THE21 » カルチャー&トレンド » Twitter買収にもつながった イーロン・マスクの過激な「左派嫌悪」

440億ドルを投じたTwitter買収は、
※本稿は、クィン・スロボディアン、ベン・ターノフ 著、樋口武志 訳『マスキズム 新たな独占の時代』(飛鳥新社)の内容を一部抜粋・編集したものです。
彼は2010年代半ばになって極度にオンラインな人間になるという選択をしたが、それはプラットフォームに対する大衆の信頼が崩れつつあった奇妙なタイミングだった。
そして今度は、また奇妙なタイミングでプラットフォームの買収を決断した。2022年1月にTwitterの株を買い始めると、4月に同社の非公開化を提案。だがテック不況により買収は厄介なものとなる。
買収資金を借り入れる担保にテスラ株を用いたが、テスラ株の価値が2022年内に66パーセント近く下落したため、資金の調達には困難が伴った。
けれども最終的に売却は成立した。
純粋に財務的な観点から見れば、この買収はほとんど理にかなっていなかった。2022年10月にマスクが支払った440億ドルという金額は、Twitter社の2021年の収益の8倍以上。テック不況がTwitterを直撃していたことを考えると、マスクは苦境にあるプラットフォームに対して極めて高い金額を上乗せしていたことになる。
しかし短期的な収益性など問題ではなかった。マスクにとって、Twitterはビジネスをはるかに超えるものだったからだ。Twitterは、サイバネティック・コレクティブにおける中心的な結節点であり――そのうえウォーク・マインド・ウイルスにすっかり感染している場所だったからである。
このウイルスがもたらす危険に対して取りうる策のひとつは、接続を断つことだろう。
サイバーセキュリティの専門家は、ネットワーク接続をすべて物理的に切り離すことでコンピュータを「エアギャップ」状態にすることがある。これにより、攻撃者がシステムに遠隔からアクセスできないようにするのだ。
だが、マスクが選んだのは正反対の道だった。ネットワークから離脱するのではなく、ネットワークそのものを支配することにしたのだ。2022年12月、彼はリチャード・ドーキンスに向けて、こうツイートした。
「ウォーク・マインド・ウイルスは、世界で最も賢い肉のコンピュータのファイアウォールを驚異的なスピードで突破している!」。
彼のTwitter買収は予防策だった。
マスクによれば、オンラインで過ごす時間の長さゆえに、ウイルスの感染を早期に検知できたのだという。自分よりもフォロワーの多いアカウントは他にもあったが、彼には「最も多くのインタラクション」があったとタッカー・カールソンに語っている。そして、そのインタラクションを通じて、何かがおかしいと感じるようになった。
「このデンマーク国では何かが腐っている(シェイクスピア『ハムレット』の有名なセリフ)。このプラットフォームでは何かがおかしい」と振り返っている。
より具体的に言えば、政治的な社会運動がサイト内部の配線を腐敗させていたのだ。
Twitterは「美化された活動家組織」として運営されていた、とマスクは断じている。
Twitterは「政治思想の分布でいう極左...バークレーの政治」を反映したようなサイトになっていると言うのだ。
2020年10月にハンター・バイデンのノートパソコン絡みのスキャンダルに関するニュース記事をブロックしようとした同社の姿勢や、2021年1月6日の連邦議会議事堂襲撃事件後のトランプのアカウント永久凍結は、左翼による検閲の証拠であった。
Twitterは「文明を蝕むような影響を与えていた」と彼はジョー・ローガンに語っている。
なぜなら「極左」が自らの思想を広めるためにプラットフォームを悪用していたからだ。
これらの左翼たちは、「情報兵器――テクノロジー情報技術兵器――を与えられ、実質的にマインド・ウイルスであるものを地球の残りの部分に伝播させていたのだ」と彼は説明した。
買収の直後、マスクはサンフランシスコのTwitter本社のクローゼットから、古い「#StayWoke(目覚めたままでいよ)」のTシャツの山を発見した。2022年11月22日、プラットフォームがウォーク・マインド・ウイルスに感染していた証拠として、彼はTシャツの動画をツイートした。
これに続いて翌朝、マイケル・ブラウンを殺害した警官は正当防衛だったと結論づけた2015年の司法省の報告書へのリンクをツイートした。
BLMの合言葉である「『ハンズ・アップ・ドント・シュート(手は上げた、撃たないでくれ)』はでっち上げだ」とマスクは書いた。「すべてがフィクションだった」。
その日の遅く、彼は「新しいTwitterのグッズ」といって画像を投稿した。そこには「#Stay@Work(黙って働け)」と書かれたシャツが写っていた。
「Stay Woke(目を開いていろ)」から「Stay at Work(黙って働け)」への進化は、まさにマスクが企てつつあった反革命を見事に説明するものだった。マスキズムは初めから、ヒエラルキーを積極的に守ることに力を注いできた。支配するために生まれる人間がいて、支配されるために生まれる人間がいる。階級、ジェンダー、そして人種こそが、そうした区別の原則である。
一方でTwitterは、「ウォール街を占拠せよ」「Black Lives Matter」「#MeToo」を推進してきた。それはバーニー・サンダースのような草の根の政治家に人気を与え、アメリカの社会主義運動を再燃させる手助けをした。社会的不平等の問題に大衆の関心を向けさせてきた。こうしたすべての理由から、Twitterは破壊されなければならなかったのである。
そうしてTwitterの代わりに立ち上げられたのが、改めてボスが社内で権力を持つ新しいプラットフォーム「X」だ。そのボスは従業員に社会運動など求めていない。ただ「黙って働く」ことを望んでいる。
さもなければ、クビになる。マスクはTwitterのスタッフの80パーセント近くを解雇し、残った従業員――その一部は就労ビザの要件のために残らざるを得なかった人々だが――に、さらにハードに働くよう強いた。同時に、彼はプラットフォームのコンテンツを右派に寄せていった。
このSNSが「情報兵器」であるならば、それを自分の敵に向けて使わない手はない。
ウォークネスと戦うため、マスクは新たな病原体を開発し、カウンターミームの連鎖を通じて感染させていくことになる。それはまさに「反ウォーク・マインド・ウイルス」とでも言うべきものだ。
更新:08月28日 00:05