THE21 » キャリア » 「高学歴で無難な社員」だけ採る大企業 トップ層は、尖った独創的な人材を選べない

「高学歴で無難な社員」だけ採る大企業 トップ層は、尖った独創的な人材を選べない

2026年09月03日 公開

太田肇(同志社大学名誉教授)

学歴重視の採用

テストで優秀な成績を収め、高い学歴を手にしたエリートでも、実務の現場に出た途端、「思うように仕事ができない」という壁にぶつかることがあります。

正解があらかじめ用意されていない仕事では、知識や学力だけでなく、対人交渉力や決断力、状況に応じて動く力など、より総合的な能力が問われるからです。

それでも企業は、なぜ学歴重視の採用から抜け出せず、「無難な優等生」を選び続けてしまうのでしょうか。太田肇氏の著書『なぜ「賢い人」が集まってしょうもない意思決定がなされるのか』から、その背景にある組織の構造的な問題を解説します。

※本稿は、太田肇著『なぜ「賢い人」が集まってしょうもない意思決定がなされるのか』(日本経済新聞出版)より内容を一部抜粋・編集したものです

 

期待の幹部候補生が「管理能力なし」の烙印を押されるまで

ここに、あるメーカーに勤務するAさんという人物がいる。彼は幼少期から「神童」と呼ばれ、常に校内トップクラスの成績を維持してきた。

大学入試でも、最難関とされる有名国立大学の法学部に現役合格している。卒業後、彼は誰もが知る大手メーカーに就職した。文字通りの「黄金の経歴」である。

入社後の彼は、まさに将来の幹部候補生として嘱望された。配属された総務や人事といった管理部門では、上司から与えられた課題を完璧に整理し、マニュアル通りに処理する能力を発揮した。彼は自分の有能さを疑わず、周囲もまた、彼の学歴という「看板」にひれ伏していた。

転機は入社10年目、彼が海外生産拠点の現地駐在員として派遣されたときに訪れた。それまでの「事務処理」中心の仕事から一転し、現地ではマネジャーとして文化の異なる現地社員を束ね、激しい労使交渉に臨み、現地政府や気性の荒い部品メーカーとの折衝を一手に引き受けなければならなくなった。さらには時差を超えて本社との複雑な調整をこなすという、泥臭く多角的な仕事が山積していた。

そこで求められたのは、受験勉強で詰め込んだ「既成の知識」ではなく、正解のない問いに対して決断を下す判断力、相手の懐に飛び込む交渉力、そして予期せぬトラブルにも動じない「胆力」や「思考力」といった、総合的な「人間力」であった。

残念ながら、Aさんにはこれらの資質が致命的に欠けていた。現地社員の心情を理解しようとせず、理屈でねじ伏せようとした結果、職場の士気は著しく低下し、トラブルが頻発した。本社からは「現場管理の力量なし」という冷酷な烙印を押されることになる。

それでもAさんは、自分の自信を微塵も揺るがせなかった。「自分の能力が正しく評価されないのは、現地のレベルが低いからだ」「人事部の配属ミスだ」と周囲を見下し、反発し続けたのである。

予定を切り上げて帰国し、希望した本社の企画部門に移ったものの、そこでも机上の空論ばかりが目立ち、部下の信頼を得ることはなかった。最終的に彼は挫折し、退職に追い込まれた。

 

「受験秀才型能力」の限界と共同体の不幸

Aさんのような態度は、単なる「プライドの高さ」の問題だろうか。それとも、受験勉強という「正解がある世界」でしか承認を得てこなかった人間が、正解のない現実世界に直面したときに見せる、悲痛なまでの自己防衛本能なのだろうか。

Aさんの悲劇を振り返ると、海外赴任までの彼は受験勉強の延長線上で生きていただけだったことがわかる。

いうまでもなく人間の能力は多様な要素からなり、仕事に求められる能力もまた多様である。Aさんの場合、上から与えられた問題を解く力、つまり「受験秀才型能力」は高かったが、自ら課題を発見し、人間関係を構築して物事を動かす「非受験秀才型能力」は明らかに不足していたのだ。

厄介なことに、点数化できる学歴とは異なり、実務に求められる人間力は暗黙知的な要素が強く、可視化が難しい。そのため、Aさんのようなタイプは自分の実力不足を自覚するのに多大な時間を要し、結果として自分自身と組織の両方を深く傷つけてしまう。

共同体型組織には強固な序列主義があり、その序列は学歴や偏差値といった客観的で、メンバーが反論しにくい基準に依存しがちだ。新卒一括採用という博打のようなシステムの中で、企業は安易に「学校歴」をフィルタリングに使い、採用された側もまた、それを「生涯有効な実力の証明書」だと勘違いする。結局のところ、Aさんのような人こそ、共同体型組織の犠牲者だと言えよう。

しかし、いったん共同体のメンバー(正社員)として迎え入れた以上、能力不足が露呈しても容易に解雇はできないし、本人のメンツを考えたらいきなり閑職に回すのも難しい。こうして、高学歴という鎧をまとった「実務能力のないエリート」が組織の中枢に滞留し続けるという、構造的な不幸が再生産されるのである。

ただ考えようによれば、Aさんのように初期段階で挫折するケースは、組織にとって被害が小さいと言えるかもしれない。

 

「裏承認社会の勝者」は「化けそうな人材」を選べない

第二のリスクとして、組織のトップに上り詰める人々の多くが「裏承認社会」の勝者であり、その結果として極めて保守的な人材に偏るという問題がある。大企業のトップ層に名を連ねるのは、高学歴であることはもちろん、人格的にも円満で、社内の空気を読むコミュニケーション能力に長け、誰からも反感を買わない「非の打ち所がない人物」であることが多い。

彼らは数十倍、数百倍という熾烈な内部競争を勝ち抜き、一度も大きな失敗(減点)をすることなく、ピラミッドの頂点へとたどり着く。

ここで重要なのは、彼らを選別してきた評価者側の心理だ。

人事部や歴代のマネジャーもまた、共同体の一員であり、絶えず「裏の承認」を気にしながら生きている。トップから「リスクを恐れず、尖った独創的な人材を採用しろ」と訓示されても、彼らは本能的に及び腰になる。

なぜなら、リスクを取って採用した「化けそうな人材」が実際に大化けし、会社に貢献するのは、10年、20年先の話だ。その頃には採用担当者はすでに異動しているか、定年を迎えている。手柄は自分には返ってこないのだ。

逆に、もし採用した風変わりな社員が「大外れ」で、現場で問題を起こした場合、その批判の矛先は即座に採用担当者へと向けられる。「あんな危うい奴をなぜ採ったのか」という非難は、担当者のキャリアにおける汚点となる。

その結果、選別する側は「能力が突出しているがリスクもある人間」より、「少なくとも失敗はしなそうな、無難で平均的な優等生」を優先的に選ぶようになる。

この「裏承認社会」特有の減点主義を生き抜いてきた経営層は、必然的にリスク回避型で現状維持をよしとする保守的なカラーに染まっている。組織が危機に瀕し、抜本的な変革が求められる局面において、この「選別されたエリート」たちが最も役に立たないという皮肉な現実がここに立ち現れる。

 

プロフィール

太田肇(おおた・はじめ)

同志社大学名誉教授

神戸大学大学院経営学研究科博士前期課程修了。京都大学博士(経済学)。三重大学人文学部助教授、滋賀大学経済学部教授を経て、2004年に同志社大学政策学部教授。専門は組織論、組織社会学。『日本型組織のドミノ崩壊はなぜ始まったか』『「承認欲求」の呪縛』『何もしないほうが得な日本』『同調圧力の正体』など著書多数。愛猫家である。

THE21の詳細情報

関連記事

編集部のおすすめ

高齢者雇用は大きなお世話? 気を遣う中堅、居づらいシニア【禁断の会社用語辞典】

岡本努(株式会社人的資本イノベーション研究所代表取締役)

「みなし残業代」はとても損した気持ちになる仕組み 【禁断の会社用語辞典】

岡本努(株式会社人的資本イノベーション研究所代表取締役)

日本の職場で最強なのは「平社員」 部下からも文句を言われ続ける管理職の苦悩

橘玲(作家)

日本企業で「必要以上に働かない社員」を増殖させた、働き方改革の落とし穴

坂井風太([株]Momentor代表)