2026年09月18日 公開

海外拠点に自社文化が根付かないのは誰の責任?「組織はリーダーを映す鏡」と言われる理由を解説してもらった。
※本稿は、グロービス、高橋亨 著『海外で結果を出す人は、「異文化」を言い訳にしない』(英治出版)の内容を一部抜粋・編集したものです。
海外拠点のリーダーにとって、自社独自の文化を創ることが、いかに重要かについて述べたい。
多くのグローバル企業は、自社はアメリカ系だからとか、ドイツ系だからとか、創業地の国の名前を必要以上にアピールしようとはしない。
むしろ、そうすることを避けているように見える。「我が社はアメリカのIBMだ!」「イギリスのユニリーバだ!」というのは、あまり聞いたことがないだろう。それぞれ、「IBMの文化は○○」、「ユニリーバの哲学は○○」など、国名を語らずに、あくまで自社の文化を訴えようとしている。
ただし、経営共創基盤の冨山和彦氏がよく言っておられることだが、グローバルで成功している企業は、自社固有の文化を創るなかで、IBMは米国東部の匂いをぷんぷんさせているし、アップル社は西海岸のノリを感じさせてくれるし、IKEAは北欧の香りを漂わせている※1。
※1「ワタミ・渡邉美樹氏×グリー・田中良和氏×経営共創基盤・冨山和彦氏〈この国を次代につなぐ“世代の責任”とは〉」(GLOBIS知見録、2011年3月1日)
自社が国名を語らないのは、創業地の特性を打ち消すべきだ、と言っているのではない。むしろ創業地で培われたことが、何より大切なこととして自社の文化のなかで息づいているのだ。そこを否定しているわけではない。
ただ、グローバル企業の姿勢を見てみると、あえて国名を言わずに「自社の文化」を語る姿勢を大事にしているように思える。
そもそも、組織文化とは、何を意味するのか?グロービスの定義をご紹介しよう。
「組織文化は、組織の持つ信念、価値観、行動規範の集合体であり、企業の盛衰を左右する大きな要素の1つだ。組織文化は、企業の構成員のものの見方や行動を規定する※2」
※2『グロービスMBAマネジメント・ブック 改訂3版』グロービス経営大学院編著、ダイヤモンド社、2008年
こうした組織文化は、どのように醸成され、どのように組織全体に広がり、受け継がれていくのか。
入社してきた社員が、いつのまにかその企業の組織文化や風土に染まり、その企業の「らしさ」をどう身に付けていくのか。
グロービスでは、リーダーを含む組織構成員の「思考」「言葉」「行動」が、組織文化を形成していると位置づけている。

まず起点となるのが、リーダーの思考様式だ。
言葉はどのような思考様式を持つかに規定されるので、リーダーは、自分がどのような考えを持っているのか、持つべきなのかを明確に意識することが重要だ。ここでいう思考様式とは、考え方の特徴的な部分、あるいは、癖と言ってもいいだろう。
たとえば、大所高所からの自由な発想を重視するタイプなのか、細かな点や現場の些細な変化に徹底的にこだわるタイプなのか。あるいは、リスクを積極的に取りにいくタイプなのか、リスクを極力回避するタイプなのか、といった思考の違いだ。
次に、自分の思考様式(考え)を、どのような言葉で伝えるのか、どのような行動で示すのかが問われる。すなわち、「言語選択へのこだわり」と「自身の見え方へのこだわり」が肝となる。
なぜなら、リーダーの使う言葉、リーダーの見せる姿が社内の他のメンバーに影響を及ぼし、メンバーの思考を促すからだ。
たとえば、トヨタ用語で「現地現物」という言葉を聞いたことがあるだろう。トヨタでは、似たような意味なのに「現場を確認したか?」という言い方は許されない。必ず「現地現物したか?」と言う。この言葉には、その場所である「現地」に必ずきちんと出向いて、しっかり「モノ(現物)」を見てこいという強いこだわりが託されているのだ。
こうした環境に身を置いていると、メンバーも、その思考様式をベースとした言動を取るようになる。こうして、組織全体としての思考様式・言動が、サイクルとして強化されていくというメカニズムだ。
リーダーは、つねにメンバーに見られている。だから、組織文化の起点となる自身の言動がどんな影響をもたらすのか、つねに自覚すべきである。よく言われるように、「組織はリーダーを映す鏡」なのだ。
時折、海外拠点のトップやリーダーからの悩みを耳にする。
「ウチの拠点は、自社の文化がメンバーに根付いていない」
「海外では、自社としてのあるべき言動が取れていない」
これはまさに、トップやリーダーたちの姿を、その組織が鏡のように映し出していると認識すべきだろう。つまり、海外拠点を率いるリーダーの「思考様式」「言葉」「行動」のどれか、あるいはすべてに問題がある可能性が高いのだ。
自社の文化は、リーダーにしか創れないのだから。海外現地法人のトップとして赴任したら、自分は組織文化の管理人であること、組織の成長は自分の器で決まることを、ぜひ肝に銘じてほしい。
組織文化を各国で着実に根付かせ、事業を成長させていくのに非常に優れている好例として、ユニリーバを紹介したい。同社は、P&Gとともに日用品のグローバル市場をリードする優良企業だが、新興国での強さが際立っているのが特徴だ。
他社があまり実績を出したことのない新興国に分け入って、現地に自社の文化と事業を根付かせ、成功を収めている。
その証拠に、同社の収益の50%は新興国での事業が占めている。その強さの秘密について、ユニリーバのアジア太平洋地域のマーケティング・ディレクター、サンディープ・コーリ氏にインタビューしたことがある※3。
※3「収益の50%は新興国から! ユニリーバの強さの秘密は4つの“P”」(GLOBIS知見録、2015年6月9日)
サンディープ氏は、自社の文化を現地に根付かせるための重要な要素として、4Pという枠組みで語ってくれた。すなわち、次の4つだ。
1.人(People)...消費者
2.パートナー(Partner)...協業企業
3.目的(Purpose)...現地で共感を得られる目的
4.人(People)...従業員
1つ目の「人」は、現地の「消費者」を指す。当然のことながら、現地の人々の生活を理解しなければならない。
2つ目の「パートナー」は、販売店や流通などの協業企業のことだ。それらの組織のビジネスを後押しするために、人材育成やシステム投資も積極的に支援するという。
3つ目の「目的」は、特に新興国では重要な要素だと、サンディープ氏は考えているそうだ。そもそも、「何のために、その国で仕事をするのか」を明確に言える企業はどれだけあるだろうか。縁もゆかりもない土地で、顧客もパートナーも含めた、さまざまな人々を巻き込んでビジネスを行うためには、その土地で成し遂げようとしている目的を掲げ、それが共感を得られるものでなければならない。
たとえばユニリーバでは、「子どもたちの命を救う」という目的を掲げて、石鹸を販売している。世界で何千万人という子どもが、非衛生な環境のために、5歳になる前に命を落としている。ユニリーバは、石鹸の販売そのものを目的としていない。
子どもやその親たちを対象に、手洗いの方法や清潔を保つことの意義などを教えるプログラムを展開し、「子どもたちの命を救う」という目的の達成をめざしている。そのために、リーダーやメンバーが日々自分たちの考え方を振り返り、あるべき行動は何かに注意を払っているのだ。
4つ目に、ふたたび登場する「人」は、「従業員」を指す。ユニリーバは、新興国においても従業員に高い能力基準を求めている。さらに、どの国の従業員も、世界で通用する最高の人材となるように育成する。
ユニリーバが掲げている願いは、人々が「心も体も元気で美しく、より充実した日々を送るため」というものだが、この願いは、世界中のユニリーバの社員の行動のなかに貫かれている。価値観の基準に妥協はない。ユニリーバで働くスタッフは、世界中のどのオフィスへ行っても「ユニリーバ」を肌で感じることができるそうだ。
ユニリーバの組織戦略は、新興国だけでなく、海外で新しい事業を作ろうとしている組織にとって、きわめて示唆に富んだものだ。組織文化の浸透が、組織の成長に深く影響することを、ご理解いただけたと思う。
ちなみに、日本国内であっても、リーダーとして、組織や組織文化を変えることの難しさを感じておられる方も多いはずだ。ましてや海外に行けば、変革の難易度は格段に高くなりそうだと想像するかもしれない。
しかし、海外の現場において、自らの思考様式、言葉、行動によって、新しい組織文化を創り上げたリーダーを、私は何人も見てきた。
実は、こうした変革は、海外のほうがやりやすい。なぜなら、海外拠点のほうが、組織文化形成のサイクルを回しやすいからだ。現場に立つリーダーとして、どうすればよいか、真剣に思考する。その思考を自分の言葉に落とし込む。それができれば、海外拠点は本社に比べて規模も小さいので、直接社員に語りかけることができる。
そして、自身の行動を直接見せる機会も作りやすい。私が知っているリーダーのなかには、こうした海外での経験を逆に本社の変革に活かしている方もいる。
言い換えれば、海外拠点はリーダー次第で、ガラッと状況が変わってしまうことがよくある。スタッフへの不満を嘆く前に、いかにリーダーの責任が重いものかを十分に自覚してもらいたい。
更新:09月18日 00:05