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高齢者雇用は大きなお世話? 気を遣う中堅、居づらいシニア【禁断の会社用語辞典】

2026年07月31日 公開

岡本努(株式会社人的資本イノベーション研究所代表取締役)

イラスト・川崎タカオ
イラスト・川崎タカオ

「役職定年」「定年延長」「定年後再雇用」......。

日本企業で働く人なら誰もが耳にし、どこか引っかかりを覚える言葉の数々。

本稿では、25年以上にわたり組織・人事の裏側を見てきたコンサルタント・岡本努氏が、みんなが薄々気づきつつもモヤモヤしている「会社の現実」をユーモアたっぷりに言語化。綺麗事だらけの建前を剥ぎ取り、理不尽だけどなぜかまかり通る日本企業特有のリアルな構造を解説します。

※本稿は、岡本努著『禁断の会社用語辞典 組織・人事コンサルタントが教える企業の現実』(日経BP)より内容を一部抜粋・編集したものです

 

【 役職定年 】

■本来の意味

・あらかじめ定められた年齢になった段階で、役職から外れること

■現実

・誰もが(内心はどうあれ、本人ですら)、当たり前に受け入れ納得する不思議な制度
・気分よく、役職から退かせるための発明
・役職者の(役定直前の)2、3年間のパフォーマンスを著しく下げる仕組み

<解説>

年齢を根拠にして、社員の役割や待遇を決めるというのは、不合理なようで、意外に合理的に機能していることも多い。それは、「退く/退かせる」という判断は非常に難しいものだからだ。スポーツであれば試合に出場できなくなるというわかりやすい基準がある。しかし、会社組織ではそうはいかない。しかも、当事者も自ら「退く」という判断をしないことがほとんどだ。

本人も「まだまだ自分は考える力もあるし、行動力もある。そもそも自分がいないと、この部門、このサービス、この専門性は成り立たない。だから、会社のためにがんばるのだ。だって、年齢なんか関係ないんだから!」と言いがちで、ずるずると歳を重ねてしまう。しかし、そう思っているのは本人だけかもしれない。自分のことを、自分基準のみで考えないようにしたいものだ。

 

【 定年/定年退職 】

■本来の意味

・あらかじめ定めた年齢に到達した時点で労働契約を終了させる制度
・日本では、60歳未満の定年は禁止されている
・65歳までの雇用確保(定年引き上げ・継続雇用・定年廃止のいずれか)が義務付けられており、さらに70歳までの就業機会の確保が努力義務となっている(2025年9月現在)

■現実

・あらゆる制度・ルールの中で非常に納得感が高い
・定年引き上げは国策だが、誰を幸せにしているかよくわからない
・定年がじわじわ引き上がるトレンドは、「一体、何歳まで働かされるのだろう?」と人を不安に陥れる

<解説>

「年齢なんかで活躍可能性は決められない。個人の実力や能力を見て決めるべきだ」という「正論」により定年を撤廃する事例も少しずつ増えている。ところが若手や中堅は、自身の活躍可能性が小さくなる、活躍機会が遅くなると落胆するばかり。しかも50代以上は、何歳まで働かされるのだろうと、それはそれで引退のきっかけを失い(定年前の退社は家族にも説明しにくい)、やはり落胆する人も多い。

ではどうすべきなのか。年齢を口実にした人材マネジメント(役職定年、等級別の最低在籍年数、年齢を理由にした昇格可否判断、そして定年など)を早々にやめて、若手・ベテランの区別なく真の実力主義による人事運用にチャレンジし、社員からの信頼を得るしかない。今のままでは「どうせうちの会社は、(年齢不問なんて)正論は無理でしょ」と思われるだけなのである。

 

【 定年延長 】

■本来の意味

・定年となる年齢を引き上げる制度変更
・正社員の身分を維持したまま継続的に雇用される

■現実

・「自分も定年まであと◯年」とカウントダウンして働いていた人ががっかりする
・「あと〇年で、あの人がいなくなる」とカウントダウンしていた現役世代ががっかりする

<解説>

多くの会社では「他社もやっているし、認められているから」という理由で年齢のみを基準に役割変更や年収の大幅カットを行っている。一方、定年延長は処遇を大幅に切り下げるきっかけを失うので、あまり行いたくないという会社も多い。

しかし労働力確保、さらには社会保障関連費用の制約という観点から、国の方針として雇用義務となる年齢が65歳から引き上げられる可能性は非常に高い。

こうした状況下では、今後、年齢のみを根拠にした人事政策は好ましくない。定年後再雇用にしろ、定年延長にしろ、年齢ではなく、本人の実力と希望、ノウハウや業務の継承状況、担っている役割、さらには会社のニーズなどを基準に、60歳になる手前から処遇を考えていくことをさらに徹底していく必要がある。

 

【 定年後再雇用 】

■本来の意味

・定年年齢に達し、希望する社員が、引き続き雇用されること
・雇用形態や役割を変更する場合もある
・一律(もしくは役割別の減額割合)で給与をカットし、1年間の有期雇用で毎年更新が一般的

■現実

・合法的に給与を大減額するための発明
・国も、会社も、本人も、(内心穏やかではないが)ぎりぎり折り合いがつき、納得できる絶妙な落としどころ
・そろそろやめないと将来の火種になる

 

【 高齢者雇用安定法 】

■本来の意味

・企業に「65歳までの雇用確保」を義務づけ、「70歳までの就業機会確保」を努力義務として求める法律(2025年9月現在)

■現実

・大きなお世話
・若手・中堅はがっかり
・現場は、シニアな部下を抱えて窮屈で大変
・人事部は、何の仕事をさせるのかが悩みの種
・財務部は、コストがどれくらい膨らむか冷や冷や
・当事者は、会社に迷惑をかけるのではないかと戦々恐々
・国は、社会保障コストを企業に押しつける大義名分ができて安心

<解説>

もちろん働き方の選択肢が広がると考えれば、プラス面も多い。会社は、年齢ではなく、実力を基準にしてマネジメントする力を磨くことが肝要だ。社員は、「会社が仕事を用意してくれる」という発想ではなく、自らの市場価値を常に見定めて、アップデートさせていく、もしくは市場価値に見合う仕事をする意識を持つべきである。

 

プロフィール

岡本努(おかもと・つとむ)

株式会社人的資本イノベーション研究所代表取締役

1999年トーマツコンサルティング株式会社(現合同会社デロイト トーマツ)入社。人的資本経営、人事中計、人事制度をはじめ組織人事全般に関わるコンサルティングを一貫して手掛ける。同社執行役員パートナー、Human Capital部門共同責任者等を経て、2024年4月、人的資本イノベーション研究所を設立、現職。主な著書に『要員・人件費の戦略的マネジメント』『「人的資本経営」ストラテジー』(共著、労務行政)、『HOW経営からWOW経営へ』(共著、日経BP)などがある。
同志社大学経済学部卒業、神戸大学大学院経済学修士。

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