日経平均の下落から乱高下で多くの投資家が心を乱されるなか、冷静でいられる投資のプロもいる。投資歴25年の桶井 道(おけいどん)氏は2020年、資産1億円+年間配当(手取り)120万円とともに早期退職。現在は資産1.8億円+年間配当は240万円に達する見込みだ。
これまで数々の「経済ショック」を経験してきた桶井氏は「株式(優良銘柄)を買ったら放置で大丈夫」と述べ、「資産成長の仕組み化」を推奨する。本稿では、その理由や桶井氏をはじめ世界の投資家たちが取り入れる「投資メソッド」を明かす。
※本稿は、桶井道氏の著書『資産1.8億円+年間配当金(手取り)240万円を実現! おけいどん式「高配当株・増配株」ぐうたら投資大全』(PHP研究所)より一部引用しました。
2024年7月に行なわれた日銀による利上げ、それに連動した円高進行、また米国における経済の減速懸念も重なり、日本株は大暴落しました。現在も、ボラティリティ(価格変動率)の高い相場が続き、1日で1000円単位の上下動も珍しくなくなっています。とはいえ、私はいたって冷静、何も心配していません。
その理由は、2つの「視点」をつねに意識しながら投資をしているからです。
1つ目の「視点」は、投資を長いスパンで見ること。あなたは、株価がどうやって決まるかを考えたことがありますか?じつは株価が決まるメカニズムには、「短期」と「長期」で異なります。
株価は短期では、買い手と売り手の需給バランスで決まります。需給は金利や雇用統計など経済指標、地政学リスク、政治リスクといった要素によって日々変動します。今の乱高下相場は、「経済指標」に反応し動いている形です。
経済指標に反応して、短期売買(=短期投資)する行為が意味するのは「富の奪い合い」です。誰かが得をすれば、誰かが必ず損をします。新NISAから投資を始めたような"初心者"がプロ相手に「需給戦」を挑んでも、勝ち続けることはほぼ無理です。負けて、「やっぱり、投資は損をする」と結論付けてしまうのがオチです。
他方、株価は長期では企業価値で決まってきます。企業価値とは、端的にいえば、企業がどれだけ儲けているか(つまり売上高を伸ばして、利益も伸ばしているか)ということです。よって、長期投資は、経済指標を見るのではなく、「増収増益している」「ビジネスモデルが優れている」「今後も増収増益が期待できる」といった要素を満たす企業を探すことになります。
この視点で長期投資すれば、誰とも富の奪い合いをすることなく、皆で儲けることができるポテンシャルがあります。機動的に動けるプロを出し抜くことを狙わないので再現性が上がります。
コロナ・ショック以降の上昇相場で投資を始めた方も、今年から新NISAで投資した人も、実際には、この長期的視点で企業(銘柄)を選択されたのでなないでしょうか? 長い視点から成長すると思った企業に投資をしようと決めていたのに、目先の株価の乱高下に心を奪われて短期視点に陥っていませんか? そうなると当然、投資が怖くなってしまいます。でも「なぜその企業に投資したのか」という理由を思い出せば怖さが薄れると思います。
株価上昇を狙っているのであれば、目先の株価に心を乱されることはやめにしましょう。今起きている株価の乱高下もいったん忘れてちゃってください。あまりに辛いなら、私のように、株価も、日経平均株価も、ポートフォリオも、それらの動きが落ち着くまで一切見ない「ノールック投資」をお勧めします。株価の変動をいちいちチェックしなければ恐怖心も消えていきます。
次に、2つ目の「視点」について解説します。
日本株だけでなく、世界の株に目を向けてください。日本株だけしか持たなければ、日本の事情で株価が下がったケースでポートフォリオ全体への影響が大きくなります。なので、米国株も持っておくことを提案します。
米国には、世界を代表する巨大企業が多く存在します。と提案すると、「米国株だけ持てばいいんだね」という意見も出そうですが、それはそれで米国の事情で米国株が下がるケースもあります。そこで、私が実践するのが、日本、米国、さらには米国以外の外国も加えた、地球儀を俯瞰する投資=「世界分散投資」です。
私は世界30ヵ国ほどに投資をしています。そのほとんどが、東証に上場しているか、米国市場に上場している銘柄なので、投資初心者向きと言えます。
では、どうやって世界の優良銘柄を選べばいいのでしょうか。ぜひ次の2つの流れを頭に浮かべてください。
・地球の人口は増え続けています→必要とするモノやサービスの需要が増えます→そこに供給できる企業は儲かります→売上高や利益が増えれば株価は上がります
・人間は便利を追求し続けます→イノベーションが起こります→その分野で供給できる企業は儲かります→売上高や利益が増えれば株価は上がります
地球規模の課題を解決する、世界を発展させる、世の中を便利にする、誰かの悩みを解消する、世界やその国の衣食住を充たす、人の命を守る・救う......などの視点で企業を選べばいいのです。増える需要に応えて供給を増やせる企業、世界的な課題に対してソリューションを提供できる企業が、売上高や利益を増やして、株価を上げるということです。
こうした観点から私が投資している企業を「10銘柄」紹介しましょう。
(1)TSMC(台湾)
最先端の半導体を製造する、半導体製造のリーディングカンパニーです。スマホもPCもエアコンも半導体がなければ動きません。国防にも欠かせません。現代社会に必須となる製品です。
(2)ASMLホールディング(オランダ)
半導体製造装置のメーカーです。半導体の微細化において重要な役割を担う「EUV露光装置」は、世界でASMLホールディングしか製造できません。
(3)ノボ・ノルディスク(デンマーク)
糖尿病ケア製品の世界ナンバーワン製薬企業です。最近は、肥満症治療薬で注目されています。肥満を抱えて暮らす人は年々増加しており、その悩みを解決する企業になると期待しています。
(4)メドトロニック(アイルランド)
心臓のペースメーカーの世界大手です。その他、手術用機器・器具など、人の命を守る製品を作る医療機器のグローバルメーカーです。
(5)BHPグループ(オーストラリア)
経済成長するためには資源が必須です。街、建物を作るには資源が必要だからです。ビル建設には鉄を使います。鉄は鉄鉱石と原料炭が原料です。また、電線には銅が必要です。BHPグループはそれらを採掘している、3大資源メジャーです。
(6)コルテバ(米国)
世界の人口が増加し食料需要が増えるなか、異常気象、紛争などにより食料供給は問題を抱えています。コルテバは植物の能力を最大限に引き出すための遺伝子編集研究等により、収量が増加する種子の開発を行ってきました。現代農業を支える大手アグリサイエンス企業です。
(7)ディア(米国)
自動運転トラクターを開発しました。農家はトラクターが自動で作業する間に、別の仕事ができます。また、肥料をピンポイントで散布して、消費量を大幅に減らす農機もあります。ディアの農機は、自動化、省力化、効率化によって、農業のサステナビリティを支えていると考えます。
(8)ビザ(米国)
世界No.1のデジタル決済事業者です。きっとあなたの財布にもVISAカードがあるはず。世界200ヵ国以上に決済網を持ち、160の通貨に対応しています。世界のクレジット決済数のうち約40%も占めています。
(9)三菱商事(日本)
資源領域、非資源領域の両方で、世界中でありとあらゆる分野で事業をしています。それだけ貢献度の高い企業と評価しています。
(10)NTT(日本)
日本の通信を支える企業です。2030年ごろに実用化を目指す「IOWN構想」は、次世代コミュニケーション基盤です。これまでのインフラの限界を超えた高速大容量通信に期待しています。
つねに成長し続ける日本企業だけでなく、次の時代を担う海外の企業が中心です。
本社所在地が日本や米国である必要はありません(ただし、カントリーリスクのある国は避けましょう)。このような世界の優良企業を狙い撃ちして、当該企業の成長に寄り添うように長期保有することで、株価上昇に乗ることが再現性の高い投資といえるのではないでしょうか。
また、ここに紹介した銘柄は高配当株や増配株がメインですので、配当金も得られます。株価上昇+配当金で二度おいしい投資になるでしょう(詳しくは、新著『資産1.8億円+年間配当金(手取り)240万円を実現! おけいどん式「高配当株・増配株」ぐうたら投資大全』をご参照ください)。
これならプロと戦う必要がなく、投資したみんな(=株主みんな)で儲けることができるポテンシャルがあるといえます。
本稿のまとめとして、乱高下を繰り返す相場への対応法は次のようになります。
(1)大原則として、短期売買せずに長期投資する。短期で利ザヤを抜こうとせずに、長期で企業の成長に寄り添う投資をする。
(2)当該企業に投資した理由を思い出す。経済指標を理由に投資した訳ではないはず。
(3)長いスパンで投資を見る。短期の株価の動きに惑わされない。
(4)辛いなら「ノールック投資」がいい。株価を見るから辛くなる。
(5)世界分散投資をする。世界の優良銘柄を狙い撃ち。
いかがでしょうか。少しでも心がラクになっていただけましたなら幸いです。
更新:09月14日 00:05