THE21 » カルチャー&トレンド » イーロン・マスクはなぜ 悪趣味なツイートを繰り返すのか?

イーロン・マスクにとって、SNSは単なる息抜きではない。
※本稿は、クィン・スロボディアン、ベン・ターノフ 著、樋口武志 訳『マスキズム 新たな独占の時代』(飛鳥新社)の内容を一部抜粋・編集したものです。
彼の最初のツイートは2010年だが、しばらくはカジュアルユーザーと言うのがせいぜいだった。それが変わり始めたのは2015年からである。
この年、彼は617回ツイートした――前年から226パーセントの増加。それでもマスクがソーシャルメディアでの論争にのめり込んでいく始まりにすぎなかった。2017年には1162回、1日平均3回の投稿をした。2018年には年間のツイート数が2288回に達した。そして2024年になる頃には、1日平均60回、時には1時間に40回も投稿するようになっていた。
テスラやスペースXといった、簡単には変えられない重厚な物理現実――鉱物の採掘、機械の調整、工場フロアにおける人間の労働の再定義――に深く関わっている人物にとって、Twitterは即時性という魅力を持っていた。
リチウムの心配をする必要もない。中国共産党をめぐる戦略を練る必要も、競争相手を振り払う必要もない。数千万人の観衆が見守るなかで、友人たちと「笑(lol)」とやるだけだ。ソーシャルメディアが持つカジノのような論理は、マスクに合っていた。いつでもスロットマシンに次なるコインを入れ、バズを祈ることができる。
しかしSNSへの没入は、ただの楽しいストレス解消ではなかった。それはマスクのビジネス戦略に欠かせないパーツとなっていったのである。
彼は長年、ネガティブな報道を自分への個人的な攻撃として受け止めており――かつてそれを「ピストルのグリップで殴られるようなもの」と例えたことがあり――自分や自分の会社について批判的に書くジャーナリストには、何か裏の動機があるのだと主張していた。
ソーシャルメディア上であれば、彼は見出しに対して反撃し、言説をコントロールすることができた。
「Twitterであれば、人々に直接語りかけることができる」
マスクは2016年にスペースXの幹部にそう語っている。新聞のようなメディアの伝統的な門番(ゲートキーパー)をショートカットすることで、彼は投資家たちを自分の世界へと深く引き込み、新製品や新機能への熱狂を焚きつけることができた。
彼のコミュニケーション・スタイルは常に未来予言的なものだった。金融ファビュリズムは、想像上の未来を「すでに進行中」のものとして扱い、その未来で基盤となるテクノロジーが成熟する前に、投機的な主張によって市場を動かすというロジックだった。批評家のフィル・ジョーンズは次のように指摘している。
「疲弊した市民の目の前に輝かしい未来の約束をぶら下げたソビエト連邦のように、マスクの成功も常に『あと10年先』にある崇高(テクノロジカル・サブライム)な科学技術の予測をぶら下げることで維持されているのだ」
しかしTwitter上では、こうした予測で即座に市場への影響を生むことができた。
2018年、マスクは「テスラを420ドルで非公開化することを検討している。資金は確保した」とツイートした。これはマリファナを示す420という隠語を使ったジョークだったが、投資家たちは真に受けてしまった。
果たしてテスラの株価は11パーセントも急騰した。これを受け、証券取引委員会から訴訟を起こされたマスクとテスラは、それぞれ2000万ドルの罰金を支払うことになった。それでも、この一件は彼のツイートがいかに素早く市場を動かせるかを示す初期の事例となった。
2020年5月には「株価は高すぎると思う」という投稿で、テスラの株価は最大12パーセント下落した。2021年1月にTwitterのプロフィール欄に「#bitcoin」と追加すると、この暗号資産は1時間以内に20パーセントも急騰した。まさにアテンション・アルケミーだった。ジャーナリストのマルコ・デラモが言うように、フォロワーこそが彼の「真の資本」だったのである。
しかし、いかなる優れた分析者たちも見落としがちだったのは、このモデルの中心にあるのが(たとえ悪趣味なものであれ)「ユーモア」であった点だ。これまでのマスクは「モノを作る」起業家だった。
しかし2010年代半ば以降、彼の成功は、より馬鹿げた刹那的なオンラインジョークによっても駆動されていく。
そうしたジョークのトーンは、4chan、Reddit、そしてゲーム界隈といったトロールの温床から借用されたものだった。時には、有害と言えるジョークになっていることもあった。
2018年、タイの洞窟に12人の子供が閉じ込められた際、マスクがおこなった見当違いの支援をイギリス人洞窟探検家のヴァーノン・アンスワースから批判されると、マスクはTwitter上で冗談めかして彼を「小児性愛者」と呼んだ。
アンスワースから訴えられると、マスクはマスコミを激しく非難した。裁判で勝訴したマスクは、契約していたPR会社を解雇。レガシーメディアと決裂し、トロールたちのインターネットに接近していった。SNSはマスクのメッセージ装置であり、彼が自ら示してきたように、金を生む装置でもあった。
更新:08月27日 00:05