2021年08月07日 公開
2021年08月07日 更新
次世代のクリーンエネルギーとして注目されている水素。しかし、その実用化には様々な課題がある。まず、製造方法だ。現状では石炭や天然ガスといった化石燃料から製造する方法が主流だが、これでは二酸化炭素が排出されてしまう。水を電気分解して製造すれば二酸化炭素が出ないが、その電気をどう作るか。火力発電ではやはり二酸化炭素が出てしまう。太陽光発電でまかなおうとすると、広大な面積が必要になる。さらに、運搬などのために高圧にすると、コストがかさむ。こうした課題を解決する水素生成技術を開発し、今年度中に新電力大手のイーレックス〔株〕と日本初の水素専焼発電所の運転開始を目指しているのがHydrogen Technology〔株〕だ。代表取締役社長の山本泰弘氏に取材した。
Hydrogen Technologyは山梨県富士吉田市に「水素実証センター」を持っている。取材は、同センターに設置されている水素生成工場を見学しながら行なった。
――水素生成工場が普通の社屋の中にあることに驚きました。
Hydrogen Technologyの「水素実証センター」にある水素生成工場の一時貯蔵タンク
【山本】日本の法律では、水素を1MPa(メガパスカル)以上の「高圧」にすることを、水素の「製造」と言います。高圧だと、周囲と8mの保安距離を取らなければならないので、建物の中で水素を「製造」することはできません。
ここでは、ただ水素が発生しているだけで、1MPa未満の「低圧」です。ですから、消防法で定められている通り、建物に不燃材や鉄骨を使って、照明を防爆にしたりすれば、建物内でも問題ないんです。
高圧の水素を扱う機器には、そのための認定品を使わなければならず、特別な検査も必要です。タンクも、低圧だと鉄でいいのですが、高圧だとステンレスにしなければならない。低圧だと、コストが低い分、水素の価格を安く抑えられます。
――出荷する際は、どうするのでしょうか?
【山本】今は、7立方メートルのボンベに詰めて、商社を通じて、燃料電池の研究を行なっている山梨大学などに販売しています。その際には、保安距離を取って屋外に置いている高圧コンプレッサーを使って、14.7MPaで出荷しています。
販売する際に水素を詰めているボンベ
ただ、燃料電池にしても、燃焼させて発電するにしても、水素を使うときは低圧に戻します。ですから、私たちは、水素を高圧にして運ぶのではなく、プラント自体をお客様のところに運んでオンサイトで水素を作り、低圧のまま使っていただくことを考えています。
もちろん、屋外にプラントを作ることもできます。その場合は、万が一、水素が漏れても、軽いので上に逃げていくだけですから、防爆なども必要なく、さらにコストを下げられます。
現状では、日本に1立方メートル100円を切る水素はありませんが、当社のプラントは安価なので、オンサイトで水素を作ると1立方メートル50円を切ります。今年9月に、初めて、実際にプラントをお客様のところに設置する予定です。
高圧にしてお客様のところに届けると、単価も1立方メートル1000円ほどに上がりますし、お客様が8mの保安距離を取る必要もあります。それが難しければ、4mの壁を作らなければならない。その壁の基礎を作るのに、かなりのコストがかかります。
――水素はどのように発生させているのですか?
水素を発生させる反応タンク(手前の2本)
【山本】A・B・Cと3つある反応タンクの中で、天然の鉱石と水を反応させて発生させています。自動制御やセンサーには電気を使っていますが、水素を発生させるためには、いっさい電気を使っていません。カーボンフリーで、純度99.999%の水素を作っています。
この1年ほどで、製造過程での二酸化炭素の排出量への関心が強くなってきたことで、お客様からの引き合いが急激に増えました。
――天然の鉱石を水の中に入れるだけ?
【山本】そうです。「じゃあ、その鉱石がある場所に雨が降れば水素が発生するのか?」と聞かれることがありますが、反応をよくするためにpHを調整しています。
また、自然の状態では鉱石の表面が酸化しているので反応しにくい。そこで、砕いて使っています。
――鉱石も価格が高いものではない?
【山本】はい。こうした性質を持った鉱石をマフィック岩と呼んでいますが、ロシアのシュンガイトなど、数多くあるんです。世界中から同様の性質を持つ鉱石を集めて、ブレンドして使っています。そのレシピを作るのに半年ほどかかりました。ビーカーを爆発させたり、天井やテーブルに穴を開けたりもしました(笑)。
――水素以外の気体は発生しない?
【山本】しません。水が分解されて水素が発生するのではなく、水と反応した鉱石から水素が発生するんです。反応後は、鉱石が水に溶け込んだものが残ります。そこに新たに鉱石を継ぎ足して、繰り返し使っています。
更新:12月10日 00:05