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新NISAの恩恵を最大化させる配当株投資の「増配」とは?

配当太郎(投資家)

配当金投資とは

非課税枠の大幅拡充などの改訂を経て、今年1月にスタートした「新NISA(少額投資非課税制度)」。様々なメディアで大きく取り上げられていますが、株式投資の初心者としては「興味はあるけれど、できれば大きなリスクは負いたくない」と心配になるのも事実です。

Xのフォロワー17万人超を誇る投資家・配当太郎さんは、「新NISAと『配当株投資』は親和性が高く、相性が抜群。配当株投資の成長エンジンである『増配』を最大限に生かせば、リスクを低減しながら1カ月当たり20万円の配当金を得ることも可能」だと語ります。

※本稿は、配当太郎著『新NISAで始める!年間240万円の配当金が入ってくる究極の株式投資』(クロスメディア・パブリッシング)より、内容を一部抜粋・編集したものです。

※本稿は2024年4月1日時点の情報に基づき、投資に対する著者の考え方を示したものであり、個別の金融商品を推奨するものではありません。金融商品の価値は状況によって変動しますので、購入の可否を含む投資の判断はご自身の責任で行なうようお願いいたします。

 

「増配額の小ささ」を過小評価しない

配当株投資において投資先を選ぶ際は、まず、過去10年間の1株配の動きと増配率、取得利回りを見ることが大切です。
※取得利回り:株の購入額に対する配当金の割合。

ただし、日本を代表するような大型銘柄でも「16円→41円」「1.7円→5円」といった小さな金額が出てくるため、株式投資の経験がない人ほど「一度にもっと増えないものかな」と考えてしまう傾向があるようです。しかし、増配の「小さな金額」に惑わされてしまったのでは、配当株投資の本質を見誤ることになります。

大切なのは、「増配額」ではなく「増配率」で考えることです。例えば、ある企業の1株配を見ると、2023年3月期が「32円」、翌年の2024年3月には「41円」となっています。これを見て、「たいした金額ではないな」と思った人もいるでしょう。しかし、この金額を増配率で計算してみると、実に「28%」という驚異的な数字であることがわかります。

例えば、年収500万円のビジネスパーソンが、会社から「あなたは業績向上に貢献したから、来年のお給料は28%アップだ」といわれたら、翌年の年収は640万円にハネ上がります。掛け合わせる金額にもよりますが、少なくとも増配率を自分の生活に落とし込んで考えれば、そのインパクトの大きさがリアルに理解できるのではないでしょうか。

 

増配は利益を増やすための「メイン・エンジン」

配当金を増やしていく上で大切になるのは、
(1)自己資金による追加投資
(2)配当金からの再投資
(3)企業による増配
という3つの成長エンジンを回転させ続けることです。この中で、企業による増配はメイン・エンジンとなり、配当金からの再投資と自己資金による追加投資がサブ・エンジンとなります。

例えば、日本を代表する6つの大型銘柄を、それぞれ約100万円購入したとします。2014年3月期に買い、配当金からの再投資や自己資金による追加投資は一切行わず、2024年3月期まで持ち続けた場合、受け取る配当金は次のように成長します。

【銀行】
三菱UFJフィナンシャル・グループ
・持ち株数:2000株
・取得金額:100万円
・1株配推移:16円→41円
・配当金推移:3万2000円→8万2000円
三井住友フィナンシャルグループ
・持ち株数:300株
・取得金額:105万円
・1株配推移:120円→270円
・配当金推移:3万6000円→8万1000円
【商社】
三菱商事
・持ち株数:1600株
・取得金額:100万円
・1株配推移:22.67円→70円
・配当金推移:3万6272円→11万2000円
【通信キャリア】
NTT
・持ち株数:2万株
・取得金額:100万円
・1株配推移:1.7円→5円
・配当金推移:3万4000円→10万円
KDDI
・持ち株数:700株
・取得金額:105万円
・1株配推移:43.33円→140円
・配当金推移:3万331円→9万8000円
【損害保険】
東京海上ホールディングス
・持ち株数:1000株
・取得金額:100万円
・1株配推移:23.33円→121円
・配当金推移:2万3330円→12万1000円

資金的に余裕のあることが前提になる事例ですが、この6銘柄をすべて購入していれば、当初は約19万円だった配当金が、10年ほどで約60万円に増えていることになります。配当金からの再投資や自己資金による追加投資を行っていれば、受け取る配当金はさらに増えていくことになります。

 

企業が「増配」していればいいわけではない

企業による増配が配当金を増やすための成長エンジンであるならば、単純に「増配している企業を選べば、配当金の増加が見込める」と考えるかもしれませんが、必ずしもそれが正解とはいえません。記録的な連続増配をしている企業に投資しても、あまり増配の恩恵を得られないケースがあるからです。

例えば、日用品や化粧品の大手メーカー・花王は、1991年3月期以降、連続増配を継続しており、2024年12月期の配当予想「152円」が実施されれば、35期連続の増配を達成することになります。これは自ら更新してきた連続記録を塗り替えて、日本の「連続配当ランキング」の第1位になるなど、花王は「増配企業」の代表格です。

・配当金:70円(14年12月期)→「152円」(24年12月期)
・増配率:2.17倍
・配当利回り:2.63%

先に紹介した6つの大型銘柄の増配率は2.25倍~5.19倍、配当利回りは7.7%~12.1%でしたから、その数字と比較するとやや見劣りしてしまいます。連続して増配はしているものの、増配の恩恵はそれほど多くはないということです。

企業が増配する場合、業績が堅調で、企業の「稼ぐチカラ」(収益力・成長性)を示す1株益が上昇していることが大切になりますが、花王の場合は2019年から1株益が減少しているにもかかわらず、それと反比例して増配を続けている状態です。

その背景には様々な理由があると思いますが、増配を続けることで配当性向(当期純利益に占める年間配当金の割合)が徐々に高まっていることから、「企業の成長のための新しい投資をせず、増配の連続記録が目的化しているのではないか」という見方まで出ています。

このように、増配が続いてもそこに業績や1株益の上昇が伴わないと、取得利回りが上がらず、増配の恩恵には結びつかないこともあるのです。

 

「取得利回り」を上げるための2つのアプローチ

配当金投資の恩恵を大きくしていくためには、取得利回りを上げることが大切です。そのためのアプローチには2つの方法があります。

1つは、これまでお伝えしてきたように、安定感のある企業の株を買って持ち続けることで増配の恩恵を受けること。もう1つは、業績が堅調で株主還元も積極的な企業の株を、世界経済の影響などの外的要因によって下がったときに買うことです。こうしたケースでは、配当利回りが跳ね上がる可能性が高いため、十分に増配の恩恵を受けることができます。

つまり、淡々と株を買い進めることによって、この2つを上手に取り込んでいくことが大切なのです。長期的に株を買い続けていくと、株価が大きく下がるような局面に遭遇することもあるため、そのときは一段ギアを上げて買うことを意識していれば、配当利回りの恩恵を即座に受けることができます。

配当株投資を始めると、「できるだけ株価が安いときに買いたい」という気持ちが芽生えますが、株価が下がるのを待っている間に、企業が増配して株価がさらに上がってしまう、というケースは意外によくあります。株価の値動きばかりに目を奪われるのではなく、「自分が買えるときに買う」「買って持ち続ける」「その過程で株価が下がったら、さらに多く買う」といった意識を持つことが大切です。

著者紹介

配当太郎(はいとうたろう)

投資家

学生時代に株式投資を始め、リーマン・ショックを経て、配当株投資に目覚める。大型株を中心に投資し、保有銘柄の9割は配当金が年々増える「増配銘柄」が占める。X(旧twitter)のフォロワーは17万人超。毎日、配当株投資に関する情報を発信している。著書に『年間100万円の配当金が入ってくる最高の株式投資』(クロスメディア・パブリッシング)。

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