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小泉進次郎、大谷翔平...今のリーダーに求められる「寄り添う力」

2025年08月18日 公開

斉藤真紀子(国際インタビュアー)

政界の「人たらし」と呼ばれる小泉進次郎氏、日米で絶大な人気を誇る大谷翔平選手...。一見異なる分野で活躍する二人だが、共通して持つのが「寄り添う力」だと、国際インタビュアーの斉藤真紀子氏は語る。現代のリーダーに不可欠なこの「寄り添う力」について、書籍『たった1分で相手が虜になる世界標準の聞き方・話し方』より解説する。

※本稿は、『たった1分で相手が虜になる世界標準の聞き方・話し方』(PHPビジネス新書)を一部抜粋、大幅に加筆を加えたものです。

 

政治家に求められるコミュニケーション力

ピンチはチャンス。追いつめられるような状況でこそ、政治家に求められるのは、コミュニケーション力だ。

私たちに寄り添ってくれて、安心できるビジョンを示してくれる。
言葉を尽くすことで、逆境にあるときにこそ、強い求心力を持つことも可能になる。

しかし、昨年から今年にかけて、コメの値段が2倍の水準になり、「これからどうなるのか」と私たちに不安が広がっているときに、江藤拓農林水産大臣(当時)が「コメを買ったことがない」と発言してしまい、更迭されたのは記憶に新しい。

江藤前大臣は、「支援者の方々がたくさん(コメを)くださる」「売る程ある」と、支持者に向けたパーティの席で、サービス精神を発揮したのが逆に、多くの市民に伝わったことで、怒りをかってしまった。「令和の米騒動」といわれる今でなければ、同じことを言っても許されていたかもしれない。ところが、ここで「市民の気持ちがわからない」と印象付けてしまったのが、命取りになったのだ。

こうしたなか、5月に内閣支持率が底をついた石破茂内閣だが、小泉進次郎農林水産大臣が就任して、店頭に並ぶコメの価格を下げることに意欲を示してから、風向きが変わった。「備蓄米を5キロ2000円で店頭に並べたい」と具体的に示して、コメの価格の安定に取り組む小泉農相を評価する向きが広がったのだ。

 

「この人と話したい」と言われる鍵は心がまえ

コメ問題で、小泉農相は消費者に価格調整のアピールをする一方で、農家との意見交換をする様子をみせたり、コメの流通の仕組みを見直したいと発言したりして、真剣に取り組む姿勢を示してきた。

ここで強みになっているのが、「寄り添う力」だ。

私たちが、誰かと対話をするときに、「この人にはわかってもらえる」と信頼感を抱くのはどのようなときだろうか。笑顔、物腰のやわらかさ、礼儀正しさ。もちろん、こういった要素は好印象を与えやすい。しかし、私がジャーナリスト、インタビュアーとして、相手に信頼してもらうために、意識していることは少し異なる。

どれだけ相手と対等になれるか。それが大切なのだ。

相手が政治家の先生であっても、ハリウッドスターであっても、歳の差があっても、職業や住む場所が違う相手であっても、自分は「この人と話すうえでは、上でも下でもない」と、まず胸をはることから始める。

そのうえで、「話をしてみたい」「あなたがどのような人か知りたい」という気持ちを相手にわかるように、自己紹介をしたり、相手に対して質問を投げかけたりするのだ。

相手と対等になるには、特別なスキルがいるわけではない。「心がまえ」さえあれば、たとえ「この人と話すのはおそれ多いな」「大好きな人を前にドキドキしてしまう」と思ったとしても、しっかりと話を聞き、相手と話すことは可能になる。

とくに初めて会ったばかりの相手に対しては、すぐに「この人と話したい」と思ってもらうため、私も工夫していることがいくつかある。小泉農相もそう。政界でも「人たらし」と言われるゆえんだ。

2024年には、自民党総裁選で出馬を表明した小泉氏だが、「政界きっての人たらし」(2024年9月6日付、産経新聞社ウェブ版)との記事で、「人の顔や名前をすぐ覚える記憶力がある」「他人に話しかけるときは〇〇さんと気さくに読んで距離を縮める」と紹介されていた。

政治家は「〇〇先生」と呼ばれ、どうしても市民からすると、立ち位置が「上」になってしまいがちだ。にもかかわらず、先生が会ってすぐ、自分の名前を覚えてくれる。気さくに話しかけてくれる。すぐにお互いの立ち位置が「対等」になる。

「対等」になれば、萎縮したり、遠慮したりすることなく、相手に対して質問をしたり、本音を引き出したりできる。

いつも「対等に」話をすることを心がけている小泉農相だからこそ、この「ピンチ」で、寄り添うことができるのだ。

 

大谷翔平選手がアメリカで大人気なワケ

私はニューヨークで2001年9月11日の同時テロの取材もしたことがある。それまで人気が今一つだった政治家が、有事のときにコミュニケーション力で市民の心をつかむのを何度も目にした。

リーダーが現場を訪れて、人びとをねぎらう「寄り添う力」をみせて、しっかりと将来の「ビジョンを示す」ことで、人びとの不安を取り除き、将来へと生き抜くパワーにする。コミュニケーションや対話をとおしてこそ、ピンチをチャンスに変えられるのだ。

さらに、投手と打者、二刀流でメジャーリーグを沸かせている大谷翔平選手も「寄り添う力」の持ち主だ。

並外れた挑戦や、次々と打ち立てる記録だけが人気の秘密ではない。「個人よりもチームを立てている」と、アメリカメディアに絶賛されているのだ。

世界トップの選手が集まるメジャーリーグは、「ホームランを〇本打った」と、個人にスポットが当たりがちだ。スター選手になれば年俸は天井知らず。相性のいい勝てる球団だって選ぶことができる。

それなのに、大谷選手は勝利インタビューで「チームメイトとファンとでつかみとった特別なもの」「チームの一員でいられてうれしい」とチームを強調する。

個人としてはストイックに挑戦を続け、成果を出しても、自分のまわりに誰がいるのかを、浮足立たずに見つめているのだ。

私はアメリカのメジャーリーグやNBA(北米バスケットボールプロリーグ)で試合後、選手のロッカールームで取材をしたことがある。足を氷で冷やしたり、着替えをしているタイミングで、選手に試合を振り返ってもらうのは勇気がいる。負けた試合ならなおさら、誰とも話したくないタイミングだ。

しかし、スター選手ともなると対応が違う。野球のデレク・ジーター選手、バスケットボールのコービー・ブライアント選手に話を聞いたことがあるが、振り向いて、質問に一つひとつ丁寧に答えてくれた。

大谷選手も、通訳を交えていてもインタビュアーの質問にはうなずきながら耳を傾ける。誰にでもしっかり向き合い話をする。メディアの向こうにいる大勢の人たちと、言葉を交わしているかのように。

ひとりはみんなのために。スターになるほど、そんな言葉が似合うのは、多くの人たちを笑顔にさせ、力を与えることができるからだ。

寄り添う力が抜群な小泉農相、大谷翔平選手がこれからどのようなビジョンを示していくのか。対話やコミュニケーションを通じて、未来を示せるかどうかが今後にかかっている。

 

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