2026年06月29日 公開

人は話の内容よりも、表情やしぐさを覚えている――。
※本稿は、三木佳世子著『口下手でも選ばれる人がやっていること』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)から一部抜粋・編集したものです。
NHKディレクター時代、番組制作を通して、一流の演者の卓越した「非言語表現」を間近で見てきました。
特に「アナウンサー」は、非言語表現のプロ。原稿をそのまま読み上げるのではなく、「伝わる表現」を駆使して言葉を発しています。
さらに、話を聞くとき、VTRを見ているときといった言葉を発していない場面でも、表情や姿勢、身振り手振りなどの「非言語表現」を使い続けています。
番組制作において、アナウンサーは進行役。ビジネスシーンでいう「ファシリテーター」のような役割です。臨機応変な対応力や、ゲストの話を引き出す聞き方、場を回す力などたくさんの能力が求められます。ゲストにとっても視聴者にとっても違和感のない、信頼や好感を得る〝非言語表現の達人〞とも言えますね。
言葉を発さなくても、人はその立ち居振る舞いと空気感だけで、その人らしさを自然に醸し出しているもの。
スタジオに入ってくるだけで、その場にいる全員が心奪われ、魅了されてしまうような大御所。その場にいるだけで背筋が伸びるような、緊張感の漂うアンダーグラウンドな業界のドンもいました。
これまで番組ディレクターとして、有名無名にかかわらず2000人を超える方々にお話を伺ってきました。その中で印象的だった非言語表現を、まずはご紹介します。
まず1人目は、フリーアナウンサーの有働由美子さん。『あさイチ』の旅特集の制作を担当した際にご一緒しました。
放送終了後の反省会。有働さんのお顔を見ると、まつ毛がビヨンと取れ、おかしな向きに。それに気づいた有働さんは「ヤダ〜つけまつ毛が取れちゃったわ〜」としかめ面のあと、ケラケラ大笑い。飾らないお人柄と豊かな表情、その場の空気をユーモアでやわらかくするコミュニケーション力に、すっかり心奪われました。
2人目は、松坂桃李さん。2013年に、はじめて蜷川幸雄さん演出のシェイクスピアの舞台に挑戦するというタイミングのインタビューで、鈴木奈穂子アナと収録現場に行きました。
インタビュー前はもちろん、インタビュー収録中も、インタビュアーである鈴木アナを見るだけではなく、その空間にいるカメラマンや音声マン、私にまで言葉を伝えようと目線を向けてくださいました。
松坂さんの現場にいる全員に心を配る自然な振る舞いと、ただ目に映るのではなく心を込めて相手の目を見るという目線の使い方は、ご本人の腰の低さ、謙虚さ、心の美しさが伝わってくるようで印象的でした。
入社1年目にお会いした、有名な会社の社長の非言語表現も忘れられません。
カメラマンが同行しない、一人でお話を伺う事前取材のとき。緊張しながら応接室で待っていると、社長がスタスタと早足で入ってきました。目の前のソファにサッと腰をかけると、膝と腕を大きく開いてオープンマインド(先入観や固定観念を持たず、いろいろな意見を受け入れる柔軟な姿勢)の表現をしてくださったのです。
「で、今日はなんの話だっけ?」と問いかける表情も、口角が上がり目に力があり、取材に関心をお持ちなことが伝わってきました。新人相手でも、フラットに目線を合わせようとしてくださったことが、強く印象に残っています。
過去を振り返って、「何を話していたのか?」という話の内容が印象に残ることは、もちろんあります。
しかし、「どんな表情だったのか?」「どんな振る舞いだったのか?」といった、非言語の表現やインパクトのほうが、長い時間が経ってもその人の印象を決めているような気がするのです。
更新:06月29日 00:05