

特に大きな会社ほど、最初から「全員が育つ」などとは考えないものです。大量に人を採用し、何人かがコア人材として残り、育っていく。「何人かが育つ"だろう"」というのが現実ではないでしょうか。

なにしろ、どんな指導をしても部下本人にその気がなければ成長は望めません。管理職の皆さんが感じる「人が育たない」悩みの中には、どうやってやる気にさせればいいかがわからない、といったモチベーターとしての悩みも含まれているのです。

 

人事評価が組織を変える

では部下の育成は結果論でしかないのかというと、そうではありません。「成長できる環境」を提供することはできます。

その環境をつくるカギが、実は評価制度であり、賃金制度なのです。

2024年4月22日付のスポーツニュース記事で、こんな見出しが目に入りました。

「【日本ハム】好調の裏に"査定改革"」

読んでみると、これまで明確に査定の対象になっていなかった細かなプレーをしっかり評価するように改革したことが書かれていました。すると、監督からの指示に応える選手のモチベーションがあがり、チーム力の強化につながっているのではないか、という趣旨です。

企業の人材育成にも同じことがいえるのではないかと思います。

「組織のビジョン+目標(役割)+評価+報酬」

当たり前に思えるこれらがしっかりとかみ合っていることが重要です。とはいえ、人事評価制度は基本的に会社が決めているもの。現場の管理職が簡単に変えられるものではありません。

では、今ある人事評価制度を「人を育てる仕組み」として機能させるためには、どうすればいいのでしょうか。ここでは3つのポイントに絞ってお伝えします。

 

管理職もビジョンを語る

まずリーダーである管理職がビジョンを持ち、語ること。会社には経営理念やビジョンがありますが、私は部や課、係といった組織のリーダーも、それぞれがビジョンを掲げたほうがよいと考えています。

近年、若い年代の人ほどお金やモノに対する執着がなく、誰かの役に立つことや社会への貢献に喜びを感じるようになっています。仕事の意味や意義を大事にしていると言い換えてもいいでしょう。

しかし仕事をしていれば、意味や意義を感じにくい作業や時間もあるものです。そんな中で、身近な管理職がビジョンを持たず「やらされ感」を出していたら、組織内にもやらされムードが蔓延してしまいます。

自分の組織が会社の中でどんな役割を担い、何を成し遂げようとしているのか。自分なりに言語化してみると、組織のムードもよくなり、メンバーとの接し方にも軸ができるので迷いや悩みが減っていくはずです。

 

肩書ではなく役割を明確にする

もう一つは、役割を明確にすることです。2021年、テスラのイーロン・マスクCEOが自らを「テクノキング」と名乗り話題になりました。テクノロジーの王様、といったことなのかもしれませんが、実はこの肩書きには「なんだかユニーク」以外の意味はほとんどありません。何しろイーロン・マスク氏の権限や職務は何一つ変わらないというのですから。

考えてみると、会社員の人が名刺を渡す際に「●●社の営業課長の小川です」などと肩書きを説明するケースは少ないように思います。たいていは「●●社の小川です」で済んでしまいます。外部の人にとっては肩書きなどそれほど意味がないのかもしれません。

大事なのは肩書きではなく、組織図と役割です。まず組織図があって、組織図に役割を当てはめていって、そこにはじめて肩書きがつくのです。

組織図は、社員に名札をつけて単に組み合わせを考えるパズルではありません。みなさんの組織のメンバーには、それぞれ明確な役割が設定されているでしょうか。「年間予算1億円の営業担当」とか、そういうことではありません。組織のビジョン達成のために何を担う人なのか、という役割です。

もし特に決めていないのだとしたら、ぜひ考えてみてください。新規顧客を開拓してほしいとか、資料作成の完成度を高めてほしいとか、一人ひとりの特性に合わせた「やってほしいこと」があるはずです。

 

効力感をフィードバックする

最後に、評価の伝え方です。キーワードはメンバーの感じる「効力感」。SNSに馴れた世代は承認欲求が強い、などといわれることがありますが、なんでもかんでも褒めていればいいわけではありません。

一時期、「ホワイト過ぎる会社を辞める若者」が話題になったのを覚えているでしょうか。いわゆるブラック企業が問題なのはいうまでもありません。ところが、あまりにもホワイトな環境は、若者にとってかえって"ぬるい"と思われてしまい、離職の理由の一つになっているそうです。

働き手の側にあるのは成長できないことへの怖さです。長く勤めてさえいれば年功制で給与が上がっていく時代ではありませんから、生き抜いていくためには自分の成長が不可欠だという危機感を持っています。つまり非常に高い成長欲求を秘めているわけです。

それを踏まえると、ポイントは、プロセスを評価することです。メンバーがやってくれた仕事一つひとつについて、その「効力」をフィードバックしましょう。良い効力も、悪い効力も、両方です。悪い結果であっても、それを伝えることで本人は自分の仕事が何らかの影響を及ぼしたことを知ることができます。

最悪なのは「あとは大丈夫」などと言って変に隠してしまうこと。かばっているつもりでも、本人は「自分の仕事には何の意味もない」「いてもいなくても同じ」とかえってモチベーションを下げる恐れがあります。

メンバーは、大きな組織では歯車の一つなのかもしれません。しかし感情や成長欲求がある人間です。確かな一歩を自ら踏み出して、その足跡を確認して、間違いなく前進していると信じたいのです。

著者紹介

小川実(おがわ・みのる)

一般社団法人成長企業研究会 代表理事

一般社団法人相続診断協会 代表理事。HOPグループ代表。1963年生まれ、岐阜県岐阜市出身。河合会計事務所、野村バブコックアンドブラウン株式会社勤務を経て、2002 年に税理士法人HOPを設立。現在は社会保険労務士法人HOP、行政書士法人HOP、株式会社ワンストップHOP、株式会社HOPコンサルティングを加えてHOPグループを形成。3資格の総合的な経営コンサルティングで、中小企業のかかりつけ医として経営者のサポートを行う。2020年には一般社団法人 成長企業研究会を設立。小さな会社の成長こそが日本を元気にするという理念のもと、経営の仕組み化を支援している。

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