2026年09月14日 公開

海外でのトラブルを「文化の違い」で片づけていないか。異文化理解より先に確認すべき、ビジネスを阻む「4つの壁」を解説してもらった。
※本稿は、グロービス、高橋亨 著『海外で結果を出す人は、「異文化」を言い訳にしない』(英治出版)の内容を一部抜粋・編集したものです。
海外ビジネスに携わるビジネスパーソンに、こんな質問をしてみる。
「海外で仕事をするうえで、何が一番大事なスキルだと思いますか?」
すると、つぎのような答えが返ってくることが多い。
「異文化理解力です」
「異文化コミュニケーション力でしょう」
確かに、文化的に異なる背景を持った人たちといっしょに仕事をするうえで、異文化理解はとても大事なテーマだ。しかし、「異文化に囚われすぎると、問題の本質を見失ってしまう」という落とし穴がある。
これは「ビジネス上の問題を、異文化の問題に取り違えてしまった」とも言えるだろう。ここでは、どのようにして、ビジネス上の問題を異文化の問題に「取り違えた」のかを、具体的な事例を見ながら考えていきたい。「取り違え」のポイントになるのが、日本での仕事と海外での仕事のあいだに立ちはだかる、大きな「壁」だ。
海外で活動するビジネスパーソンは、どんな壁に直面するのか。グロービスでは、さまざまなケースや経験者のインタビューなどをもとに、この壁を次の4つにまとめている。
1.経済やビジネスの「発展段階」の違いによる壁
2.自身がカバーする「ビジネス領域」の違いによる壁
3.「組織での役割」の違いによる壁
4.持っている「文化」の違いによる壁
これらは、日本のビジネスパーソンが、「日本の国内事業×日本人組織」という仕事の仕方から抜け出し、「海外事業×ダイバーシティ組織」の仕事ができるようになるために、乗り越えなければならないものだ。この4つの壁をきちんと分けて理解していないと、すべての問題が異文化に起因しているかのように結論づけてしまう。
では、この4つの壁を詳しく見ていこう。

これは、国や地域の経済が、どんな発展段階にあるかによって、ビジネスのやり方に違いが出るということである。
たとえば日本は、先進国として、伝統的なインフラ系の産業はもとより、国際的にまだまだ競争力のある自動車や電機などの業界であっても、国内では大半が成熟産業となっている。業種によっては、衰退産業化しているものもあるだろう。
それに対して、東南アジア諸国や新興国、新・新興国では、業界自体が、成長期の真っただ中であったり導入期であったりする。そうした国々と日本とでは、マーケティングのやり方、営業のやり方、組織の作り方、リスクの取り方など、かなりの違いが出るのは当然だ。
ところが、日本人ビジネスパーソンの多くは、生まれてこのかた、成熟社会の日本で、成熟業界の仕事の経験しかしていない。つまり、肌感覚として、成長期のマーケットにおける仕事の実感がまったくないのだ。
そんな状態で、自分の経験だけを頼りに仕事をすれば、どうなるか?ビジネスのやり方やビジネスパーソンの行動の違いが、経済や事業ステージの発展段階の違いに起因するものだと理解できず、文化の違いだと捉えてしまう。この現象が、1つ目の壁である。

日本では、組織が大きいほど、仕事における機能や役割も細分化される。そのため、1人ひとりの守備範囲は狭くなる。
たとえば、営業なら営業、マーケティングならマーケティング、製造なら製造、研究開発なら研究開発と、バリューチェーン上のきわめて狭い範囲を担当し、責任を持つ場合が多い。また、扱う製品・サービスの種類によって細分化されていることもある。
これに対して、海外では(もちろん、ケースバイケースだが)、日本にいたときより複数の製品やサービスを扱う必要があったり、バリューチェーン上の責任範囲も広くなったりすることが多い。つまり、カバーしなければならないビジネスの領域が広くなるのだ。
扱う製品が変われば、その製品特性に合わせた仕事の仕方が求められる。あるいは、担当する業務や役割が変われば、求められる行動様式も変わる。営業として働いてきた人も、マーケティング担当としての発想や視点が要求されるようになるのだ。
海外に来て、これまでやったことがない領域の仕事をいきなり任せられると、求められる仕事の考え方や行動様式が変わり、戸惑うことも多い。最初は勝手が摑めず、コミュニケーションがうまく取れないこともしばしば。このような壁に突き当たるのは、これまで経験したことのないビジネスをやるのだから当然だ。それにもかかわらず、それが異国の文化に起因すると錯覚してしまうのである。

これは、日本の本社から海外駐在に派遣されるビジネスパーソンのほとんどが経験することだ。海外に出ると、日本で担っていた役割より、一段も二段も上位の役割を担うことが多い。
日本では部下を持ったことがない人がマネジャーを任されたり、日本では部課長クラスの仕事をしていた人が、役員クラス、場合によってはトップを任されたりする。日本国内で昇進する場合であっても、それなりのフォローが必要だ。
それが、いきなり海外で、初めて部下を持ったり、初めて組織全体のマネジメントに責任を持ったりすることになるのだ。これは相当にハードルが高い。この問題に悩んで、心身がやられてしまう人がいるほどだ。
現地で組織や人の問題に直面している駐在員に話を聞くと、いずれも「文化の違いに悩んでいる」「異文化コミュニケーションがうまくいかない」という言葉が出てくる。
もちろん、文化の違いによる問題がないとは言わないが、それ以前に、そもそも自身が現地で与えられた役割にふさわしいだけの、組織マネジメントに関する知識やスキル、マインドセットを持っているのかを問うべきである。

これは、一般によく言われる「異文化」、国や民族の違いによる文化的な違いのことだ。
注意したいのは、国籍などの表面的な違いではなく、個々人の考え方も含めた見えにくい違いを考慮する必要があるという点だ。
また、これまで述べてきた3つの壁をすべて検討したうえで、初めて考慮すべきものである。とはいえ、実際には、これら4つの壁が明確に区分された形で、問題として現れるとは限らず、複合的に絡みあっている場合もある。
だからといって、これらの現象をすべてまとめて「文化の違い」として捉えてしまうと、どうなるか?
それ以上、問題を掘り下げない思考停止状態に陥り、前向きで具体的な対応には結びつかなくなってしまうのだ。そんなことにならないためにも、「そのトラブルは、本当に文化の違いからきているのか?」と、つねに自問自答しながら、冷静に解決策を見つけだしていただきたい。

更新:09月14日 00:05