
リゾート運営会社「星野リゾート」の代表である星野佳路氏。温泉街の復興という新たなチャレンジに挑む今、何を語るのか。
※本稿は、7月25日放送「ガイアの夜明け×テレ東BIZ 連動特別番組ガイアの夜明け Beyond The Story」(テレビ東京)より内容を一部抜粋・編集したものです。
ーー今回街の再生に乗り出しているということで、どういった趣旨かということもご説明いただければと思います。よろしくお願いします。
【星野】「オソト天国」というコンセプトなんですよね。この街の各温泉旅館が、自分のところに泊まっている方だけではなくて、他の温泉旅館に泊まっている方も含めてサービスを提供するという街ぐるみの概念です。
いろいろな温泉旅館、経営者、地元の人もいますけど、その人たちを含めて一つのリゾートとしてデザインしていくイメージです。
ーーかつて施設の再生をいくつも手がけられてきた星野さんですが、「施設の再生」と「まちの再生」は何が違いますか?
【星野】ステークホルダーと言いますか、関与しなきゃいけない方々の数が圧倒的に多いですね。その分、合意形成の難易度ははるかに高まります。
「夏に花火大会をやろう」みたいなことは合意できるんですよ。
そうではなく、もっとハード面を含めて「コンセプトを変えていこう」とか、それを「世界にプロモーションしていこう」とかですね。戦略面で「本質的にこの温泉街を変えていこう」というような合意をとるのは、すごく難易度は高いですね。
これは観光の分野でいうと面的再生というのですが、点ではなくて面で再生していくわけですね。この面的再生の難易度というのはすごく高くなります。
ーー具体的な目標をお伺いしてもよろしいでしょうか?
【星野】国内の人気温泉ランキングで、10位以内に入ることですね。始めた頃は86位で今30位ぐらいになっているんじゃないですか。ただここから先はちょっと大変。トップ10は草津を筆頭に強豪が並んでいますからね。でも、不可能ではないと思っています。
ーーこの街の川では、子どもと犬が一緒に泳いでいる光景も見られますね。
【星野】川で泳ぐという行為はなかなか今できなくなっちゃって、都会のお子さん達なんかは、川で泳いだ経験なんてほとんどないんじゃないでしょうか?
私がデザインに入る前は護岸工事がされていまして、とても水に近づけなかったんです。それをこれだけ水に近づけるような通路を整備したというところは、私たちが最もこだわった部分です。
他にも足湯など、温泉街ならではの過ごし方を提案しています。
ーースタッフやチームの方に情熱を伝えるうえで、心がけていらっしゃることはありますか?
【星野】私は情熱や根性より理論を大事にしています。熱くなるのは趣味のスキーくらいのもので(笑)。
どんなに情熱を持っていても、理論に基づいた計画やマスタープランがない限りどうしても説得力に欠けるんですよ。
ですから、「みんなで熱く一緒にやっていこう!」と情熱に訴えるのは推進力としてはプラスになると思いますが、まずは正しい戦略が必要です。
ーーこの街の再生における、いわば教科書のようなものはありますか?
【星野】温泉街の教科書って世界のビジネスの研究者が研究しているわけじゃないので、私たちが何十年もかけて色んな場所で温泉地を見てそこから学んだことをマスタープランのなかに盛り込みました。
ーーじゃあ、むしろそのマスタープランは今後、教科書になっていくかもしれない?
【星野】そうですね。長門湯本には今、全国からの視察が集まり始めています。
なので、成功事例として認識していただける時代も来るんじゃないかなと思ってます。
ーー星野さんのなかで、「うまくいくかもしれない」と確信されたタイミングはありますか?
【星野】元からこの街で事業をしていた大谷さんという方が、自ら手を挙げて「自分の仕事として引き継ぎたい」と言ってくれたタイミングですね。このようないい人材がいたのは、本当に幸運でしたね。
大谷さんのような現地の方からしたら、集客が落ちて一軒、また一軒と旅館が倒産していくところを目の当たりにしてきたわけですよね。どうにかしなければならない、でもどうすればいいかわからない。伝統と若い感性のすれ違いもあったはずです。
そんな時に、私のような部外者が突然入ってきて再生プランを打ち立てた。
長門湯本温泉の若い世代の方々にとっては、みんなで乗るいいチャンスだったんだと思いますね。
こういう言い方をすると怒る人もいるかもしれませんが、沈みかけている古い船があって、そこに新しい船が現れたので、若い世代の人たちがこれに賭けてみようという風に思ってくれたという。そんな心理状況があったのではという私なりの解釈です。
ーー星野さんの提案のどのあたりが、若い人たちに響いたのでしょうか?
【星野】世界の観光地の事例と、それから観光地のマーケティング戦略の理論に基づいた提案だったからではないでしょうか。「理論的にこれは正しいはずだ。この戦略以外、長門湯本温泉のV字回復というのはあり得ない」と理論立てて説明しましたから。
「星野リゾートの代表が言っていたから」という理由ではないと思います。
やはり最後は理論の強さですね。

更新:07月24日 00:05