もみほぐしても腰痛が一向に改善しないのは、背骨の構造に起因しているといいます。
スポーツトレーナーの中野崇さんは著書『40代からの脱力トレーニング』にて、年齢を重ねるごとに取れにくくなった疲れには「脱力」大切だと語ります。そんな同書より、腰の凝りの原因と腰回りに効く呼吸法を紹介します。
※本稿は、中野崇著『40代からの脱力トレーニング』(大和書房)より内容を一部抜粋・編集したものです
多くの方は、力を抜こうとしても、うまく抜けません。そのため、脱力スキルでは、「力を抜くためには、力を入れること」を重要視しています。
なぜなら、人間の身体は「力を入れるべき部位」に力を入れ、その部位がしっかりと機能しないと、力を抜くべき部位」の力が適切に抜けないからです。
力を入れるべき部位には、重力に逆らって身体を支え、(専門的には、骨格での支持効率の向上と言います)、力の伝達ロスを最小化することで、身体をスムーズに動かす役割があります。
この力を入れるべき部位がしっかりと働いていれば、力を抜くべき部位は圧倒的に脱力しやすくなり、日常動作でエネルギーロスを起こしていた筋肉が勝手にゆるんでいきます。
そのために、逆説的ですが、「力を抜くために、力を入れること」にフォーカスしているのです。
しかし、筋肉のコリや緊張が常態化して身体が固く、疲れやすい人は、大抵この力の入れ方が逆転しています。力を抜くべき部位に力が入り、力を入れるべき部位にうまく力が入っていないのです。
さらに、私たちの身体には、力を抜くべき部位が力んでしまうと、力を入れるべき部位が、より働きにくくなるという厄介な性質もあります。筋トレなど、鍛えるトレーニングをされている方は、パーソナルトレーナーと相談し、鍛えるターゲット部位を慎重に選択したほうがよいかもしれません。
力の抜きどころとしてとくに重要な部位は、「腰」です。腰の力みから始まるトラブルは、非常に多いからです。
みなさんは凝った腰をマッサージでほぐしても、数日経ったらまたすぐコリが復活した経験はありませんか?なぜすぐに元に戻るのかというと、腰が緊張する根本的な理由が解決されていないからです。
まず、腰の緊張には「背骨の構造」が影響しています(上図)。
背骨の上約3分の2は肋骨とつながっていて、鳥かごのような形状(胸郭)になっています。そのため、この部分は骨格構造的に強固なつくりになっています。
問題は、下約3分の1を支える腰椎です。腰椎は、鳥かご形状ではなく、腰椎一本だけで腰を支える構造になっています。
この構造は、かなり不安定なので、それを補うために腰の筋肉が補助しなければなりません。だから、いくら腰をほぐしてもまたすぐに戻ってしまうのです。
身体の構造上、腰は緊張しやすく、腰痛を持つ人が多いのは仕方のないことだと言えるでしょう。しかし、身体にはこの不安定な腰の構造をカバーする仕組みも存在しています。
それが、「インナーユニット」と呼ばれる、横隔膜、腹横筋、骨盤底筋、多裂筋といった筋群の連携によって生み出される「腹圧」です。
腹圧を高めれば、コルセットのように体幹を安定させることができます。また、腹圧の向上により体幹が安定し、腕や脚を動かす際の土台としての機能が向上します。
つまり、腰などに過剰な緊張を生み出すことなくしなやか、かつ軽やかな動きができるメリットが得られるようになるのです。
しかし、多くの人はこの腹圧を適切に使えず、代わりに腰の筋肉を過剰に緊張させて支えようとする傾向があります。これが、腰の張りや慢性的な緊張につながる原因です。
腰腹呼吸を使って横隔膜を鍛えます。腰腹呼吸とは、息を吸うときにお腹だけでなく、腰も同時に膨らませる呼吸法です。
横隔膜は体幹の深層に位置する筋肉であり、鍛えれば強くなる一方、使わなければ衰えて固くなります。感覚センサーが少なく、自分で収縮を感じにくい筋肉でもあるため、呼吸時にお腹と腰がしっかり膨らんでいるかが、横隔膜の働きを確かめるサインとなります。
横隔膜がしっかり働くことで腹圧が高まり、腰まわりが内側から支えられ、腰部の筋肉の緊張も緩和されます。いわば、「天然のコルセット」です。
さらに、横隔膜は内臓に直接マッサージを加える働きも持っており、内臓の血流を高め、消化や回復力にも良い影響を与えます。
腰腹呼吸の次は、「吸い足し呼吸」で横隔膜を限界まで収縮させ、さらに鍛え上げます。
●POINT
現代人の腰は固まっているので、吸った息が前に逃げてお腹だけが膨らむ呼吸になりがち。かといって、お腹と背中に均等に圧をかけるのは、難しい。そこで、お腹に圧が逃げないよう、お腹が膨らむのを抑えつつ、腰を膨らませる意識を持つ。手で腰を優しくさすると、感覚が上がり、コントロールしやすくなる。
更新:07月18日 00:05