2026年09月17日 公開

部下から「公正ではない」と反発された日本人上司――。
※本稿は、グロービス、高橋亨 著『海外で結果を出す人は、「異文化」を言い訳にしない』(英治出版)の内容を一部抜粋・編集したものです。
同僚と人間的な付き合いをすること以外にも、リーダーが心がけるべきことがある。
ここでは、特に海外で、部下とのコミュニケーションで大事な点は何かを説明したい。
私がいつも伝えているのは、次の3Eである。
1.エンゲージメント...Engagement
2.説明の徹底...Explanation
3.期待値の明確化...Expectation
※出所:『ブルー・オーシャン戦略――競争のない世界を創造する』W・チャン・キム/レネ・モボルニュ
1つ目のエンゲージメント(Engagement)について説明しよう。これは、仕事を進める際に「お互いが同じ土俵に乗り、互いの貢献を認めあう」という意味だ。ここで重要なことは、「同じ土俵」「互いの貢献」といった状況や関係性をどう作るかだ。
そのためには、リーダーが部下に向かって一方的に話をするのではなく、「双方向性」を意識することが重要だ。「あなたはどうしたいのか?」「あなたの意見を聞かせてください」というように、まずは上司が部下に敬意を払い、双方向のコミュニケーションを意識することが「互い」を分かりあうための第一歩だ。
もう一点、エンゲージメントを高めるうえでの大事な要素は、「透明性」であると言われている。
2つ目の説明の徹底(Explanation)は、まさに文字通りの意味だ。「なぜこのビジネスを行うのか」「なぜこの仕事が大事なのか」といったことを、論理的に丁寧に説明するということだ。一見、当たり前で簡単そうに見えるが、それ相応の準備と知識が必要になる。
自分たちの仕事の意味、仕事の特性、自社の強みや弱み、そのマーケットにおける勝ちのポイントを、きちんと「分析」しよう。その後、必要なアクションを考え、自分自身の言葉で表現して「共有」する必要がある。
3つ目の期待値の明確化(Expectation)は、仕事の成果や自己成長など、「私はあなたにどんなことを期待しているのか」を明確に伝えることである。そのためには、「相手の理解」と「相手からの期待値への共感」が必要だ。
部下の能力や想いを「理解」したうえで、上司から期待する将来像を示す。その将来像は示して終わりではなく、部下から「共感」を得ることが肝要だ。共感を得るためには、上司が一方的に期待を伝えるだけなく、部下のほうからも「自分はここまでしかできないだろう」「自分はもっとやれると考えている」といったフィードバックをきちんと受けて、すり合わせのステップを組み込むことが鍵となる。
すなわち、状況を極力イメージしやすいようなストーリーや、そこに関わった人の感情なども、受け手と共有するプロセスを作ることがポイントになる。ここぞというときには、どういう場所で相手に伝えるべきか。たとえば、プロジェクトの現場や工場の生産現場を訪れて、実際に業務の状況を見ながら話をすることも一案だ。
また、どういう形で、どのように伝えるかの具体的な手段も、きめ細かく考えてほしい。
たとえば、お客さんの声を録音したものを聞きながら、あるいは、現場の映像などを効果的に流しながら、疑似体験できるようにするのもいいだろう。

3Eのなかでも、この期待値の明確化(Expectation)は見落とされがちだ。
特に日本企業は、ハイコンテキストな文化、つまり暗黙の了解のうちに物事が進むことが多いと言われている。一方、海外では、「ここまではやるべき」「このレベルは当然達成されるべき」が組織の常識として共有されていない場合が多い。
そのため、きちんとコミュニケーションをしないと、上司と部下のあいだで認識がずれることが頻繁に起こる。
さらに、日系企業では、特に欧米などで使われる、職務ごとの仕事内容や期待値を示す「職務記述書(ジョブ・ディスクリプション)」が明確になっていない組織も多い。
そうした環境では、上司の側に、そもそも改まって期待値を確認する習慣もない場合が多い。そうすると、互いのずれが放置されたままになってしまう。
海外では、仕事の内容や期待値は、上司がしっかり示すべきで、期待値を示さないのは上司として失格だと見なされる傾向が強い。
実際、私がベルギーで部下を持った際に、年度末に行った部下との評価面談のなかで、いくつかの改善点を指摘した。
それに対して、ベルギー人の部下から最初に出た言葉が「公正ではありません(アンフェアー)」だったことに驚いた。
改善点として指摘したことが、当初からの期待であるなら、最初から伝えておいてもらわないと分からない。期待を伝えずして、あとからそれを指摘するのは公正ではない、という主張だった。
当時の私には、「あなたぐらいの経験と給与なら、当然この程度のことは言われなくてもやってもらわないと困る」という、ある意味で身勝手な基準があったのだろう。「言わずとも伝わるはずだ」の発想は、捨てなければならない。
もう1つの体験を紹介すると、海外の赴任先ではイランでもベルギーでも、「当たり前の話」を延々と話す人が多いことを不思議に思っていた。なぜあんなに長々としつこく話すのだろう?もうそこは分かっているから先に進んでくれ、と思って黙って聞いていた。
しかし、あとで気づいたのは、人によっては「当たり前の話」でも「分かっている話」でもないということだった。
生まれ持った環境や土地が変われば、「共通の当たり前」は存在しない。同様に「当たり前の期待値」なども存在しない。お互いがどんなことを期待しているのか、どんな「当たり前」があるのかを、しつこいくらいに確認する必要があると、これらの経験から学んだ。
ここで、期待値を伝え、確認する際に効果的な、「SMART」というフレームワークを紹介しよう。
その期待値は、
S:具体的であるか?...Specific
M:測定可能であるか?...Measurable
A:実現可能か?...Achievable
R:経営目標に沿っているか?...Relevant
T:時間軸は明確か?...Time-bound
あなたが部下に期待することに、この5つの要素が盛り込まれていることを確認すれば、具体的なイメージの共有がしやすくなるだろう。
ちなみにSMARTは、業務の目標設定時によく使われるフレームワークではあるが、私はこれに「W」の1文字を加えることをお勧めしたい。
W:ワクワクできるか...Waku-Waku
これは、グロービスの人事責任者が社内研修で「SMARTに足りないものは何か?」と問いかけ、答えとして示していたものだ。
半分はウケ狙いだったのかもしれないが、半分は真面目に伝えたかったのだと思う。確かにSMARTだけだと、論理性ばかりが強調されやすい。感情面も含めて期待値を具体化すれば、相手の共感も得られやすいだろう。
更新:09月17日 00:05