THE21 » カルチャー&トレンド » 単なるロマンだけではない イーロン・マスクが宇宙開発に傾倒する理由

なぜイーロン・マスクは、インターネットの次に「宇宙」
※本稿は、クィン・スロボディアン、ベン・ターノフ 著、樋口武志 訳『マスキズム 新たな独占の時代』(飛鳥新社)の内容を一部抜粋・編集したものです。
2002年、マスクはパロアルトからロサンゼルスに移った。
「いまは少しインターネットに飽きていると言える」と、本人は前の年にCNNに語っている。シリコンバレーでは、ドットコムバブル崩壊の瓦礫から這い出してきた企業たちが、ようやくビジネスモデルを確立しようとしていた。
「プラットフォーム」と呼ばれる新しいシステムを構築し、ユーザーデータを収集することで、ターゲティング広告の枠を売るというモデルだ。
だがマスクが考えていたのは別のことだった。「火星を開拓する」。2002年3月に設立したスペース・エクスプロレーション・テクノロジーズ(スペースX)は、この野望を実現するための器として作られた。
その年の10月には、eBayがペイパルを買収。引き続き大株主だったマスクは、税引き後で1億8000万ドルを手にした。それはまさに、スペースXの事業を実現するために必要な資金だった。
シリコンバレーがプラットフォームの時代へ入ろうとしていた頃、マスクは逆方向へと進んでいた。ハードウェアのなかでも最も難易度の高いハードウェアーーロケットに全力を賭け、何百万ドルもの額を注ぎ込んだのである。
なぜそこまで?マスクに関する分析のほとんどは、彼が昔から宇宙に魅了されていること、特に人類を「多惑星種」にするという、何度も語られてきた願望に目を向けたものだ。
初めのうちから、この願望は終末論的なヴィジョンに取り憑かれたものだった。火星を開拓する理由のひとつは、地球が壊滅するような惨事が起きたときに、人類を存続させる手段になると信じていたからだ。
コンピュータ・システムには「フェイルオーバー」という概念がある。ある構成要素が故障したら、別の予備要素に切り替わる。
火星は、マスクがSFを読んで想像していたような文明崩壊が来たときのフェイルオーバーとなるのだ(『銀河ヒッチハイク・ガイド』は地球滅亡から始まり、アシモフの『ファウンデーション』シリーズは銀河帝国の崩壊によって物語が動き出す)。
だが2000年代初頭からのロケット事業への進出には、別の理由を見いだすこともできる。政府がインターネットを創り出したことで、彼は億万長者になれた。同じく宇宙も、次なる「公的資金が投じられる巨大なビジネス機会」だったのだ。
スペースXを創業した翌年、スタンフォードでの講演で、彼はこのロジックをかなり明確に語っている。
そこには似たところがあると思う。国防高等研究計画局(DARPA)がインターネット黎明期の推進力となり、初期の開発コストの多くを引き受けたのと同じように、NASAもまた、初期段階で根幹技術の開発に資金を投じることで、実質的に同じ役割を果たしてきたと言える。そこに商業の自由競争を持ち込めれば、インターネットで見られたのと同じ劇的な加速が起きるはずだ。
DARPAとNASAは、いずれも1958年に設立された組織だ。ソ連によるスプートニク打ち上げに衝撃を受けたアメリカの政権が、科学技術への政府支出を大幅に増加させたことがきっかけである。
DARPAはコンピュータとネットワークに重点を置き、インターネットにつながる投資をおこなった。
NASAは宇宙開発競争に力を注ぎ、やがてアポロ計画の月面着陸に結実する。だが冷戦が終結すると、「ビッグサイエンス」(科学技術への巨額投資)を正当化する地政学的根拠は失われてしまった。1995年にはインターネットが民営化された。マスクは、宇宙も似た道筋をたどるだろうと直感したのである。
つまり宇宙は、「国家との共生」というロジックのもとでマスキズムが探していた次なるフロンティアだったのだ。
マスクの言うように、宇宙でも、国家が資金を出して「根幹技術」の開発がおこなわれる。公的資金によってロケット工学分野にイノベーションが起きれば、スペースXの成功の核にできる。だがそれだけではない。国家は顧客にもなる。「宇宙に関心を持つすべての政府機関を顧客だと考えている」と彼は2004年のCNNのインタビューで語っている。
更新:08月27日 00:05