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技術的に不可能と言われた「仮想空間上に宇宙を作る」事業が実現できた理由

2024年12月11日 公開

佐藤航陽([株]スペースデータ代表取締役社長)

佐藤航陽

ビッグデータ解析やオンライン決済などを手がけるメタップスを起業、上場もさせた佐藤氏が次に選んだフィールドは「宇宙」。手がけている事業は、仮想空間上に宇宙を再現した「宇宙デジタルツイン」を作るというものだ。その壮大な構想は、どこから生まれ、どこへ向かうのか? (取材・構成:横山瑠美)

※本稿は、『THE21』2025年1月号の内容を一部抜粋・再編集したものです。

 

宇宙を「民主化」するプラットフォームになる

──スペースデータは、仮想空間上に地球を再現した「地球デジタルツイン」や宇宙環境を再現した「宇宙デジタルツイン」を開発しています。なぜ、こうした事業を始めたのでしょうか?

【佐藤】今から10数年前、クライアントからデータを預かって分析し、フィードバックする仕事をしているときに、「データから見えてくるものはこんなに多いのか」と驚きました。

それで、そのデータは人間の行動に関するものでしたが、地球や宇宙のデータを使えば、地球や宇宙を仮想空間上に再現することもできるのではないか、と思ったのです。つまり、デジタルツインを作れるのではないか、ということです。

そして、誰もが地球デジタルツインや宇宙デジタルツインを使えるようにしたら、新たな「世界」を作れるのではないか――。そう考えたのがきっかけです。

──地球デジタルツインで作られた「バーチャル新宿」を、人気オンラインゲーム「フォートナイト」で遊べるようになったことも話題になりました。また、国土交通省や国連との共同プロジェクトも行なっていますね。

【佐藤】国土交通省とは、消費者向けサービスや都市開発などに役立てられるハイクオリティなデジタルツインデータの開発を進めています。

国連とは、地球デジタルツインを使ってシミュレーションを行ない、災害対策などに役立てようとしています。2024年の国連「未来サミット」では、海底火山噴火と津波の被害に遭ったトンガ王国のデジタルツインを共同開発して、デモンストレーションを行ないました。

――もともと、このような形での事業化を考えていたのでしょうか?

【佐藤】始めた当初は、個人の趣味のようなプロジェクトで、ビジネスにしようとはまったく考えていませんでした。

ところが、2021年に東京やニューヨークのデジタルツインをSNSで公開したところ、JAXAも含め、世界中の1000社以上から「コラボしたい」「使いたい」というお声をいただきました。膨大な需要が確認できたので、趣味で終わらせるのはもったいないと思い、初めて本格的に事業化を考えるようになりました。

――近々、宇宙デジタルツインもリリースされるということですが(取材は2024年10月)、こちらについては、どのような事業を考えていますか?

【佐藤】まず、国際宇宙ステーションの内部を再現したデジタルツインをリリースします。宇宙は、低軌道上、月面、火星、深宇宙などで環境がまったく異なるため、微小重力や空気があって地球に近い環境の国際宇宙ステーション内の再現から着手しました。宇宙デジタルツインによって、宇宙に対するリテラシーがなくても宇宙を活用できる環境が生まれます。

これまでは、宇宙を使った研究開発などをするのは、ほとんどの企業にとって容易なことではありませんでした。しかし、宇宙デジタルツインを使えば、簡単に、低コストでできます。仮想空間にアクセスすればいいだけですから。

今の宇宙の状況は、1990年代前半のインターネットに似ています。多くの人たちにとって、「すごいものらしいが、自分たちには使えないし、使い方がわからない」という状況です。

インターネットが「民主化」された、つまり、誰もが使えるものになったように、宇宙も誰もが利用できるものにしたい。宇宙デジタルツインを、そのためのプラットフォームにしたい。将来的には、このプラットフォーム上に数多くの企業などが集まり、共同でスペースコロニーを構築することを構想しています。

 

「不可能」は技術ではなく想像力の問題

──地球デジタルツインや宇宙デジタルツインの開発には、高い技術力が必要だと思います。

【佐藤】当初、話をしたほとんどの技術者から、「宇宙や地球のデジタルツインは技術的に不可能」と言われました。

──それなのに、なぜ実現できたのでしょうか?

【佐藤】まったく異なる領域の技術をどのように統合すれば思い描いたことを実現できるのか、その設計図を描けたからだと思います。できないと言われていることの多くは、実は技術的な問題ではなく、人間の想像力の問題なのかもしれません。

地球デジタルツインや宇宙デジタルツインに使う技術は、人工衛星の情報を扱うGIS(地理情報システム)、AI、CGなど、複数の領域にまたがっています。

私は宇宙の専門家ではありませんが、普段から、仕事に関係がなくても、個人的な好奇心で様々な領域の技術をかなり幅広く勉強していて、それぞれの技術の限界点もイメージできています。だから、設計図を描けたのだと思います。

確かに、10数年前に構想した時点では、技術的に難しかった。地球や宇宙をCGで再現するには、莫大なコストがかかりました。

しかしコロナ禍前には、AIやCGの技術が急速に進歩したことによって、複数の領域の技術を横断して組み合わせれば実現は不可能ではなくなっていました。スペースデータでは、人工衛星の写真データなどをもとに、AIを使って、3DCGのデジタルツインを自動生成しています。これによって、コストもかなり下がりました。

──技術的にできるようになっているのに、なぜ他の企業や研究機関は手をつけないのでしょうか?

【佐藤】経済合理性がないからだと思います。何に使えるかが明確で、儲かる事業でないと、企業は動けません。大学などの研究機関にとっては、論文を書けるかどうかが大事です。

スペースデータの場合は、個人の趣味的なところから始めたので、自分の知的好奇心を制約なく突き詰められます。自己資金なら周りに反対されることもありません。経済合理性に囚われないのが、スペースデータの強みです。

──必要な各分野の技術者は、どのようにして集めたのですか?

【佐藤】私がアーキテクチャ(全体の構造)を作って、各パーツをそれぞれの領域の技術者にお願いしました。コロナ禍で、世界中で社会活動が停滞していた時期だったので、手が空いている技術者も多く、声をかけたら、副業やフリーランスを含め、各領域のトップ・オブ・トップが集まってくれました。特に、SNSに投稿した動画に反応してくれる人が多かったように思います。

──2025年には、スペースデータが開発した宇宙ロボットを国際宇宙ステーションに向けて打ち上げる予定だということですが、その目的は?

【佐藤】宇宙空間では強い放射線を浴びます。人間の身体はそれに対応できません。ですから、宇宙開発をスピーディーに進めるためには、地上から操作できるロボットが不可欠です。今回の宇宙ロボット打ち上げは、その技術実証の第一歩となります。

 

起業家こそ知的好奇心を追究できる

──知的好奇心が旺盛で、様々な技術の最先端を追っているというのは、研究者でないのが不思議なほどです。なぜ起業家の道を選んだのでしょうか?

【佐藤】私の知的好奇心の源は「世界がどうなっているのかを理解したい」というものです。そして、どうなっているのか理解できたものは作ることもできるはずだ、とも考えています。だから、世界を作ることに興味があるんです。

研究者は研究する場が限定されますが、起業家なら社会の中でいくらでも、ビジネスという体裁を取って「実験」ができ、世界についての理解を深められます。研究のための費用も自分で獲得できますし、ビジネスだからこそ会える色々な人との接点を作ることもできます。制約を受けずに自由に知的好奇心を追究するのに、これほど適した職業はありません。

スペースデータでは、知的好奇心を極限までドライブさせ、誰にも真似できないレベルまで技術を尖らせたら、売り込みをしなくても、世界中の人たちから声がかかり、事業化することができました。前職では、売上向上や会社の規模拡大のための施策に走り、技術を突き詰めるのを途中でやめたところがあり、反省しています。

ビジネスを成功させる一番の近道は、とことん技術を深掘りすること。これに尽きるのではないかと、今は思っています。

 

著者紹介

佐藤航陽(さとう・かつあき)

(株)スペースデータ代表取締役社長

1986年、福島県生まれ。早稲田大学法学部在学中の2007年に(株)メタップスを設立し、代表取締役に就任。15年に東証マザーズ(当時)に上場。17年、(株)スペースデータを創業。「テクノロジーで新しい宇宙を創り出す」ことを目的に研究開発を続けている。米経済誌『Forbes』の「30歳未満のアジアを代表する30人(Forbes 30 Under 30 Asia)」や「日本を救う起業家ベスト10」に選出される。著書に『お金2.0』『世界2.0』(ともに幻冬舎)などがある。

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2025年1月

THE21 2025年1月

発売日:2024年12月06日
価格(税込):780円

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