
投資で成功する人は、相場を完璧に予測できる人ではない。
※本稿は、代田秀雄 著『オルカン思考 世界経済を味方につける「長期投資」の教科書』(Gakken)より内容を一部抜粋・編集したものです。
※本稿は2026年4月時点の情報に基づき、投資に対する著者の考え方を示したものであり、個別の金融商品を推奨するものではありません。金融商品の価値は状況によって変動しますので、購入を含む投資の判断はご自身の責任で行なうようお願いいたします。
どれだけ優れたファンドを選んでも、投資家自身が途中で解約してしまえば、長期投資の果実は得られません。オルカンをはじめとする全世界株式型が「長く持つのに向いている」という話は、まさにこの前提があるからです。
そして、長く持つために最も重要なテーマは、自分の心の扱い方にあります。下落や急騰をどう受け止め、どこで踏みとどまるのか。その方法を知らなければ、どんな優れたファンドも真価を発揮しません。ここでは、私自身がこれまでの投資人生で学んできた「下落局面で慌てないための考え方」を、行動経済学の視点も交えながら整理してお伝えします。
長期投資を続けていると、相場の急落には必ず遭遇します。たとえば、リーマン・ショック、2024年の急落、2025年4月の「トランプ・ショック」。こうした暴落を何度経験しても、資産が目減りする瞬間のざわつきは慣れることがありません。
しかし、経験を重ねるほど「ああ、また来たか」という諦観と、それでも手放してはいけないという静かな覚悟が身についていきます。長期投資という長い航海に出ている以上、嵐は避けられません。避けられないのなら、どんな天候でも舵を握り続ける技術を身につけるほうがはるかに合理的です。
相場が荒れたとき、人はついマーケットの動きに合わせて売買したくなります。しかし、短期の値動きに引きずられると、投資の軸は簡単に揺らいでしまいます。私が長い投資経験の中で気づいたのは、「相場に合わせて動くほど、判断はブレる」という当たり前の事実でした。だからこそ、売却の判断は相場の側ではなく自分の人生の側に置くことが重要です。
このお金は、明日の生活費に必要な資金なのか。それとも10年後、20年後の人生を支える長期資金なのか。前者であれば、必要に応じて必要な金額だけを必要なタイミングで現金化すればよいでしょう。しかし後者であれば、急騰や暴落に惑わされてはいけません。
短期的な利益確定の誘惑に駆られても、「売ったあとに安く買い戻せる確率は低い」というのが現実であり、多くの研究結果が示す通り、プロでも難しい芸当です。目先の利益に惑わされることなく、長期的な目線を貫いて投資の場から降りないことこそが、投資を続けるための最も確かな土台となります。
そして、この考え方は、いわゆる「出口戦略」にもつながります。「出口戦略はどう考えていますか」と聞かれることは少なくありませんが、ここでいう「出口」を「相場の上げ下げを見極めて売り抜けること」と捉えると、少し話がずれてしまいます。
「それなら、売るタイミングはどのように見極めればいいの?」と考える人もいるでしょう。その答えは非常にシンプルで「必要になる時期に合わせて売る」、ただそれだけです。相場が高いか安いか、天井か底かを見極めてから動く必要はありません。人生の中でお金が必要になったときに、その分を現金化すればよいのです。
積立投資は、相場の延長線上にあるのではなく、生活の延長線上にあります。毎月の積み立ても、相場に合わせて行うものではなく、自分の収入や生活リズムに合わせて淡々と続けていくものです。
そして、その積み立ての延長として、人生のどこかで「使う」場面が訪れます。このように考えると、積立投資における取り崩しを「相場の出口」として捉える必要はありません。取り崩しとは、人生の時間軸に沿って、資産の一部を生活に戻していくプロセスであり、「積む」と「使う」は対立する概念ではなく、同じ一本の時間軸の上に自然に並んでいるものなのです。
資産運用のコアとして選んだファンド―たとえばオルカンのような存在―を人生のパートナーとして位置づけるのであれば、よいときも悪いときも共に過ごす覚悟が必要になります。相場が順調な時期だけ付き合い、逆風になると距離を置く、という関係ではありません。
だからこそ、取り崩しは投資の終わりでも、失敗の結果でもないのです。それは、使うために育ててきた資産を、予定通り、その役割に応じて使い始めるだけのことにすぎません。
相場に「出口」はありません。しかし、人生には確実に「使いどころ」があります。積立投資とは、いずれ訪れる使いどころに備えて、時間をかけて着実に準備をしていく行為に他なりません。
更新:07月17日 00:05